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ぼくと花子さん  作者: 大器晩成の凡人
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97話 ぼくと花子さんと赤紙青紙⑱

 〜前回のあらすじ〜


 夫婦間のケンカの原因、それを解決するには至らなかったが、それでも夫婦なら乗り越えられる、そう主張する妻。花子さんもそれを否定はしなかった。加えて口裂け女のおかげで新生“赤紙青紙”夫妻として再始動するのであった。

「………………………」


「珍しいわね。あんたが静かだなんて」


 再会、仲直り、夫婦の絆を間近で見たバンパイアは空気を読んでたのか沈黙を貫いていた。それを花子さんはおちょくるように指摘。


「ご婦人よ、少し聞いてもよいか?」


「ええ、いいわよ。なにかしら?」


 花子さんの声が聞こえなかったのか、かなり真剣な表情のバンパイア。


「………………………」


「無いわよ」


 周りに聞かれたくない話らしく青紙の親指の付け根辺りで小声で話し、青紙はそれに答える。


「…………………………」


「そりゃあ、欲しいわよ。私も女ですもの」


 更に小声で質問を続け青紙はまた答える。


「うむ、手間を取らせてすまなかった。感謝する」


「あいつがお礼を言ったわ!」


 質問を終え片手を胸に当てお辞儀をしたバンパイア。気品を感じる、その姿を見て花子さんは茶化す。


「不思議な事ではなかろう?我は常識ある者には敬意を払う」


 やはりプライドが高くても紳士な部分も持ち合わせているのだろう。だが、その言葉を聞いて黙ってられない人が……


「あんた、私にケンカ売ってんの?」


 そう、毎回、入室許可の問答で揉める花子さんだ。


「はて、なぜそうなる?」


 誤魔化したり話を逸らそうというような雰囲気ではない。本当に心当たりが無いという顔で聞き返す。


「腹立つわぁ」


「ところでご婦人よ。最後にもう一つ聞きたいのだが、良いか?」


 一人相撲のような空振りに苛立つ花子さんを横目にバンパイアは青紙に最後の質問をするようだ。


「ええ、いいわよ」


「そなた、もしかして、裸であるか?」


 ここに辿り着くまでの道中、何度も繰り返された質問。それが前触れも無くバンパイアの口から発せられた。


「誰がゼンラよーーー!!」


 ゴフッ


「ウゴっ」


 これも何度も繰り返された流れ。オチとしては上出来だ。


「帰るわよ!あなた!」


「お、おう。待ってくれ」


 機嫌を悪くした青紙は女子トイレから出て行く。赤紙も後に続く。


「あ、もう行っちゃうんですか?」


 まだまだ学びたい事があったのだろう。マミーは呼び止めるように声を掛ける。


「………………あなた!」


 青紙は振り返り呼び掛けた。


「は、はい!」


「違うわ。あなたじゃなくて、えーと、マミー」


 赤紙はビクつきながら返事をしたが、夫を呼ぶ時の意味の“あなた”ではなかった。紛らわしいと思ったのか青紙は“あなた”ではなくマミーと訂正し呼び掛ける。


「私の事を友達って呼んだ事だけど……」


「あ、あれは本当にごめんなさい!」


 スーパーで赤紙の情報収集をしてる際、マミーが青紙の事を思わず友達と言って青紙の機嫌を損ねた事だ。


「別にいいわよ………ただし!あなたが私と同じ土俵に立てたらの話よ!だから、早く上がって来なさい」


「はい!」


 小っ恥ずかしそうに友達になる条件を提示し、最後の方は凄く優しい口調で励ます青紙。


 その言葉を聞いたマミーは嬉しそうに返事をした。何がそんなに嬉しいのか……それは“同じ土俵”という目標達成で友達になれるからなのか……否、恐らく、それ以上に“同じ土俵”というのが彼女にとって目指してる目標。それを励まし応援してもらえたのが嬉しかったのだろう。


「ふむ、我等も帰るぞ。マミーよ」


「あ、はい」


 ザーーーッ


 バンパイア&マミーカップルも帰ろうとした矢先、屋内に居ても雨音が聞こえるほどのどしゃ降り。


「うむ、帰るに帰れないな」


 顎に手を当て冷静に呟くバンパイア。


「あんたのマントは何の為にあんのよ?傘代わりにでもしなさいよ」


「何を言う!?我のマントはマント!用途はマント一択であるぞ!」


 マントに並々ならぬ拘りがあるバンパイアは断固拒否。


「あ、あの私が傘になるから」


 そう言うとマミーは器用に自分の包帯を網目状に編んでいき即席の傘が出来上がった。


「相合傘だ〜♪いいよ、それいいよ〜♪」


 こういう展開が大好物な口裂け女は大喜び。


「相合傘はいいとして、あんたは男としてそれでいいわけ?」


「むむむ!」


 男のプライドに問いかける花子さん、それに葛藤するバンパイア。


「あ、雨止みましたね」


「おお、そうであるか!よくやった!少年よ!」


 雨が止んだ事に気づいたぼく。ただそれだけだが、褒めるバンパイア。これで男のプライドも守られるだろう。


「ところでバンパイアさん、一つ聞いてもいいですか?」


「うむ。よいぞ、少年」


 恐らく誰もが思い浮かぶであろう素朴な質問にバンパイアは応じてくれるようだ。


「バンパイアさん、ここに来る時、歩いて来たんですか?日差しとか大丈夫だったんですか?」


 そう、バンパイアがここに来た時は一人……いや、赤紙も一緒に居たが状況的に手助けしたとは思えない。もし手助けしたとしても日差しを避ける術を持ってるとは思えない。だからこその疑問なのだ。


「フフフ、よくぞ気づいた!少年よ!それはこの衣装に日光を遮断する機能があるからである!そして、これはある美女に作らせた物なのだ!」


「美女?誰なんです、その人」


 突然話題に出た美女の素性を尋ねるぼく。


「我も聞き忘れてな、わからぬのだ。だが、美女は美女であったぞ。それは間違いない!」


 美女の正体はわからないが美女が美女なのは断言した。


「へぇ、ウカウカしてるとあんたの彼氏取られるわよ」


「……………」


 からかう花子さんだが、からかわれたマミーは冗談が通じなかったのか無言。


「じょ、冗談よ、マミー。あんたのバカ彼氏の言う美女ってのは美術品のようなものなのよ。ほら、モナリザの時のようなものよ。あんたを見るのと美女を見るのは全然違う感情だから安心なさい」


 からかった本人が慌てて前言撤回しフォローに入る。


「そう、なの?バンパイア」


「う、う、うむ、花子の言う通りである」


 マミーに真意を問われたバンパイアは挙動不審に答える。


「あんたね、そういうのはビシッと断言しなさい!マミーが不安になるでしょ!」


 不安になるような発言をした本人が次は説教。


「花ちゃん、花ちゃん、あれはあれでいいんだよ〜。だってンパちゃん照れながら言ってた〜♪」


 信用して良いのか問いかけて、返事が挙動不審だったら、その返事は信用に値しない。だが、口裂け女の情報で”照れながら“これを加味すると一気に信用に値する。後は言われた本人次第……


「よかった♪」


 バンパイアの言葉を受け入れたマミーは微笑んでいた。


 あまりに嬉しかったのだろう。顔の九割を覆う包帯が緩み口元や鼻先までもが見える程だ。なんなら、身体中の包帯も緩み……


「あ〜、ミーちゃん見えちゃう〜!」


「え?きゃあーーー!」


 あと少しで飛頭蛮や透明人間、もしかしたらサキュバスが大喜びの姿になる所だったが、口裂け女のおかげでマミーは瞬時に厚着へチェンジ。


「…………………」


「ほら、見なさいマミー。こいつ完全に鼻の下伸ばしてアンタに釘付けよ」


 一瞬だった。だが、目に焼き付けるには十分だったのだろう。バンパイアは言葉を……リアクションすら失っていた。


「バ、バンパイア、もう帰ろ」


「あ、う、うむ。帰るとしよう。さ、さらだばー」


 バンパイア&マミーのカップルも花子さんのトイレを後にした。だが、まだ気が動転しているバンパイアは去り際の言葉を噛んでしまった。


「………………」


「あらぁ?こっちにも鼻の下伸ばしてるヤツが居るわねぇ」


 バンパイア以外にもマミーの間一髪の姿を見て言葉とリアクションを失った人物がもう一人。花子さんはその人物の顔をニヤつきながら覗き込む。


「ぼ、ぼくは別に!」


 その人物はぼくだった。まだ子供とはいえ男、刺激が強かったのは間違いない。いくら否定しようが、顔を真っ赤にしながら言ったのでは説得力がない。


「少年、かわいい〜♪」


「からかわないでください!」


 口裂け女はからかってるつもりはなく、ただ純粋な感想なのだろう。そして、ぼくはこの恥ずかしい状況の中、彼女達から顔を逸らす、それくらいしか抵抗手段がなかった。


「や〜ん、かわいい〜〜〜♪」


 必死に顔を逸らすぼくの顔をはしゃぎながら追いかけ回す口裂け女。


「うっさい!」


 スパーンッ


「イタい!なんで叩くの?花ちゃん」


 流れ的に味方だと思っていた花子さんからの一撃に驚き戸惑う口裂け女。


 まぁ、今回のお話の終わり方を見失い始めたのでナイスな一撃だっただろう。


 そして、ぼくも救われただろう。


 【おまけ】


 旧校舎前の長い階段を上る人影が二つ。何やら言い争いをしてるようだ。


「休みの日なんだから普通に遊ぼうよ」


「うるせー!今日こそ旧校舎三階に行くぞ!」


 休日らしい過ごし方を望むのは取り巻き、旧校舎三階に到達する事に意固地になっているのはガキ大将。


 ザーッ


 すると突然の雨。しかもかなりどしゃ降り。


「うわー、雨だー」


「クソッ、メンドくせー。おら、走るぞ!」


 慌てる取り巻きを先導するガキ大将だが、向かう先は旧校舎。


「はぁ、はぁ、最悪だよー。だから、今日はやめようって言ったのに」


「お前がさっさと歩かねーからだろ」


 不本意ながら旧校舎に入った取り巻きは愚痴をこぼすがガキ大将は開き直る。


「う、ううぅ」


「ん、どうした?大丈夫か?」


 急にお腹を抱える取り巻き。それを気遣うガキ大将。


「お腹が……漏れそう」


 雨でびしょ濡れになり体を冷やしたのが原因だろう。


「さっさと行けよ!」


「ま、待っててよ!」


 取り巻きは返事を聞く余裕も無くトイレへ駆け込んで行った。


「ホント、最悪、最悪、最悪だよ」


 男子トイレの個室に入った取り巻きは不満に満ちた愚痴をこぼす。


「赤い紙……」


 すると声が聞こえた。その声は男性の声だ。


「青い紙……」


 次は女性の声。


「どっちがいい?」

「どっちがいい?」


 そして、次は男性と女性の声が同時に聞こえた。


「え?」


 突然の事に取り巻きは困惑し顔が引きつってしまっている。


「赤い紙……」


「青い紙……」


 また先程と同じように男性の声の後に女性の声。しかも明らかに個室内から聞こえる。


「ごくっ」


 その事に気づいた取り巻きは息を呑む。


「どっちがいい!」

「どっちがいい!」


「むぐ!?」


 おどろおどろしい声と共に二本の腕が便器から飛び出し取り巻きの顔を鷲掴み。


「うわーーー!!」


 気が動転した取り巻きは顔に取り付いた腕を払い除け男子トイレから飛び出した。


「おい!なんだよ、その顔!?」


 飛び出して来た取り巻きの顔を見たガキ大将は驚いた。何故なら取り巻きの顔には赤と青の手形がハッキリ付いていたからだ。


「うわーーー!」


「待てよー!」


 トイレから飛び出して来た取り巻きはガキ大将の制止に耳を貸さず、その勢いのまま旧校舎から出て行った。


 そして、ガキ大将はそれを追いかけ旧校舎から出て行く。彼の名誉の為に補足するが彼は決して一人で旧校舎三階を目指すのが怖かった訳ではない。友人のただならぬ状況を放っておけなかったのだ。そう、怖かったのでは……ない。


 【おまけ:二人の帰り道】


 夫妻のトラブルが解決し帰路に着くバンパイアとマミー。


 バンパイアは先を歩きマミーはその斜め後ろを二、三歩ほど離れた距離から着いて行く。


 並んで歩かないのは仲が悪かったりケンカしている訳ではない。お互いが恋愛に奥手なだけなのだ。


(“同じ土俵”かぁ、今の状況を進展させないとダメ……だよね。まずは手を繋ぐことから)


 マミーは青紙からの課題にも似たアドバイスを思い出し歩く速度を上げ一定の距離を保っていた二人の距離が徐々に縮まる。


(…………………やっぱり恥ずかしい)


 マミーはバンパイアの方へ手を伸ばしたが恥ずかしさで引っ込めてしまう。しかも残念な事にお世辞にもあと少しとは言えない距離だった。


(はぁ、ダメだなぁ、私。でも、私はバンパイアの背中を見て歩くのが好き……かな)


 引っ込めてしまった手と同じように先程と同じ距離に戻ってしまう。だが、マミーはこの距離感に満足している。これでは二人の関係が進展するには先が長くなりそうだ。


「…………」


「どうしたの?」


 急に立ち止まったバンパイア。それに気づいたマミーも立ち止まり理由を尋ねる。


「マミーよ」


「な、なに?」


 バンパイアは背中を向けたまま呼びかけた。いつもとは少し違う真剣な声に呼ばれたマミーは緊張気味に返す。


「その、だな…………我の隣を歩いてくれないか?」


 背中を向けたまま顔だけ少し振り返り提案した。


 マミーから見たバンパイアの顔は日差し対策のマスクにサングラスで表情は全く読み取れないが鼻の先を掻きながら提案する姿は間違いなく照れている。


「はい♪」


 願ってもない言葉にマミーはバンパイアの方へ駆け寄る。


「……………………手、手を繋いでも、よいか?」


 裏返った声でバンパイアは尋ねる。


「………はい♪」


 予期せぬ流れで青紙からの課題を一気に二段階進める事が出来て……いや、そんな無粋な理由ではない。ただ恋人との関係が進展した。それが嬉しくて仕方なかったのだろう。恥ずかしさでそっぽを向きながら手を差し出すバンパイアの手を握るマミー。


 まだ恋人同士でやる事は沢山あるだろう。だが、この二人はゆっくりだが周りの影響を受けちゃんと進展していくはずだ。


 そして、マミーと青紙が友人になる事も。


 ≪次回予告≫


 さぁ逃げろ逃げろ逃げ惑え 出来る事はそれしかないのだから 余りに理不尽 余りに無邪気 余りに余って無双状態 勝者はいるのか 敢えて言うなら被害者ばかり この場に集った不幸を呪え いや、呪う余裕があるなら逃げろ ひたすらに

 ようやく今回の話は終わりです!マミーとバンパイアは今回の赤紙青紙夫妻の影響を受けて今後どんな風になっていくか楽しみに、そして応援してあげてください! それでは

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