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ぼくと花子さん  作者: 大器晩成の凡人
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94話 ぼくと花子さんと赤紙青紙⑮

 〜前回のあらすじ〜


 経緯は不明だが、赤紙青紙(夫)を捕獲したバンパイアのおかげで夫妻の感動的な再会が実現した前回。

「あいつ、また私の縄張りにぃ!」


「花ちゃん、今は邪魔しちゃダメだよ。空気読も?」


 苛立つ花子さんを口裂け女が宥める。


 花子さんの苛立ちは赤紙青紙(夫)に向けられているものだ。それはぼくが花子さんと出会う前からの因縁らしい。互いにトイレが活動範囲という事もあり衝突したのだ。


「ふん!わかってるわよ!」


 さすがの花子さんでも感動的なシーンに水を差すような事はしないようだ。


「ホント、今までどこ彷徨いてたの?」


「んー、いやー、あちこち当てもなく、かな?」


 赤紙青紙(妻)の問いに人差し指で中指を掻きながら答える赤紙青紙(夫)。


「そう言う割には花子って女には会いに行ってたのよね?」


「あー、それは……」


 人差し指でツンツンと突くような仕草で夫に詰め寄る妻。


「なんであんな胸だけの女が好きなの!?私の母指球だってあの女よりふっくらして形も整ってるわ!」


 わからない人の為に説明すると母指球とは親指の付け根辺りの部位だ。手相でよく聞く生命線の円の内側と言えば分かりやすいかもしれない。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!何か誤解してるって!俺はここのトイレが良さそうだったから先客の花子さんに挑んだだけで……」


「なら、なんで私も連れて行ってくれなかったの!?」


 妻は激しく指を動かし追及。


「…………お前を危ない目に遭わせたくなかった」


「あなた」 


 夫の言葉を聞いた妻はトキメキでそれ以上言葉が出なかった。


「そろそろいいかしら?私の部屋でイチャつかないでくれる?」


「も〜、花ちゃん。もう少し我慢しようよ〜」


 痺れを切らした花子さんは夫妻の会話にカットイン。口裂け女は感動的なシーンに水を差した事に呆れている。


「や、やぁ、花子さん」


 夫は花子さんに気づくと軽く挨拶。


「あなた、誰に挨拶してるの?あっちのが花子でしょ?」


 まだ誤解が解けてない妻は口裂け女を指差す。指を差された本人は首を横に振り全力否定。


「私が花子よ。何か文句ある?」


 花子さん本人がようやく名乗り出た。


「なんでさっさと名乗り出なかったのよ!」


「そうだよ!花ちゃん!私、お尻いっぱい叩かれたんだよ〜」


 妻と口裂け女は猛抗議。


「いいじゃない。面白い展開になったんだし」


 悪びれる様子もなく答える花子さん。


「あなたねー」

「花ちゃんのバカ〜」


 いつの間にか先程まで尻を叩き叩かれ合っていた二人は同じように不満の視線を花子さんに向けていた。


「あはは、花子さんはそういう人なんです」


「なんか含みを感じるんだけど?」


 仲裁の意図があるのか、ぼくが会話に入って来た。だが、その言葉には「諦めてください」というニュアンスが含まれている。そして、花子さんはそれに気づいてる様子。


「とりあえず、二人とも再会できてよかったです」


 ぼくはあからさまに話を逸らし夫妻の再会を祝福。


「ありがとう♪あ、そうだ!あなた、聞いて!この子のおかげで私達また逢えたのよ!」


 妻は夫の親指を引っ張りぼくの前まで連れて来た。


「君がか!ありがとう」


 夫は深く頭を……拳を下げ感謝を伝える。


「いえ、ぼくは協力しただけで他にも協力してくれた人も居ますし……」


「そうである!見つけたのは我であーーーる!」


 謙虚なぼくの背後から自分の功績を主張するバンパイア。


「あんたは黙ってなさい。メンドーだから」


「でも、メンドーってトコは花ちゃんも一緒だよ〜」


 花子さんのツッコミに茶々を入れる口裂け女。長い付き合いなのに学習能力が無いのか、こういう事を言うと大抵この後……


 スパーンッ


「いた〜い!」


 やはり、普段から叩き慣れてるからだろうか、妻の時とは違い素晴らしい音だ。


「ところで赤紙青紙さん……旦那さんは今まで何してたんですか?」


 ぼくの素朴な質問。妻も似たような質問をしたが歯切れの悪い返答だったが……


「んー、まぁ、いろいろ、かな?」


 やはり、歯切れの悪い答えが返ってきた。


「あなた、なんでちゃんと答えてくれないの!?こんなんじゃ、私、あなたを信じていけない」


「ま、待ってくれ!泣かないでくれよ」


 手が垂れ下がり俯く妻を必死に宥める夫。


「花ちゃん、あれって泣いてるの?涙見えないよ?でも、出るとしたら手の平から出るのかな?」


「……あんたね」


 純粋な疑問なのだろうが呆れる花子さん。


「あの!ちょっといいですか?」


 夫妻の再会を一番祝福してるであろうマミーが会話に入る。


「たぶんですけど、自分から帰るのが恥ずかしいんだと思い……ます」


 自分なりの考えを話したマミー。その際、バンパイアの方をチラッと見たように思える。


「なんであなたが私の夫の事を理解できるのよ?根拠はあるの!?」


 赤の他人が妻の自分より夫の事を理解してるハズがない。そういった苛立ちがあるのだろう、少し威圧的に問う妻。


「えっと、男の人って好きな人の前だとカッコつけたり、必要のない見栄を張ったりするから」


「そうなの?あなた?」


 マミーの言葉を聞いた妻は夫に問う。


「え?いやー、ど、どうだろう?」


 問いに対しても歯切れの悪い返答。


「どうなのよ?」


「なぜ我に聞く?」


 花子さんはバンパイアに問いかけるが、なぜ自分に問うのかを逆に問う。


「あの子が言ってたの100パー、あんたの事でしょ」


「なぜそうなるのだ!我は見栄など張らん!何故なら事実だからな!」


 花子さんの推測を完全否定するバンパイア。まぁ、見栄を張ってる人がそれを認める訳がない。認めてしまえば、ある意味自己矛盾とも言えるからだ。


「ほら、こういう事よ」


 呆れたという口調で花子さんは妻に言う。


「ふふ、そうね。理解したわ」


「ふふふ♪」


 男という生き物のちっぽけなプライドを理解した妻は小刻みに震え笑みを……笑いを零し、マミーも釣られて笑う。


「あなた達、良いカップルね。羨ましいわ」


「え!?そ、そんなことないです!」


 突然、恋愛の先輩から褒められたマミーは照れながら否定する。


「いいえ、そんな事あるわ。だって、あなたはパートナーの事をちゃんと理解してるもの」


「お二人だって……」


 マミーも褒め返そうとするが、思い浮かばなかったのか言葉が出ない。


「私達はケンカしてこの有り様だもの。あなた達の協力がなければ、まだしばらく一人で探し回ってたと思うわ。私もあなたみたいにあの人の事を理解できれば……」


「あんた馬鹿じゃないの?」


 叱るような口調で花子さんが会話に入る。


「馬鹿!?なによ、いきなり!」


 狙っての事だったのかはわからないが、花子さんの言葉で自己嫌悪にハマる妻は花子さんへ意識を向ける。


「じゃあ、聞くけど、あんたはあの二人みたいな関係になりたいわけ?お淑やかに男を立てる女とプライドだけ高い馬鹿な男に?」


 説教モードに入った花子さんはマミー、バンパイアカップルを指差す。


「それは……」

「無理よ!あんたはそういうの向いてないから!」


 何か言い返そうとするが花子さんはその隙を与えず喋り続ける。


「それにあの子があの馬鹿を理解してるって言ってたけど、逆にあの馬鹿はあの子のこと全然理解してないのよ!長い付き合いのクセにあの子が女だって知ったの去年の事なんだから!」


 マミーの性別に関してはバンパイアをフォローしてあげたいが花子さんの勢いはそれを許さないだろう。


「あんたが羨ましがった二人はこんなもんよ!だから、あんたはあの二人を羨ましく思ってあの二人みたいなカップルになる必要はない。あんたはそのまま馬鹿な夫に言いたいこと言いなさい」


「………あなた優しいのね」


 説教を聞き終えた妻は穏やかな声で呟いた。説教が心に沁みたのだろう。


「ふん!別にそんなんじゃないわよ!ほら、さっさとあんたの馬鹿な夫に言いたいこと言いなさい!」


 否定はしたが、やはり花子さんの説教は優しさがある。


「…………あなた」


「…………な、なんだい?」


 笑いなど一切無い。これから妻は夫に話したい事を話す。夫はその空気に呑まれそうになりながら聞き返す。


「私ね、あなたと喧嘩してその後もしばらくイライラしたわ」


「あ、ああ」


 妻は語り掛けるように話し出す。夫はそれを邪魔しないように最低限の相槌。


「でもね、いつもあなたと繋いでた手が急に寂しくなって、落ち着かなくて、気づけばあなたを探し回ってた」


「ああ」


 妻の話を聞く夫は深く深く心に刻む様に相槌を打つ。


「こんな小さな体だから街中を歩き回るのも苦労したのよ。普通の人間には私が見えないから私は必死で避けて。でも、避けきれずに蹴られた事や踏まれた事もあった」


「ごめん」


 妻の苦労を知り謝る夫。


「地上は危ないから、ひたすら空を飛んで探し回ったけど、さすがに疲れて意識を失って落ちたりもしたのよ」


「………っ!」


 飛んでる最中に落ちたとは只事ではないが、今この場所に落ちた本人が居るのだから大丈夫だったのだろう。だが、そうだとしても夫は自分の不甲斐無さを感じ唇を噛みしめているのかもしれない。


「それからしばらくしてあの子と出会って久しぶりに手を繋いだの。少し安心したわ。でもね、やっぱり、あなたじゃないとダメみたい」


「こんな俺でも……か?」


 妻は夫の事を求めてる。だが、夫は妻を長い間、放ったらかしにした。その上、妻の苦労を知った。だから、こんな自分でも良いのか聞き返す。


「あなたが良い!あなたじゃなきゃイヤよ!あなたしかいないの!!」


 先程まで穏やかに語る様に話していた妻は感情を爆発させ想いを口に出す。


「ありがとう。すまなかった。俺もお前しかいない」


 二人は指を絡ませ手を繋ぐ。それは錯覚かもしれないが愛する二人が抱き合いキスをしている様に見えた。

 さて皆さんの母指球はどうですか?ふっくらして形の整った母指球ですか?もし赤紙青紙(妻)が人間の姿だったら世の男性を虜に出来るくらい魅力的な母指球なんです!なんかセクハラっぽくなってきたので  それでは

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