92話 ぼくと花子さんと赤紙青紙⑬
〜前回のあらすじ〜
花子さんの居る旧校舎に辿り着いたぼく達。三階を目指し歩みを進め、怯える赤紙青紙(妻)を他所にいつも通り用務員と挨拶を交わすぼくであった。
「着きましたよ」
遂に三階の女子トイレに到着……と言っても女子トイレの前である。
「いいわね。あなた達は手出ししないでちょうだい。これは女と女の戦いなんだから」
「わかりました」
「えと……はい」
女子トイレ前で赤紙青紙(妻)が忠告。ぼくは素直に返したが、マミーは今からでも誤解を解こうか迷いながら返事をした。
「じゃあ、開けますね?」
ぼくは女子トイレのドアを開ける。
「あ、しょうね〜ん♪それにミーちゃ〜ん♪それにそれに〜?」
女子トイレに入ると最初に歓迎してくれたのは長い黒髪で口にマスクを付けた女性だった。その女性は初対面の赤紙青紙(妻)を見つめると……
「花ちゃん!花ちゃん!新しい友達だよ〜♪」
気が早いとは思うがマスクを付けた女性は赤紙青紙(妻)を友達認定(仮)し、隣に居るおかっぱ頭の少女に嬉しそうに話しかける。
「うっさいわね。ここに来る初顔のヤツはだいたいトラブルの元でしょうが」
「花ちゃんのひねくれ者〜」
いつも通りの二人だ。そして、おかっぱ頭の少女が言ったようにいつも通りトラブルが起きるだろう。
「ふふふ、あなたが……あなたが私の夫を奪った女なのね。覚悟なさい!花子!!」
「え〜!私!?」
赤紙青紙(妻)は宣戦布告と同時にマスクを付けた女性を指差した。
マスクを付けた女性は指を差され驚きを隠せない。表情はマスクで分かりづらいが、まるで別の人の名前を呼んでるのにハッキリと自分を指差され驚いてるといった感じだ。
「思いっ切り引っ叩いてやるわ!」
「いや〜、助けて花ちゃん〜」
突撃する赤紙青紙(妻)に怯えマスクを付けた女性はトイレ奥へと走り出す。
「待ちなさい!」
赤紙青紙(妻)とマスクを付けた女性の間に割って入ったのはおかっぱ頭の少女だった。
「花ちゃ〜ん♪」
おかっぱ頭の少女の行動に感激するマスクを付けた女性。
皆さんは知っているだろうが、おかっぱ頭の少女こそが花子さんなのだ。そして、マスクを付けた女性はもちろん口裂け女である。
何故か勘違いをしている赤紙青紙(妻)に自分が花子さんだと正体を明かせば口裂け女は窮地から脱せるだろう。
やはり、二番目とはいえ口裂け女は花子さんにとって親友。親友のピンチは見過ごせないのだろう。
嗚呼、美しき友情。
「こいつを叩くのなら尻にしなさい!尻に!」
う……つ…くし………き…ゆう……じょ…………う。
「花ちゃんのバカ〜〜〜」
自分の正体を明かすどころか叩く箇所を指定した花子さん。
口裂け女は嘆きながら逃げる。
「逃げるんじゃないわよ!この泥棒ネコ!」
ペシ ペシ ペチ ペシ
「イヤだよ〜、逃げるよ〜」
トイレ中を必死に逃げ回る口裂け女だが、鈍足のせいで赤紙青紙のビンタは全弾ヒット。しかも花子さんの指示通り尻だけを狙っている。
「人の夫を奪っておいて!ちゃんと私と向き合いなさい!」
「え〜!?そんなの知らないよ〜!」
誤解されている上に人違いの口裂け女は理由も分からずひたすら逃げ回る。
「嘘おっしゃい!ここに花子が居るって聞いたのよ!ここに最初っから居たのはあなたとあっちの“花”って女の子じゃない!って事はあなたが花子なんでしょ!」
口裂け女が“花子さん”を“花ちゃん”と呼んだ事で消去法で口裂け女が“花子さん”だと勘違いをしているらしい。
「違うよ〜、私は口裂け女だよ〜」
「はぁ?あなた妖怪なの?」
ようやく名前を名乗った口裂け女。これで誤解は解けたらいいが……赤紙青紙(妻)がした質問が大きな分岐点になりそうだ。
「私は幽霊だよ〜」
正直に答えたが、時に正直さは人を救わない事もある。
「………ふざけんじゃないわよー!幽霊だったら元人間でしょ!そんなフザケた名前があるもんですか!」
「うぇ〜ん、だって、記憶が無いんだも〜ん」
そう、口裂け女は自分の本名を忘れている。都市伝説化した名前を仕方なく名乗っているのだ。
ペチペチペチペチペシペチペシペシペチ
尚も続く尻へのビンタは感情に合わせ加速していた。だが、普段聞き慣れている音とは少し違う。いつも聞く音は駆け抜ける爽快感さえ感じるような音だ。それに対して赤紙青紙(妻)が奏でる音は一定の音を保ててない。これは口裂け女が逃げ回ってるせいか、それとも花子さんとの技量の差なのかは不明だ。
そして、この状況を打開する救世者が現れる。
ようやく予定通りの展開に持って来れました。道中、遭遇したサキュバスや透明人間達や飛頭蛮はホント予定になく、脱線して長くなりました(^_^;) でも、オムツの伏線張れたので結果オーライです! それでは