82話 ぼくと花子さんと赤紙青紙③
〜前回のあらすじ〜
赤紙青紙(夫)の捜索を開始したぼく。簡単に見つかるわけもなく、最初の捜索場所は空振り。そして、花子さんとの修羅場を予感させながら捜索は続く。
「大きな建物でぼくでも入れる場所って言えば……ここかな」
赤紙青紙(妻)の要望で大きな建物を目指してたぼくが足を運んだのはデパート。ここなら1フロアに数ヶ所トイレがあり、子供でも自由に歩き回れる。
「そうね。こんなに広ければトイレの数も多そうだし、何か収獲があるかもしれないわ」
「それじゃあ、入りましょうか」
二人は手を繋ぎながら入店。
「あれ?なんか、人集りがありますね」
店内を少し歩いていると人集りを見掛けた。その人集りはデパートの中心、階層を貫くような吹き抜けになっており主にイベントなどが開かれる事が多い場所だ。
「あの人はこんな場所で目立つような事しないわ。他所見しないでさっさとトイレに行くわよ」
赤紙青紙(妻)に促され人集りを通り過ぎようとすると……
「マミーちゃーん、今日も可愛いよー!」
人集りの中から声援のような声が聞こえた。
「ちょっと待ってください!」
そんな声援のような声に思わずぼくは足を止め耳を澄ます。
「フランケン、かっこいい!」
「マミーちゃん、こっちこっち!手振って!」
「マミーちゃん、こっちも!」
「フランケン、この前は重い荷物ありがとね」
人集りの中からヒーローに憧れるような子供の声や感謝の声、アイドルのライブさながらの声などが聞こえる。
「ちょっと!なにしてるの?早く行くわよ!」
「すみません。もう少し、もう少しだけ待ってください」
赤紙青紙(妻)は急かすが、ぼくは人集りの中から、ある言葉………ある名前が出てこないか声に耳を傾ける。恐らく、ぼくは人集りの向こうに居る人物に心当たりがあるのだろうが、確信が持てないのだろう。なぜなら、その人物は……その人物達は人間ではなく妖怪だ。本人から町中で大道芸を披露して生活費を稼いでいると聞いてはいるものの、やはりどこか信じきれてないのかもしれない。だから、三人目の人物の名前が出るのを待っているのだ。
「何故、この我、バンパイアを賛美する声がないのだ!」
「やっぱりそうだ!」
三人目の人物の名前が出てぼくは確信した。まぁ人集りからの声援ではなく本人が言ったのは気にしないでおこう。
「ちょっと!どこ行くの?」
「知り合いなんです。もしかしたら、手伝ってくれるかも」
ぼくは赤紙青紙(妻)を抱き抱え人集りに突撃。子供という事もあり、あっさり最前列へ到達。
「わぁ♪」
頻繁に感情が昂る事が少ないぼくだが、それほど凝った作りでもない舞台の上に立つバンパイア一行を見て興奮気味。
「うるせー!さっさと骨折られろ!」
マミーやフランケンと違い、声援ではなく野次が飛ぶ。だが、それには悪意は感じられず、むしろ声援と同じくらい愛を感じる。それにしても『さっさと骨折られろ!』とはずいぶん変わった野次だが、その意味もすぐにわかる事になる。
「うむ、少し予定が入った。早速、披露するとしよう」
バンパイアはそう言うと最前列のぼくをチラッと見てアイコンタクト。
「フランケンよ、頼むぞ」
「ウガ!」
指示を受けたフランケンはバンパイアの腕を両手で掴むと……
ボキッ
「ぎゃあああぁぁぁあ!」
笑えないレベルの音と共にバンパイアは絶叫。なんとフランケンは曲がってはイケない方向にバンパイアの腕を曲げていた。
シュルルル
力無く垂れ下がる腕にマミーは自分の包帯を操り巻き付ける。そして、その包帯を解くと……
「折れてなーい♪」
折られた本人は先程の絶叫とは反対にコミカルな口調で元通りになった事をアピール。
「さすがマミーちゃん!俺らの心も癒してくれー!」
「ホント、どんなタネなんだろうねぇ」
「すごーい!」
マミーのアイドル的な人気に加えマジックのタネがわからないが歓声を上げる人集り。
その後もボックスに入ったバンパイアを複数の剣で突き刺していくマジックや切断マジックを披露。ありきたりなマジックに思えるだろうが、世に出る有名なマジシャンと異なるのが血飛沫が出る事だ。人集りの皆はそれもリアリティーを出す為の演出だと認識している。ちなみに人集りの方へ飛び散った血飛沫はマミーが紫外線ライトを照射し空中で蒸発するように消えていく。それもマジックでありバンパイアの紫外線に弱いという設定のキャラ作りだと信じられている。
「それでは今日はこれで終いにするとしよう。また来るが良い。眷族達よ」
「皆さん、また」
「ウガガァ♪」
バンパイア一行は挨拶をすると舞台裏へ。すると人集りは散開し、ぼくはその場で一人ポツン………いや、赤紙青紙(妻)を腕に抱えているので二人ポツン。
すると舞台裏からひょっこりマミーが顔を出し手招き。ぼくは駆け足で舞台裏へ突入。
「皆さん、ホントに大道芸やってたんですね!」
舞台裏に入るなり興奮気味なぼく。
「うむ、マミーから聞いているのだったな。どうであった?我の体を張った芸は?」
「他の人達はマジックだと思ってましたけど、あれって実際に折れてましたよね?他にも剣で刺されたり切断も本物ですよね?」
ぼくには確信があった。なぜならバンパイアは名前だけではなく正真正銘のバンパイアなのだから。弱点は多いものの不死身に近い再生能力を持つ。その事実を知っているぼくにはバンパイアが披露した芸がタネも仕掛けも無い実際に骨は折れ、剣は体を貫き、体は切断されていた事に気づいていた。
「左様。だが、剣を刺す時は心臓を避けなければならん。切断も流石に首は無理だ」
「あはは、そうですよね」
やはりバンパイアらしい縛りもあるようだ……いや、これは普通か。
「あ、マミーさんの血を蒸発させるのも見ててよかったです!どういう仕組みなんですか?」
「ふふふ♪あれはね、これを使ってるの」
マミーは舞台で使っていた紫外線ライトを見えるように手に持つ。
「これ紫外線ライトだから、バンパイアの血を蒸発させられるの。お客様に血を浴びせるわけにはいかないから。それに血で汚れた舞台や道具を簡単に綺麗に出来るから必需品なんだよ」
「へぇ!」
思ってたより重要な道具だった事に関心するぼく。
「ウガァ!」
「あはは、フランケンさんも人気でしたね」
フランケンが何を言ってるのかはわからないが、ぼくは感じた事をそのまま伝えた。
「ところで少年よ、それは誰の腕なのだ?」
「失礼な男ね。私は赤紙青紙よ!」
ぼくが答える前に腕本人である赤紙青紙(妻)が答えた。
「そうであったか。実に美しい手先であったから少し気になってな」
「あら、良い目してるわね♪でも、私には夫が居るから火遊びは他を当たってちょうだい」
「バンパイアには私が居るから!火遊びは……し、しません」
慌ててバンパイアと赤紙青紙(妻)の間に入って自分がバンパイアの恋人である事を主張するマミーだが途中で恥ずかしくなったのか最後の方は小声だった。
「う、うむ」
バンパイアもこういう話を人前でするのが苦手なのか照れている。
「あのー、皆さんはこのあと時間ありますか?」
「この後か……マミーよ、予定はどうなっている?」
「ええと……うん、何も予定はないよ」
マミーはスマホを操作し予定を確認。
「マミーさん、スマホ持ってるんですね!」
「あ、うん。仕事とかいろいろ必要だから」
「これが無ければ仕事が円滑に進まんらしい。実に不思議な機械だ」
マミーのスマホを突くバンパイア。
「バンパイアさんは持ってないんですか?」
「我には必要ない!」
キッパリ断言。
「でも、持ってたら、どこに居てもマミーさんと話せますよ?」
「うむ…………そうか」
顎に手を当て考え込んでる模様。自分で断言した言葉が揺らいでいるのだろう。
「バ、バンパイアはいつでも話せる距離に居るから大丈夫!」
どこに居ても話せる………恋人同士なら受け入れてもいいように思えるが、何故かマミーは距離的な理由でスマホは不要だと言う。何か後ろめたい理由でもあるのか、それとも会えない時間、話せない時間が愛を育むという事なのだろうか。ここはロマンチックな方の理由だと信じておこう。
「いつでも話せる距離に居ても私みたいになったら意味ないわよ」
「あの、何があったんですか?」
悲壮感漂う赤紙青紙(妻)の言葉にマミーは何があったのか尋ねる。
「夫と長い間、離れ離れなのよ」
「そんな!」
両手を口に当て驚くマミー。
「ぼくはその離れ離れになってる旦那さんを探すのを手伝ってるんですけど、良ければバンパイアさん達も協力してもらえませんか?」
ちょうど話題に出たのでぼくは本題を伝える。
「うむ………」
「手伝わせて!」
バンパイアの返答を待たずにマミーが答えた。
「あ、い、いいよね?バンパイア?」
バンパイア、マミー、フランケン、この三人のリーダーはあくまでバンパイア。だからなのか先に答えたマミーは確認を取る。
「安心せよ、我も同じ答えだ。少年よ!我が力を貸すのだ。この問題は解決したも同然であーる!」
マミーに優しく答えたバンパイアはぼくを真っ直ぐ見つめ、その自信に満ちた目で言い放った。
さぁ、バンパイア達がちゃんと社会に馴染み芸を披露してましたね!正真正銘タネも仕掛けもない芸……強いて言うなら不死身の再生能力がタネですが(*´艸`*) あ、それと次回の更新から、しばらく週1回に変更させてもらいます。大変申し訳ない(;_;) 更新日は月曜です! それでは