78話 ぼくと花子さんと濡れ女⑫
〜前回のあらすじ〜
コックリさんの便利な秘密道具で最後の目的地を目指す一行だったが、口裂け女&お菊は得体の知れないモノに追われ大パニック。無事に逃げ切り目的地に辿り着いた。
「ところでここは………男子トイレですね」
ぼくは周りを見回しトイレだと判断。女性用トイレには存在しない小便器が設置されており男性用トイレだと断定。
「こんな場所に出るなんて……誰にも見つからなくて幸運でしたね。もう少し考えて欲しかったなぁ、コックリさん」
デパートの時のような気配りをして欲しかったと残念がるぼく。
「とりあえず、ここを出よ~」
「そうですね」
ぼくはゆきおんなの手を引き男性用トイレから出た。出た先には喫茶店を思わせる雰囲気の空間が広がっていた。
「もしかして、ここが目的地ですか?」
「うん」
ゆきおんなは店をピックアップする時に店内の画像もチェックしていたのだろう。ぼくの問いに肯定する。
「とりあえず、席に着きましょうか」
ぼくとゆきおんなは空いてる席に着席。
「はみゅっ」
ガシャーンッ
早速、お菊は転倒。割れてしまった皿はお菊同様に霊体なので店に実害はない。
「こら!新入り!バイト初日で皿割ってんじゃねぇ!」
「ええ!?私なにもしてませーん」
店の奥から怒鳴り声が聞こえた。店に実害は無かったが個人にはあったようだ。
「なににしましょうか?」
「………」
ゆきおんなはメニューとにらめっこ。ぼくの声が耳に届かないほど集中している。
「これ」
ゆきおんなが指差したのは、かき氷全体がホイップクリーム包まれ縦にカットされたイチゴを数個乗せている商品。
「きみは?」
ぼくが選ぶターンだ。
「ぼくはこれがいいです」
ぼくが指差したのはかき氷をモンブランで包み、端っこに白玉が3つ置いてある商品。
「それじゃあ、店員さん呼びますね」
ピンポーン
「お待たせしました。ご注文でよろしいでしょうか?」
呼び出しボタンを押すとすぐに店員の女性がぼく達の方へ。恐らく先程、怒鳴られていた店員だ。
(あれ?この人どこかで見た事ある気が…)
「あの、お客さま?」
「あ、えっと、これと…これをお願いします」
記憶を呼び起こそうとしたが、女性店員の呼び掛けで中断。ぼくはメニューを指差して注文。
「【ショートケーキじゃないよ、かき氷だよ】と【モンブラ白玉】ですね。ご注文は以上でしょうか?」
「はい」
「ご注文承りました」
女性店員は店の奥へ。
「商品名見てなかったから気づかなかったけど、恥ずかしい商品名ですね」
「そう?」
ゆきおんなには伝わらなかったが、まるでセリフのような商品名。ノリの良い人ならまだしも普通の客が言うにはハードルが高い。自然とぼくと同じように指差しで頼んでしまうに違いない。
「そういえば、なんでかき氷食べたいなんて思ったんですか?」
ゆきおんなは自分の作るかき氷に自信を持っている。本人曰く味付きのかき氷は邪道らしい。その彼女が邪道と断じた味付きかき氷に興味を持ったのだ。その心境はいかに
「勉強」
「えっと…もしかして、新メニューの開発とかですか?」
ゆきおんなとの会話は一言で返してくる事が多い。そのせいで中々、会話のキャッチボールがスムーズにいかない。それを苦慮しての事だろう。ぼくは思考を巡らせ彼女の言わんとしてる事を自分なりに考え答えを出した。
「うん」
「味付きは邪道なんじゃないんですか?」
ぼくはあえて意地悪な質問をする。今のゆきおんなはどれくらい会話のキャッチボールが出来るか試す為だ。
「お待たせしました。こちらが【ショートケーキじゃないよ、かき氷だよ】。そして、こちらが【モンブラ白玉】です」
タイミング悪く、注文したかき氷が届いてしまった。今ので会話のキャッチボールは途切れ、再開するには難しい。
「あのー?」
会話の再開をするのも難しいのにこの女性店員はゆきおんなに話しかけてきた。
「なに?」
「バンパイア一座の方だったりしますか?」
(あ!この人、玉藻前さんと食事した時に話しかけてきた人だ)
ぼくは玉藻前のデートの時の事を思い出した。その時も女性は同じ質問をしていた。
「ちがう」
「そうですか、失礼しました…」
女性店員は肩を落とし店の奥へ消えていった。
「あの人、ンパちゃんと知り合いなのかな~?」
「どうなんでしょ?ぼく達、知り合いだって言った方がよかったんですかね?」
「さ~?」
ぼくと口裂け女は慎重に考えてるのか答えが出なかった。ちなみに『ンパちゃん』とはバンパイアの事である。
「あ、少年!ゆきちゃん、すごい真剣にかき氷を見てるよ」
「真剣?そうですか?」
「うん、今のゆきちゃんはマジだね」
真剣な表情と言われれば、そう見えなくもないが、眺めてるだけと言われれば眺めてるだけと言える表情。真剣2、眺めてる8の割合だ。
「あ、怒った!」
「え?怒ってるんですか?」
口裂け女にはゆきおんなの微かな表情の違いがわかるようだ。
「あれはきっと、こんなかき氷認めないと思ってる顔だよ~」
口裂け女の解説があったおかげで怒ってる表情に見えなくも……ないかもしれない。怒り1、眺めてる9の割合だ。ただし、怒りは限りなくゼロに近い。
「あ、食べた!」
「食べましたね」
ぼくと口裂け女は観察に夢中。
「感動してる!ゆきちゃん感動して喜んでるよ~♪」
「いま喜んでるんですか?」
「うん、今のゆきちゃんは新しいかき氷の可能性を見つけて大喜びだよ~♪」
実況の口裂け女は大喜び。たしかに今のゆきおんなは喜んでるように見えてもおかしくない。喜び4、ただ食べてる6の割合だ。だが、喜び4はそうであって欲しいという期待が込められており、実際は喜び2、ただ食べてる8だ。
「美味しいですか?」
せっかくだから、ぼくは感想を聞く。
「うん…はい、あーん」
ゆきおんなはスプーンですくったかき氷をぼくの口元へ。
「え!?あ、あーん」
“あーん”に至るまでの前段階をすっ飛ばし、いきなりの“あーん”。食べる?とかの質問を挟むのが普通だろうが、ゆきおんなにはそれは無かった。
「美味し?」
「はい!美味しいです。じゃあ、ぼくも…」
ぼくはお返しあーん。スプーンにはかき氷にモンブラン、そして、3つしかない大事な白玉を1つ乗せている。
「あむ」
「美味しいですか?」
「うん」
ふとゆきおんなの隣に視線を移したぼくの目に映ったのはお菊だった。テーブルの下から覗き込むようにぼくを見ている。なぜか口をあんぐり開け自分も食べたいという意思表示なのだろうか
「あの、お菊さんも食べたいんですか?」
その視線に耐え兼ねたぼくは尋ねる。恐らく、あと少しそのシュールな光景を見ていたら、ぼくは吹き出していた可能性がある。
「え?いえ、そうじゃなくて、幽霊だから食べれないですし、でも食べたくない訳じゃなくて、えと…少年は普通の人なのに幽霊や妖怪ともこんなに仲良く出来てすごいなって驚いたんですぅ」
驚きの口あんぐりだったらしい。お菊はまだぼくとの付き合いは浅いから知らないだろうが、ぼくはこれまでに多くの幽霊や妖怪と触れ合ってきている。だからこそ、ここまで親しく接する事も出来るのだ。
「ぼくはすごくないですよ。皆さんが親しみやすいだけです」
「そうかな~、私は少年の性格もあると思うよ~。だって、初めて会った時、マスク外した私の事をきれいだって言ってくれたし、普通じゃ言えないよ~?」
「そんな事あったんですか?」
口裂け女は初対面の時の出来事を持ち出し、その話に食い付くお菊。
「ありましたね。いま思えば恥ずかしいです」
「私、言われた事ない」
ゆきおんなもこの話題に参加。
「え?口裂け女さんのは聞かれたから答えただけで、それにゆきおんなさんには前に水着似合ってるって言った事あるじゃないですか」
ぼくは今の状況から逃れるため口裂け女にきれいだと言った経緯と過去にゆきおんなには水着を褒めた事を持ち出したが、それが不味かった。
「ゆきさんにも?羨ましい!」
テーブルから身を乗り出すお菊。
「言われて…ない」
ゆきおんなはきれいという言葉に拘っているのか、ほんの少し語気を強めた。どれくらい語気を強めたのか素人にはわからないだろうから数値でわかりやすく表すなら3%増だ。“!”が入る余地が無い程である
「…ゆきおんなさん、きれいです」
仕方なくぼくは褒める。ちゃんと感情も込めている。
「私は?私は言ってくれないんですか?」
「お菊さんもきれいですよ」
お菊の要望にも答える。こちらも感情を込めている。
「それじゃあ、私も~♪」
「くちさけおんなさんもきれいです」
口裂け女の要望にも答えるが、こちらには感情は一切込もっていない。この恥ずかしい状況を作り上げた元凶に対しての細やかな仕返しのつもりなのだろう。
「や~ん、ありがと~♪」
その本人には通じなかったようだ。
ゆきおんなちゃんの感情を表現するのは難しいので数値化してみました。伝わりましたかね^^;
それとまた謎の女性が登場しましたが、いつかちゃんとこの伏線も回収します!お察しの通りバンパイア関連です。 それでは