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ぼくと花子さん  作者: 大器晩成の凡人
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75話 ぼくと花子さんと濡れ女⑨

 〜前回のあらすじ〜


 ゆきおんなとゲームセンターで遊ぶ事になったぼく。そこでじゃんけんゲーム、ワニを撃退、さらに口裂け女にチョップをお見舞いしたゆきおんなだったのである。

 ぼく達は洋服売り場を目指す。


「口裂け女さん、前向いて歩かないと危ないですよ」


「私、幽霊だから平気だも~ん」


 ぼくは注意するが、不機嫌そうに答える。いろいろあってぼくとゆきおんなの動向を注視しながら歩く口裂け女。


「はにゃっ!」


 ガシャーン


 ぼく達の前方で女性が盛大に転倒。その拍子で手に持っていた皿を全て割ってしまう。


「ほら、あの人みたいに転んだら危ないです」


「だから、私は幽霊だから何かにつまずいたりしないもん」


 たしかに幽霊の体質でつまずくなんてありえない。


「少年はまた私を仲間ハズレにするつもりでしょ?」


「あれはわざとじゃなくて忘れてただけで…」


「あ、少年と口裂けさん♪」


 盛大に転倒した女性は2人を呼ぶが…


「忘れてたの!?ひど~い!」


 口論に夢中でその声に気づかず前を通り過ぎる。


「それに口裂け女さん、1人で先に歩いてましたし」


「だったら、呼んでくれればいいじゃん!」


「普通の人に見えない口裂け女さんを呼んだら、ぼくが周りの人に変な目で見られます」


「待ってくだ…はみゅっ!」


 ガシャーン


 この口論で目立ってもおかしくないが、幸い気に留める人はおらず、口論はもう少し続く。そして、後方で呼び止めるような声がしたが、2人は気づかない。


「じゃあ、喋らなくていいよ!私は仲間ハズレにされないように見張るから~」


 話は平行線で口裂け女は監視するようにぼくとゆきおんなの動向に目を光らせる。


「わかりました。喋りません!」


 故意に仲間ハズレにした訳ではないのに一方的に責められムキになるぼく。お互いムキになり大変だ。純粋な子供ならまだしも口裂け女は自称26歳の大人だ。大人になると自分なりの正しさが完成している。私生活などでのケンカはそのまま疎遠になってもおかしくない。それが大人のケンカだ。更に口裂け女のケンカ相手は小学6年生の子供だ。大人が子供に謝るのは更にハードルが高くなる。2人は仲直り出来るのだろうか、物語の都合上、非常に深刻な問題……


「ごめんなさ~い、喋らなくていいってのはウソだから~」


 謝ったのは口裂け女だった。


「わかってます。本気にしてませんから」


 泣き出しそうな表情の口裂け女に笑みを向け優しい口調で言葉を反す。小学6年生に言い負かされる自称26歳……いやいや、純粋な彼女の性格のおかげで今後も物語を続けられそうだ。


「よ~し、改めて洋服見に行こ~♪」


 機嫌が直った口裂け女は声高らかに叫んだ。


「もう着いてる」


 2人の口論を見守っていたゆきおんなが一言ぽつり。


「ホントだ~♪」


 口論に夢中で気づかなかったのだろう。3人は目指していた洋服売り場の目の前に立っていた。


「どうする?」


「いろいろ見て回ろうか~、そういえば、だいぶ前にもゆきちゃんと2人で服見に行った事あったね~」


「そうなんですか?」


「うん」


 ぼくはゆきおんなに尋ねると一言だけ答えた。


「あれはね~少年が花ちゃんのトコに来る数年前だったかな~、あの時は……」


~~~回想~………


 スパーンッ


「ひゃんっ!」


 回想が始まる寸前の所で何度か聞いた事がある音が聞こえた。


「ゆ、ゆきちゃん、なんでお尻叩くの?」


「口裂け女が余計な事したら止めるように頼まれた。花子に」


 トイレから移動する時、花子さんがゆきおんなに頼んだのはこういう事だったらしい。


「む~、余計な事じゃないもん!思い出話だも~ん!」


「まだ…叩き足りない?」


 ゆきおんなの対応は正しい。といっても物語にとってという意味でだ。思い出話をさせてあげたいが、その話は効果的なタイミングで披露したい。伏線を張ってだいぶ後に回収するのも悪くないが、その伏線の内容があまり印象に残らなさそうな場合はなるべく早く回収させる。それがストーリー構成である。おっと失礼、話があらぬ方向へ行きそうなので戻るとしよう。


「ごめんなさい、余計な事しませ~ん」


 お尻を守るように謝る。


「よ、ようやく追いつきましたぁ」


 先程から盛大に転倒していた女性が3人のもとへ辿り着いた。


「あ、お菊ちゃん!」


「お菊さん」


 ぼくと口裂け女はお菊の存在に気づく。そう先程から盛大に転倒していた女性はお菊だったのだ。


「この人、ここに来るまでに4回転んでた」


 ゆきおんなは口論する2人を見守りつつ追いかけて来るお菊を見ていたらしい。


「恥ずかしいですぅ」


「この人、誰?」


 ゆきおんなは初対面だったらしく恥ずかしがるお菊の素性を尋ねる。


「そっか、2人は初めて会うんだね。私が紹介するね♪」


 口裂け女が紹介してくれるようだ。


「お菊ちゃん、この人はゆきおんなのゆきちゃんだよ」


 お菊にゆきおんなを紹介。名前と愛称を紹介する事で親しみやすくなり、まずまずの紹介の仕方だ。


「ゆきちゃん、この人はお菊のお菊ちゃんだよ」


 続いて、ゆきおんなにお菊を紹介。


(『お菊のお菊ちゃん』って花子さんだったら、なにかしらツッコみ入れそうだなぁ)


 ツッコみ力が低いぼくは頭の中で花子さんなら、なんて言うか想像する。


「菊、よろしく」


「こちらこそ、よろしくですぅ♪ゆきさん」


 初対面の2人は互いに挨拶。


「そだ!お菊ちゃん、前に一緒に洋服見に行こうって言ったでしょ。どうせだから今見よっか!」


「はい♪あれ?口裂けさん、髪型変えました?」


 いつの間にか口裂け女の髪はポニーテールになっていた。


「うん、オシャレさんは髪型被りは厳禁なの♪」


 人それぞれだとは思うが口裂け女にとって髪型被りは避けなければならないらしい。


「そうなんですね!だったら、私も髪型変えてみたいなぁ」


「やってみようよ!」


 オシャレの話が出来る相手が少ない口裂け女は目を輝かせる。


「でも、どうしたら?」


「まっかせて~♪」


 そう言うと口裂け女はお菊の長い黒髪を左右に分けると


「じゃ~ん、出来上がり~♪」


 ツインテールの出来上がった。


「わぁ、ありがとうございますぅ♪」


「よし!次は洋服選びに行こう」


「はい!」


 オシャレに夢中の2人は洋服売り場の中へ。


「置いてかれましたね。どうします?ゆきおんなさん」


「あれ、見たい」


 ゆきおんなが興味を示したのは少し離れた場所にあるドラッグストア。


「じゃあ、行きましょう」


 今回のデートの優先順位の最上位はゆきおんなだ。彼女が興味を持ったのなら、ぼくは最善を尽くす。


(口裂け女さん、怒るかなぁ。服に夢中だし早く戻れば大丈夫かな)


 ぼくは気にしつつもゆきおんなとドラッグストアへ向かう。


「着きましたね。ゆきおんなさん、見たいものとかあるんですか?」


 ドラッグストアに着いたぼくはゆきおんなに尋ねる。


「病気、治したい」


「え!ゆきおんなさん病気なんですか!?」


 超常的な存在の妖怪ゆきおんなが病気持ちという告白にぼくは驚く。


「あの」


「どうなさいました?」


 ゆきおんなは店員に話しかける。


「薬、探してる」


「えーと、症状とかってわかります?」


「体、冷たい」


「冷え性ですね、こちらです」


 店員は丁寧に案内する。ぼくとゆきおんなはその後についていく。


「こちらの漢方薬など効果があると思います」


「ありがとう」


「またわからない事がありましたら、お気軽にお声掛けください」


 案内を済ませた店員は自分の仕事へ戻った。


「ゆきおんなさんも体の冷えを感じるなんて以外ですね」


「そんなの感じた事ない」


「え、じゃあ、なんで?あ、誰かに贈るんですね」


「ううん」


 言葉足らずのせいで謎が深まる。


「?」


「私に触ると冷たく感じる人も居るから」


 ぼくが理解に苦しんでいると追加情報。それはゆきおんなの体質の事だった。


「もしかして、自分の体質を治したくて薬を探してたんですか?」


「うん」


 薬を探してた謎は解決したが、ぼくの中でモヤモヤとした感情が沸き上がる。


「ゆきおんなさん、ここに着いた時に『病気、治したい』って言いましたよね?」


「きみ、怒ってる?」


 真面目な表情のぼくを見てゆきおんなは異変を感じる。


「はい、怒ってます。ゆきおんなさんのその体質が病気って言うんだったら、その体質のおかげで仲良くなれた人達はどうなるんですか?」


「私の体質で…仲良く?」


 ゆきおんなは困惑する。彼女の体質は触れただけで相手が嫌な感情を抱いてるかどうかがわかってしまうネガティブな面があるからだ。


「ぼく、初めてゆきおんなさんと手を繋いだ時はなにも思いませんでした。だけど、花子さんにゆきおんなさんの体質を聞かされた時、ぼくは嫌われてないってわかって嬉しかったです」


「嬉しかった…の?」


「はい。正直、ゆきおんなさん、なに考えてるかわからないから気にしてたんですよ」


 ぼくは当時の思いを吐露。


「でも、いま、怒ってる」


 たしかに今、ぼくは怒っている。それは間違いないのだが、ぼくの手はゆきおんなの手を握っている。彼女が気にしてるのはそこだ。怒り、恐れ、ネガティブな感情は触れていられないくらい彼女の体を冷たく感じる。なら、ぼくは痩せ我慢してるのだろうか?


「怒ってます。でも、ゆきおんなさんの事が嫌いな訳じゃありません」


「嫌いじゃないのに怒ってる………好きなのに怒ってる?」


 “嫌いじゃない”=“好き”という考えは極端な考えかもしれないが、こういう会話をしている時点で“好き”という事でいいだろう。


「す、好きにもいろいろありますけど、そうです」


 ぼくは“好き”というストレートな言葉に恥ずかしくなり少し補足を入れ肯定する。


「……なんで?わからない」


 ゆきおんなは考えるが、どうしても“怒り”と“好き”という感情が同居する仕組みを理解出来ない。


「ぼくはゆきおんなさんが、その体質を病気だと思ってるのがイヤなんです!その体質は……その能力は相手に触っただけで、好きを伝える素敵な能力じゃないですか!」


 ゆきおんなの体質を能力と訂正し、ネガティブな考えにポジティブな意見をぶつけた。正直、ぼくの意見には穴があるような気がするが、小学生がその穴を埋めるのは難しい。それでも気持ちは伝わるはずだ。


「……ありがとう」


 基本、言葉足らずなゆきおんなだが、これは最適解だろう。なにより彼女の微笑みを見てぼくは怒った甲斐があったと思ったに違いない。


「もう病気とか治したいとか言いませんか?」


「うん」


 問題が解決した所でぼくは不思議な経験をする。


(あれ?ゆきおんなさんの手、温かい)


 それはゆきおんなと繋ぐ手に温もりを感じたのだ。花子さんから聞かされてない現象が起き、ぼくは困惑するが、恐らく…いや、間違いなく良い傾向なのだろう。

 お菊がハプニング的に登場しました(*´艸`*) それは置いといて、ゆきおんなに変化が起きましたね!良いことです♪ それと回想に突入しそうで阻止されましたけど、いつか書きます! それでは

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