70話 ぼくと花子さんと濡れ女④
〜前回のあらすじ〜
正気に……元に戻ったゆきおんなはぼくとデートをしたいと言い出し、それに口裂け女も参加する事に。花子さんは体質的なものもあり不参加。メンバーは決まったものの問題が……
「とりあえず、問題なのは移動手段よね」
花子さんは問題点を指摘。
「ですねぇ、雪だるまで歩くと目立ちますし、それにまたびしょ濡れになっちゃいそうですし…」
「あ!でも、また可愛いゆきちゃん見れるかも♪」
楽観的な口裂け女。
「話が進まないから、あんたは黙ってなさい」
「は~い」
そう言われた口裂け女は両手を口に当てる。
「ゆきおんなさんは何か良い案ありませんか?」
「ある」
ゆきおんなは一言、そう答えた。
「聞かせてください」
「服を脱げば涼しくなる」
至って普通に答えた。
「ボツよ、ボツ!」
花子さんは強めにその案を却下。だが、ぼくはその案を聞いて何か閃いた。
「それ…アリかもしれません」
「あんた、女に金を出させた挙げ句、裸で町を歩かせる気?サイテー」
花子さんの軽蔑の視線がぼくに突き刺さる。
「んんん!んん、んん!」
口裂け女は両手で口を押さえたまま何か話したそう。
「喋っていいわよ」
「可愛いは正義だけど、変態は悪だよ、しゅうね~ん!」
許しを得た口裂け女は勢いよく喋り出す。
「違います!誤解ですよ」
もちろん、ぼくにそんな趣味はなく否定する。
「なにが違うのよ、納得いく説明あるんでしょうね?」
「えっとですね、着替えです!ゆきおんなさんって幽霊と同じように触った服に着替えられますよね?」
「うん」
ぼくの質問に頷く。
「その能力を使うんです!例えば、いま着てる服を脱いで能力で別の服に着替えれば裸だけど服を着てるように見えるんじゃないですか?」
「残念だけど、それはムリね」
あっさりとぼくの案は否定された。
「なんでです?」
自分の案に自信があったぼくは理由を尋ねる。
「私達のこの能力はね、無から有を造り出してるわけじゃないのよ。簡単に言うと私が着てる服が別の服になってるのよ。着替えって表現してるけど、実際は変化って言った方が正しいかもね」
つまり、服を着てないと便利な早着替え能力は使えないという事らしい。
「そういう仕組みだったんですか…」
幽霊と妖怪のお着替え事情が明かされた所でまた行き詰まる。
「ダーちゃんみたいにパッて移動できたらいいのにね~」
「それよ!」
何気なく呟いた一言に花子さんは閃く。
「首なしライダーさんに乗せてってもらうんですか?」
「残念だけど、あんたの大好きな首なしの出番はないわ。そもそも3人もいるのよ。運ぶのに手間がかかるでしょ」
「じゃあ、どうするんですか?」
「まぁ、見てなさい」
花子さんは自信に満ちた顔で紙と五円玉を取り出した。
「コックリちゃん呼ぶの?」
紙と五円玉、この2つのアイテムを見て最初に反応したのは口裂け女だった。
「ええそうよ、おいでませ!」
ポンッ
コックリさん登場。
「コックリちゃ~ん♪」
登場早々に口裂け女の強襲。
「とうっ!」
予想済みだったのかジャンプで襲い掛かる口裂け女の腕から逃れる。
「バカね、あんたが来るのはわかっていたわ」
余裕の表情を見せるコックリさんは軽やかに口裂け女の頭に着地。
「はあぁあ…あ…」
だが、口裂け女に触れてしまったのがマズかった。コックリさんは意識を失い力無く口裂け女の頭上から落ちる。
「危ない!」
それを口裂け女がキャッチ。そして
「う~ん、コックリちゃ~ん♪」
いつものように愛でる。
「話が出来ないからコックリを解放しなさい」
「は~い」
「はっ!私はなにして?」
呪縛から解放されたコックリさんは意識を取り戻した。
「あんたに頼みがあるわ」
「私があんたの頼みを聞くと思ってんの?」
毎回、ヒドイ目に遭わされているコックリさんからしたら当然の返答だろう。
「この子が遊びに行きたいんだって」
とりあえず、用件を伝える。
「ん?…私はなにすればいいわけ?」
『この子』がゆきおんなだと知るとすんなり手伝う方向に話が進んだ。どうやら、ゆきおんなの要望を叶えたくなるのはぼくに限った事ではないようだ。
「あんた、首なしに移動用の道を作ったでしょ?それをやって欲しいのよ」
「はぁ?なんのために?」
「こいつとデートしたいみたいよ」
花子さんは親指でぼくを指差す。
「モテモテね、子供のくせに!」
「あはは」
ぼくは苦笑い。
「ふん!花子、スマホ借りるわよ」
テレビ台の引き出しからスマホを手に取ると
「で?どこに行きたいわけ?」
「映画、買い物、かき氷」
ゆきおんなは単語だけで答える。
「待ちなさい、まずは映画館を探すわ…三ヶ所あるわね」
スマホの検索で周辺の映画館を調べる。
「ここ」
ゆきおんなが指差したのは一番近くの映画館。
「ここでいいわけ?」
「うん」
頷く。
「ちょっと、待ちなさい!そこよりここの方がいいんじゃない?ここならデパートに隣接してるから買い物も出来るわ」
花子さんも選定に参加。
「でも、一番遠いよ?」
「あんた、遠慮するんじゃないわよ。私の力に距離なんて関係ないわ!」
「じゃあ、こっちで」
映画館と買い物の場所は決まった。
「次はかき氷ね、なんかリクエストはある?」
「かき氷もここで食べられる」
コックリさんの質問に答えるが
「あんた、まだ遠慮してるでしょ?今の時代、かき氷専門店なんてのもあるのよ。あんたが行きたい場所を探すわよ。私は妥協なんてしないから」
「そうね、私も同じ意見よ」
花子さんはコックリさんに同意。そして、かき氷専門店の情報を片っ端から調べる。距離の制約はないため主にメニューを見てゆきおんなの反応を見る。
(コックリさんってなんだかんだ面倒見いいですよね)
(だね~)
選定作業をしている3人を離れた場所で見ていたぼくと口裂け女は3人に聞こえないように話す。
(ねぇねぇ、あの2人似てると思わない?)
(2人って…花子さんとコックリさんですか?)
(うん)
(たしかに)
ぼくは笑いながら答えた。
(でも、それ聞いたら怒りますよ)
(どっちが?)
(両方)
(そうだね~)
2人の会話は静かに盛り上がった。
「なぁにイチャついてんのよ?」
「なぁに盛り上がったんのよ?」
似た者同士の2人がぼくと口裂け女に話し掛けてきた。
「なんでもないです、花子さん」
「なんでもないよ、コックリちゃん」
密談をしていた2人は誤魔化す。
「まぁいいわ、スケジュールが決まったから、あんたらにも伝えるわ」
花子さんの説明が始まる。
「まずは一番時間が取られる映画を最初、その次に買い物、最後にかき氷よ。なにか質問ある?」
「ないで~す」
「ぼくもありません」
説明を受けた2人は特に反論もなく受け入れた。
「じゃあ、移動手段は私が説明するわ」
次はコックリさんの説明が始まる。
「これを使うわ!」
コックリさんが取り出したのは2枚のお札。1枚は白いお札、もう1枚は青いお札。
「白のお札は映画館のあるデパートへ、青のお札はかき氷専門店へ行けるわ。使い方はお札に念じるだけ。簡単でしょ?それじゃあ、この2枚を君に預けるわ」
そう言うとぼくにお札を預ける。
「なんでぼくに?」
「男の子はこういうのやりたがるでしょ」
偏見のような意見だが、否定は出来ない。
「あ!それとこれを君に、これはあんたに」
コックリさんはぼくとゆきおんなに追加でお札を1枚ずつ手渡す。そのお札には中央に[帰]と書かれている。
「これは帰りのお札よ。使用者の自宅に移動出来るわ。かき氷専門店はちょっと遠い場所にあるから現地解散しなさい」
「はい」
「うん」
まるで保護者のようなコックリさんからお札を受け取り頷く2人。
「コックリちゃん、私は~?」
「あんたは大人なんだから自分で帰りなさい」
「は~い」
残念そうな返事。
「これで準備は整ったわね。ほら、君!お札に念じてみなさい」
「はい……」
すると目の前の空間に穴が……その穴の向こうは暗闇が広がっている。
「この中を真っ直ぐ歩きなさい。ちゃんと目的地に着くから」
「わかりました、行ってきます」
「花ちゃん、コックリちゃん行ってくるね~」
「コックリ、ありがとう…花子も」
3人は空間に開いた穴に入りながら別れを告げる。
「はいはい、行ってらっしゃい」
「はいはい、行ってらっしゃい」
見送る2人は一言一句同じ言葉で見送る。
「あっ、ゆき!口裂け女のこと頼んだわよ」
「うん、まかせて」
呼び止められたゆきおんなは頷いた。そして、空間に開いた穴は閉じた。
幽霊や妖怪のお着替え事情がわかりましたね。このお着替え能力はあくまで私の作品内でのご都合設定ですのであしからず。なにはともあれデート開始です! それでは