68話 ぼくと花子さんと濡れ女②
〜前回のあらすじ〜
新生モナリザのお披露目会を自ら開いたモナリザ。ついでに人体模型の義手もアップデート。その結果、気兼ねなくモナリザを投げられるようになったのである。
「ホント喧しかったわ、主に1人が」
「私、モナリザさんと仲良くなれるのかな…」
「すごかったですね!首なしライダーさん」
3人はそれぞれ感想を述べた。花子さんは愚痴。口裂け女はモナリザのあのような姿を見たからなのか、不安が募る。ぼくは感動。
「あづーい」
声と共に3人の前に1人の少女が現れた。少女は廊下からトイレに倒れ込む。
「誰ですか?」
「知らないわよ」
「私も~」
ぼくは2人に尋ねるが2人も知らないらしい。倒れ込んだ少女は汗なのか、ただの水なのか全身ずぶ濡れだ。少女を中心に水溜まりが出来る程である。
「あんた名前当て得意なんだから当てなさいよ」
「別に得意って言った覚えはないんですけど…」
ぼくは仕方なく外見的情報を集める。
「水色の髪、白の着物…うーん、うつ伏せで倒れてるから顔があんまり見えないや。でも、首や手を見るとすごく色白ですね…」
ぼくが考えあぐねていると
「あっ!ゆきちゃんだよ、この人」
ゆきちゃん…それは口裂け女がゆきおんなを呼ぶ時の愛称である。全身ずぶ濡れのせいで彼女のチャームポイントのふんわりエアリーボブが台無しだ。ぼくが正体に気づけなかったのは、それが原因だ。
「大丈夫~?」
口裂け女はゆきおんなだと思われる少女を仰向けにし膝枕。
「ホントにゆきおんなさんだ」
ぼくは少女の顔を確認。疲れた表情だが、ゆきおんなである事が確認できた。
「あんた、どうしたのよ?」
「……あつい」
花子さんの問いに一言だけ返す。
「わかったわ、少し待ってなさい」
そう言うと花子さんは幽霊パワーで廊下のドアと突き当たりの窓を閉めた。
「えーと、リモコンは」
そしてテレビ台の引き出しからリモコンを取り出した。それはテレビのリモコンではない。
ピッ 電子音が鳴り何か機械を作動させたようだ。
ウィーン ガッコンガッコン ゴゴゴゴゴゴ コォォォ
天井から機械の稼働音が聞こえた。
「なんか、すごい音が……あれ、風?」
ぼくは音のする天井を見上げると涼しい風が吹きつけてきた。それは換気扇と思われる所から発生していた。
「これ換気扇じゃなくてエアコンだったんですね。やっぱり、これも首なしライダーさんが?」
ここのトイレはほぼ100%と言っていいほど、首なしライダーが作り上げた物だ。この換気扇に見えるエアコンも例外ではない。そして、換気扇に見えるエアコンの仕組みを知ったぼくはテンションが上がる事になる。その仕組みは花子さんに語ってもらうとしよう。
「少し違うわね。これは換気扇にもなるし、エアコンにもなるのよ!さっきの機械音を聞いたでしょ?あれは換気扇からエアコンに切り替わる最中の音だったのよ」
「すごーい!」
ぼくは子供のように大興奮…実際、子供なのだが。[合体]、[変形]、男の子なら大半がこの単語に興奮を覚えるだろう。この2つの単語以外にもう1つ加えるとしたら、それは……[モードチェンジ]だ。換気扇がエアコンに切り替わる…これはまさに[モードチェンジ]。それが、ぼくの心を撃ち抜いた一番の要因なのだろう。
「はいはい、首なしが好きなのはわかったから、そこを退きなさい」
「あ、はい」
ぼくはカーペットから退くと花子さんはカーペットを畳んだ。そしてテレビ台の引き出しから小型扇風機を出しテレビ台の上に置いた。
「ほら、こっちに連れてきなさい」
そう言われた口裂け女はゆきおんなを抱き抱えテレビの前に座らせた。そして扇風機のスイッチをオン。
「ホント、何があったら、あんな全身びしょ濡れになるのよ?」
まだ質問に答える元気がないゆきおんなは口裂け女に支えられながら風を浴びる。次第に元気を取り戻してきたゆきおんなに変化が
「すぅずしぃー♪」
足を放り出して座り、扇風機の風を受け爽やかな笑顔を見せる。髪も乾きチャームポイントのふんわりエアリーボブが出来上がった。
「あの、花子さん。この人、ホントにゆきおんなさんなんですか?」
「そ、そのはずよ」
「ゆきちゃん、いつもと違って可愛いね~」
3人は今のゆきおんなに違和感を感じている。なぜなら、本来の彼女は人体模型ほどではないが、あまり感情を見せない。
「花子、水かけて!」
「は?」
「みぃずぅ、かーけーてー!かけて!かけて!」
駄々っ子のようにせがむ。
「わ、わかったから落ち着きなさい。ここだとテレビが濡れるから奥に行きなさい」
「はーい」
ゆきおんなはトイレの突き当たりへ移動。
「いくわよ」
「うん♪」
すると洗面台から水が流れ出し、その水は花子さんの繊細なコントロールで紐状に伸びゆきおんなの方へ。
「あぶぶぶぶぶぶぶ」
水はゆきおんなの顔に直撃。せっかく乾かしたばっかりなのに…だが、その水を楽しそうに浴び続ける。
「これでいい?」
花子さんは水の止め尋ねる。
「ぷはっ…うん♪」
満足そうな表情。先程からゆきおんならしからぬ行動や言動ばかりだが、それはもう少し続く。
「ぶるるるるる」
ゆきおんなは体を身震いさせ周りに水滴が飛び散る。それは水に濡れた犬のようだ。
「ぷ…あはははは」
それを見た花子さんは笑った。普段見せるSっ気のある笑いではなく純粋な笑いだった。
ゆきおんなは再びテレビの前に戻ると足を放り出して座り、扇風機を占領。
「ととのうぅぅ♪」
どのような感覚かはわからないが、ととのったようだ。
「ゆきおんなさん、ホントにどうしたんですかね?」
「私にもわからないわよ。でも、面白いから、しばらくこのままでいいわ」
「だね~♪」
3人は観察を続けていると
「花子、遊びに来た」
感情をあまり感じられない言葉…通常のゆきおんなに戻ってしまった。
今回はゆきおんながテンション高くて、いつもと違う魅力を魅せられたと思ってます! それでは