67話 ぼくと花子さんと濡れ女
休日、今回もぼくは旧校舎3階の女子トイレを目指す…というか、すでに到着。
「花子さん、テレビ点けていいですか?」
「あんたねぇ、わざわざテレビ見に来たわけ?ていうか、間接的に私達と居て退屈だって言ってるようなものよ」
『私達』…トイレにはぼくと花子さん以外にも居るのだ。その人物は説明するまでもなく
「そうなの?傷つくよ~」
口裂け女だ。
「だって、2人もヒマそうにゴロゴロしてたじゃないですか」
ぼくは承諾を得てないがテレビを点ける。テレビには[町に雪だるま現る]とニュース番組で報道が
「町に雪だるまが出たらしいですよ。ここから近いですね」
「どうせ着ぐるみでしょ、くだらない」
ぼくの言葉は一蹴された。
ギュイーン ガガガガガ ヒュオッヒュオッ
どこからか激しい音が聞こえて来た。
「すごい音ですね。なんの音ですか?」
「ああ、そういえば、首なしが来てたわ。隣の教室に居るはずよ」
「ホントですか!」
花子さんの言葉にぼくの表情が一気に明るくなる。
「ぼく、行って来ます!」
興奮気味にぼくはトイレから出ていった。
「少年はホント、ダーちゃんが好きだよね~」
「なんか、納得いかないわ!会話をした時間なら私の方が圧倒的に長いのに、なんで首なしに懐いてるのよ!」
不満を漏らす。
「花ちゃん、ヤキモチさんだ~」
からかう口裂け女。
「うるっさい!!」
「いった~~~い!」
からかう事もマウントを取る事も許さない花子さんは口裂け女のお尻を叩いた。その音はぼくが出ていったトイレ内に響いた。
それとほぼ同じタイミングでぼくは女子トイレ隣の音楽室兼美術室に到着。
「首なしライダーさん!…と人体模型さんと…モナリザさん?」
そこには作業に夢中の首なしライダーと軽く会釈する人体模型…そして、モナリザ。絵画のモナリザを登場人物として紹介するのはおかしいと思うかもしれないが、間違えたわけではない。モナリザ…彼女も立派な登場人物である。正体は人体模型と同じ付喪神なのだ。
「あら、坊や。久しぶりですわね」
「久しぶりです…あの、モナリザさん、なんかいつもと違います?」
ぼくは違和感を感じたが、それがなにかわからず本人に尋ねる。
「いま、わたくしを入れる額縁の改修作業をしてますのよ」
「ああ、それで」
違和感の答えがわかったぼくは外気に晒されているモナリザを珍しそうに眺める。
「ちょっと!あまりジロジロ見ないでくださいまし!入れ物に入ってないわたくしは、言わば裸も同然でしてよ!まぁ、それもわたくしの美しさが原因ですのよね…罪なわたくし」
その自信の源がどこから来るのかわからないが、これが彼女の平常運転である。
『出来上がり♪やや?少年!いつの間に』
首なしライダーのスマホから可愛らしい声。
「さっき来ました」
軽く挨拶。
『それじゃあ、早速、モナリザを入れようか!』
「待ってましたわ♪」
「なにが変わったんですか?」
ぼくは出来上がりを喜んでいるモナリザに尋ねる。
「フフフ、それは花子の部屋で教えますわ♪移動しますわよ!」
すると人体模型は新しい額縁に収められたモナリザを葬式を連想してしまいそうな持ち方で持つ。
「あの、人体模型さん。他の持ち方にしませんか?」
「………」
人体模型は無言。だが、意思疏通が難しいだけで言葉が通じないわけではない。現にその言葉を聞いた人体模型は指示を待つかのようにぼくをジーッと見つめている。
「えーと、前みたいに肩に担いだ方がカッコいいです。なんていうか…パンクって言うんですか?」
そう言われた人体模型は右肩にモナリザを担ぐ。
「あれ?人体模型さんの右手、動くようになったんですか?」
人体模型の右手は首なしライダー手作りの義手なのだが、付喪神という特性のせいか義手を体の一部と認識されず動かす事が出来なかったのだ。
『ようやく馴染んだみたいだよ』
「へぇ、よかったですね!」
ぼくの言葉に人体模型は左手の親指を立て返す。
「なにムダな話をしてますの?早く行きますわよ!」
モナリザに急かされ隣のトイレへ。
「で?なんで、このやかましいヤツを連れて来てんのよ?」
トイレに戻ると早々に不満をぶつけられた。
「ダーちゃん、ジンちゃん……とモナリザさん…やっほ~」
口裂け女はモナリザの名前を呼ぶ時、言葉に詰まってしまったが、それは過去の因縁が尾を引いている。因縁といってもモナリザが一方的に噛みついていただけなのだ。口裂け女は歩み寄ろうとはしているものの
「ふん!ですわ」
この通り、モナリザにはあまり響かない。ちなみにダーちゃんは首なしライダーだが、ジンちゃんとは誰の事なのか……モナリザはさん付けで呼んでいる。ぼくの事は少年と呼ぶ…消去法で人体模型なのだろう。
「何しに来たのよ?」
機嫌悪そうに要件を尋ねる花子さん。
「新しくなった、わたくしのお披露目会ですのよ」
モナリザがそう言うと人体模型は両手で彼女を持ち頭上に掲げた。思わず膝を突いて敬意を表してしまいそうな光景。実に教育が行き届いた部下に育った人体模型である。だが、喋らないが故に本当は何を思っているのかはわからない。
「何が変わったのよ?」
ぼくと同様の質問を花子さんもする。
「花ちゃん、見て!上の部分だよ」
口裂け女は変化に気づいた。額縁の上部中央には翼を広げた翼竜のような生き物が象られている。
「よく気づきましたわね。ムダ乳」
前までのモナリザなら褒められようが何を言われようが口裂け女のコメントには噛みついていた。それを考慮すると多少はモナリザにも歩み寄りが見える。
「花ちゃん!私、褒められた~♪」
「あんた、よく考えなさい。プラマイゼロよ」
喜ぶ口裂け女に対して冷静に分析した花子さん。
「ゼロか~…前まではマイナスしかなかったから、むしろプラスだよ~♪」
それでもポジティブに受け取る。
「わたくしのお披露目ですのよ!勝手に別で盛り上がらないでくださいまし!」
「ああ、はいはい、聞いてやるから勝手に喋りなさい」
雑にあしらう。
「このデザインはわたくしが提案したデザインですのよ!わたくしの美貌にいち早く気づいた賢い子……今は何をしてるかわかりませんが、その子がわたくしに贈ってくれた鏡に似せたデザインですわ♪」
雑にあしらわれた事を気にも留めず説明する。
「ご高説ありがとうございました。どうぞ、お帰りください」
花子さんは本当にモナリザの相手が面倒なのか帰らそうとする。
「他にもありますのよ!」
「まだあんの?さっさと話なさいよ」
話がまだ終わりそうにないと思った花子さんは寝そべる。
「それは……すごく頑丈になったのですわー♪」
「なんのためによ?」
「決まってますわ!世界的に価値のある、わたくしという存在を守るためですわ!」
モナリザの持ち味は絶対的な自信。その自信は周りの人を呆れさせる事がある。
「あー、はいはい」
このように。
「ですが、今回の話を持ち出したのはコレだったのは驚きましたわ」
モナリザは人体模型の事を『コレ』と呼ぶ。
「人体模型さんが!?」
ぼくはあまり…いや、ほとんど感情を見せない人体模型が提案した事に驚く。
「コレもわたくしの尊さ、美しさ、カリスマ性にようやく気づいたのですわ。正直、低脳なコレにわたくしの美しさが理解出来たのは以外……いえ、むしろですわ!わたくしの美しさが低脳にも理解出来る域に達してるという事ですわ!」
(未だに2人の関係性がわからないけど、人体模型さん可哀想)
ぼくが同情してると人体模型は急に廊下の方を振り向き、モナリザを持つ手を片手持ちに切り替え大きく振りかぶった。
「ちょっ、なにしてますの!?」
急に視界が安定しなくなり慌てるモナリザ。そして…
「なんてことしますのーー!」
モナリザを廊下へ向かってぶん投げた。偶然にも廊下の窓は開いており、そのまま旧校舎の外へ飛んでいった。
「あんな事して大丈夫なんですか?」
『大丈夫!頑丈さは保証する』
喋らない人体模型の代わりに首なしライダーが答えた。
(なんか、頑丈にしたのは別の理由がある気がしてきた)
意図はわからないが、モナリザを頑丈にするという提案をしたのは人体模型なのは間違いない。しかし、何を思っての事なのかは本人にしかわからない。とりあえず、ある程度のガス抜きも必要……という事にしておこう。
「投げたモナリザさんはどうするんですか?」
『それも大丈夫!モナリザの改修の際に人体模型の右手も少しイジッたんだ』
すると人体模型は右手の手首辺りを指で押す。
『ちなみにね、無闇にモナリザを投げたら危ないって言われるだろうと思って、それも対策済み!飛んでいく方向に人を検知したら軌道を変えるように自動姿勢制御が施してあるんだ』
先程の人体模型の右手の新機能が明かされないまま解説が続いた。やはり、首なしライダーの技術力は凄い。
※首なしライダーの固有の特殊能力ではなく趣味で身に付けた技術である。
「すごいですね!首なしライダーさん」
ぼくは右手の新機能が気にならない程、首なしライダーの技術力に魅了された。
「どーでもいいけど、人体模型の右手でなにしたのよ?」
「私も気になってた~」
三者三様という言葉がある。他にも似た意味を持つ言葉はあるが、今回はこの言葉がいいだろう。人が3人集まれば3人共同じ考えを持つとは限らない。もし花子さんと口裂け女がぼくと同じ考えや思考だったら人体模型の右手の新機能は謎のままだったかもしれない。だからこそ、今の花子さんと口裂け女の発言には救われた。これで右手の新機能の謎に触れる事が出来るのだから…
シャカシャカシャカ
「なんなんですのー」
訂正しよう。花子さんと口裂け女の発言が無くても答えが…モナリザがトイレの前を横切っていった。
「な、なによ!あれ!?」
「………」
横切っていったモナリザの姿は無数の足があり、高速で移動するその姿は遭遇したら思わず身構えてしまう虫を連想してしまいそうだ。それを見た花子さんは驚き口裂け女はドン引きして言葉が出ない。
『今のが右手の新機能だよ。ボタンを押すだけで額縁から大量のアームが出て音楽室に戻るっていう機能なんだ。人体模型の負担もこれで解消出来る』
「あの見た目はなんとかならないの?ゾワッとするわ」
『考えておくよ。それじゃあ、動作確認も出来たし、俺は帰るよ』
「もう行っちゃうんですか?」
ぼくは名残惜しそうに尋ねる。
『今日は思いっきり走るって決めてたんだ。じゃあね!』
首なしライダーはバイクに跨がり廊下の突き当たりで姿を消した。
人体模型も喋りはしないものの身振り手振りで別れを告げトイレから退室。ここで疑問が残るのはモナリザの額縁の機能だ。頑丈さ、飛んでいっても周りを配慮した検知機能に自動姿勢制御、ワンタッチで回収出来る人体模型の右手とリンクした機能…まるでモナリザが飛んでいくのを前提としたような機能ばかりである。この先、その真意が明らかになる事はあるのだろうか。
相変わらず首なしライダーの技術力は凄いですねぇ。そのおかげでこれからもモナリザをバンバン投げられそうです(*´艸`*) それでは