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ぼくと花子さん  作者: 大器晩成の凡人
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66話 ぼくと花子さんと玉藻前⑨

 〜前回のあらすじ〜


 花子さんが居る女子トイレに着いたぼくと玉藻前。和解が目的とはいえ、まだ花子さんへのトラウマがある玉藻前の為にぼくが先陣を切り和やかな雰囲気を作る事にしたが、彼女の存在は花子さんにバレていた。おまけにぼくを人質にしてるのではと誤解されもしたが、なんとか和解の席についてくれる事に。

「花ちゃん、仲直り!仲直りだって~♪また友達が増えるね♪」


 変な喋り方からいつもの口裂け女に戻った。いま思えば花子さんと同じように彼女の存在に気づいていたのだろう。


「なにが仲直りよ?素直に受け取るんじゃないわよ!とりあえず、話は聞く。それだけよ」


「花ちゃんのひねくれもの~」


「うっさい!これが私よ!んで、何があったの?」


「えっとですね…」


「待つのじゃ!妾が話す」


 彼女はぼくの言葉を遮った。


「さっきまでオドオドしてたあんたがまともに説明できるわけ?」


「そう…じゃな、じゃが、童ばかりに頼ってばかりにはいかぬ!妾達、二人の未来のためにも」


 覚悟を決めた彼女の瞳は真っ直ぐ花子さんを見つめる。


「少し引っかかるけど…いいわ、話なさい」


「うむ」


 彼女はカーペットの上に正座。ぼくはいつでも彼女のフォローが出来るように隣に座る。その2人に向き合うように花子さんと口裂け女も座る。


「妾はそなたに敗れた後、長らく町を彷徨っていた。妾の生きた時代とは違い実に緩く、ゆったりと時が流れている。じゃが、妾は知っている、花子…さんという存在を」


 彼女は語り出す。それを黙って聞く3人。


「今の人の世を滅ぼすのは造作もないと思っていたが、花子さんに与えられた恐怖がそれを許さなかった。結局、妾は花子さんの影に怯える毎日」


(なんか、花ちゃん悪役みたいだね♪)


(話が終わったら尻叩くから覚悟なさい)


 小声で話す2人。彼女は話を続ける。


「そんな窮屈な日々に妾は童と出逢ったのじゃ♪童は多くの事を教えてくれた。げぇむ、諭吉、一葉、英世、小銭……じゃが、一番の学びは想いを寄せる相手と共に過ごす幸せな時間じゃ♪人の子を蹴散らしていた時には得られなかった幸福感じゃった」


(花ちゃん、恋バナだよ~♪)


(黙りなさい、変な流れになってきたじゃないの)


「じゃが、大きな壁に突き当たってしまうのじゃ」


 悲しげな雰囲気になる。


「え~!何が起きちゃうの~?」


 彼女の恋バナにのめり込んでしまった口裂け女は声を上げてしまう。


「聞いてくれるかえ?」


「うん!」


 彼女の問いに前のめりに答える口裂け女。


「妾が想いを寄せる童の背後には、あの花子さんが居るのじゃ…妾は花子さんと事を構えてしまった以上、妾と童の関係を祝福してくれるとは思えぬ。じゃから、妾は花子さんとの和解を望むのじゃ」


「花ちゃん、仲直りしてあげてよ~」


 話を聞き終えた口裂け女は花子さんの両肩を掴み揺する。


「あんたは簡単に絆れてるんじゃないわよ!」


 両肩を掴む口裂け女の手を払い除けた。


「だって~」


 イジケル。


「頼む!花子…さん!妾と童の関係を認めてくれぬか!」


 彼女は頭を下げる。


「玉藻前さん!?」


 ぼくは慌て驚く。まさか、あの彼女が頭を下げるとは思ってもみなかったからだ。


「頭を上げなさいよ」


「嫌じゃ!認めてくれるまでは」


 頭を下げたまま訴える彼女。


「…あのね、頭を下げるって行為で私の機嫌がよくなるとでも思ってるわけ?あんたが今やってるのは土下座よ、見苦しい」


「花子さん、そういう言い方は…」


「よい!見苦しくても構わぬのじゃ!」


 彼女は姿勢を変えず、ぼくの言葉を遮った。


「自らする土下座ってのはね、ただの自己満足よ。あんたが生きてた時代は知らないけど、私は土下座されて凄く不愉快。それを続けてる以上、あんたが求める返事は返って来ないわ」


 時々ある、花子さんの説教。何故か優しさを感じる。


「ならば、妾はどうすれば?」


 ゆっくりと顔を上げる彼女。


「もう悪さはしないって約束するなら許してあげるわよ」


「そのような事でよいのか?只の口約束ではないか」


 キョトンとする彼女。


「口約束でいいのよ!と、友達に……なるんだから」


「花ちゃん、やっさし~♪」


 照れる花子さんの隣で喜ぶ口裂け女。


「友……いや、妾は童との交際を認めてもらいたいだけなのじゃ、友は求めてあらぬ」


「はああぁ!?そんなの認めるわけないでしょ!あんたもあいつと同じでショタコンなわけ?」


 今、この場で言ったあいつとは八の事だろう。


「何故じゃ!何故に認めぬ?」


「年齢的な事を考えなさい!」


「恋に年齢を持ち出すなど無粋の極みなのじゃ!」


「ぐぬぬ」


 言い返せない花子さん。


「あんたもなにか言いなさいよ!」


 口裂け女に意見を求める。


「う~ん、私は恋する乙女の味方だから」


 つまり口裂け女は彼女の肩を持つようだ。


「役立たず!ていうか、あんたは話題の中心なんだから、なんとか言いなさいよ!」


 口裂け女に罵声を浴びせると次はぼくに意見を求める。


「え?うーん……なんか現実味がなくて」


 笑って誤魔化す。


「あんたね、こういうのをあやふやにしてると悲劇を生むのよ!例えるなら、幼い女の子が年上のお兄ちゃんに『大きくなったら、お兄ちゃんのお嫁さんになる』って言って、お兄ちゃんは『大きくなったらね』って答えを先伸ばしにした結果、女の子が大人になった頃には大好きなお兄ちゃんは別の誰かと結婚してた。そんな悲劇を生むのよ」


 花子さんの例えとは真逆だが、まさにそのような状況。


「そんなの悲しいよ~」


「あんたはいちいち感情移入すんな!」


 とりあえず、ツッコむ。


「んで、あんたはどう思ってんのよ?」


 そう問われたぼくは彼女を見つめる。彼女も見つめ返す。


「……ごめんなさい!」


「のじゃー」


 フラれた彼女は正座の姿勢から後ろへ倒れる。


「何が駄目なのじゃ」


 すぐさま起き上がり尋ねる。


「うーん、恋愛とかってなると、なんか違うというか、意識できないっていうか」


「そうか…」


 悲しげな彼女。


「あの、友達じゃダメですか?」


「そうだよ~、私達と友達になろうよ~」


 ぼくの提案に口裂け女が乗っかる。


「友…か、そなた達もなってくれるのかえ?」


「はい!」


 ぼくは即答。


「うん♪」


 口裂け女は笑顔で答える。


「………」


「花ちゃんも答えなよ~」


 無言の花子さんの頬を突く口裂け女。


「よ、よろしく」


 照れながら答えた。


「妾の方こそよろしくなのじゃ♪」


 これで彼女と花子さんの和解は成立した…


「よかった~、玉ちゃんと仲良くなれて~」


 早速、愛称が決まった。


「た、玉ちゃん?」


 いきなり愛称で呼ばれ戸惑う。


「うん、玉藻前だから玉ちゃん♪」


「そうか…じゃが、妾と友になれたのが、そんなに嬉しいのかえ?」


「うん♪仲良くなる事はいい事だよ~。それにね、花ちゃんはここのトイレでしか力が使えないから、玉ちゃんが外で悪い事しても止められないって心配してたんだよ~」


 本人としてはうっかりというより友達になったのだから、隠す必要はないと思ったのだろう。花子さんの体質を暴露してしまった。


「ちょっ、バカ!」


 花子さんは慌てる。そして、その話を聞いた彼女の姿は既に花子さんの絶対無敵領域の範囲外の廊下にあった。


「クククッ、そうか…そういう、からくりであったか」


 彼女の顔は花子さんに敗北する前の自信に満ちた顔に戻っていた。圧倒的な力の差を見せつけた相手が実は条件付きでしか力を発揮できないとわかったからだ。彼女を縛るトラウマはもう無い。今、この場は彼女に支配されていると言っても過言ではない。


「ホント、余計なこと言ってくれたわね。ここから出るんじゃないわよ、ここなら守ってあげられるわ」


 状況が状況なだけに強く叱る余裕がない。


「え、え~!どうしよう、どうしよう!せっかく友達になれたのに~」


 今まで見た事ない花子さんの焦った表情に取り乱す口裂け女。


「クククッ、そうじゃ、そなたらはそこに籠っておればよい。何もせずに人の世が滅ぶのを眺めているがよいぞ」


 そう言うと彼女は歩き出す。


「あんた、なんで?」


 花子さんは困惑し問いかける。その相手…彼女はトイレから立ち去らず再びトイレ内へ足を踏み入れたからだ。


「昔の妾なら言葉通り人の世を滅ぼしてたやも知れぬ。じゃが、そなた」


 彼女は口裂け女に視線を向ける。


「私!?」


「あのような状況で妾を友と呼び怒りではなく嘆いてくれたこと、実に嬉しかったのじゃ」


「えへへ♪」


 照れる口裂け女。


「そして、童よ」


 彼女はぼくの前まで来ると目線の高さを合わせるようにしゃがむ。


「妾の行為に顔色一つ変えなかった…何を思っていたのじゃ?」


 問われたぼくは


「今日一日、玉藻前さんとデートしたんですよ。そんな事するはずないって、わかってました」


「わかっておったか……決めたのじゃ!断られはしたが、いつか童を振り向かせるのじゃ!」


 彼女の恋心は再燃。


「私はあんたに敵意むき出しだったけどいいわけ」


「花ちゃん、余計!余計な一言だよ~」


 ポカポカと花子さんの頭を叩く。


「童を悲しませるような事はしたくない。それにそなたのような刺激物も必要であろう。友として互いを高め合えそうじゃ」


「わ~い、一件落着だよ~♪」


「玉藻前さん、これからよろしくお願いします」


「ふん!来たいならいつでも来なさい」


「のじゃ♪」


 また花子さんの周りにクセのある仲間が増えたのだった。



 【おまけ】


「ねぇ、今日は旧校舎に行かないの?」


 尋ねる取り巻き。いつもの2人が居るのはゲームセンター。


「ああ?休日に行ってどうすんだよ!」


 答えるガキ大将。


「できれば平日も行きたくないんだけどな…」


 面と向かって言えず下を向きながら吐露。


「なんか言ったか?」


「ううん、なんでもない」


「じゃあ行くぞ」


 2人が辿り着いたのは対戦型格闘ゲーム機の前。


「これやるの?」


「おう、乱入してボコボコにしてやる」


 そう言うと反対側でプレイする相手に乱入。


「見てれよ」


 ガキ大将は対戦が始まると操作キャラは画面端でしゃがみ微動だにしない。


「お♪来やがった」


 対戦相手はそれが作戦とは知らず近寄る。


「こうだ!」


 ガキ大将のコマンド入力で飛び道具が炸裂。相手に直撃。相手はまた近づく…それを飛び道具で迎え撃つ。すると相手は学習したのか飛び道具をジャンプで避け接近。だが、その動きも予測済み、サマーソルトで迎撃。平静を失った相手はむちゃくちゃな動きをする。


「へへ、レバーをガチャガチャ回して初心者だな」


 ガキ大将はそんな相手を冷静に対処。難なく勝利した。


「ははは、弱すぎだぜ!あの動き絶対、初心者だ。見たか?あのバカみたいな動き」


 勝ってご機嫌なガキ大将は反対側の相手にも聞こえる声で喋る。


「う、うん。すごいね」


 それとは対照的に控えめな声で称賛する取り巻き。すると画面には[NEW CHALLENGER]の文字が


「また雑魚が来たぜ!ボコボコにしてやる」


 意気揚々と対戦に挑む。


「見ろ!あいつ、飛び道具も無い弱キャラだぜ」


 今の時代、格闘ゲームで飛び道具が無いからといって弱キャラなどありえない。


「おらっ!おらっ!」


 先程と同じように飛び道具で迎え撃つ。相手はガード。それを何度も繰り返す。


「なんか、強そう」


 取り巻きは対戦相手のキャラを見てそう思ったのか、それとも立ち回り方を見てそう思ったのか、思わずつぶやく。


「さっきの奴よりはマシだけど、どうせなんも出来ねぇよ」


 強気に戦闘スタイルを変えないガキ大将。すると相手の動きに変化が…なかなか近づけない事で痺れを切らしたのか技を繰り出した。それは偶然にもガキ大将が放った飛び道具を相殺した。


「技を打ち消したよ!?」


「偶然だ!近づけないからイラついてるだけだ」


 ガキ大将の予想は的外れだった。その後も放たれる飛び道具を技で相殺。しかも着実にガキ大将の操作するキャラに近づいている。


「なんだよ、こいつぅぅぅ!」


 完全に自分の戦闘スタイルを攻略され同様が隠せない。遂に相手の拳がガキ大将の操作するキャラに届きダウン。


「クソッ、立て直す!」


 立て直しを計るが、起き上がりを見計らったかのように相手はガキ大将の操作するキャラを投げる…そして投げる…更に投げる。最後は大技を決められ画面にはK.Oの文字が…そして、追い打ちのようにYOU LOSEの文字が画面に映る。


「クッソー!ふざけんじゃねぇ!投げばかり卑怯じゃねーか!」


 ガンッガンッ


 何も出来ず負けてしまい怒りをゲーム機にぶつけるガキ大将。


「や、やめようよ」


「うるせー!」


 宥める取り巻きの言葉に耳を貸さず八つ当たりを続ける。すると


「兄ちゃん、兄ちゃん」


「な、なんだ……なんですか?」


 金髪の男性がガキ大将に話しかけてきた。いかにもヤンチャそうな見た目、さすがのガキ大将も怯み敬語を使ってしまった。カツアゲでも始まるのだろうか。


「あんなぁ、負けて悔しいのはわかっけどよぉ、物に当たるのはやめようや?」


「お、俺の勝手だろ」


 カツアゲではないとわかったガキ大将は反抗的に反論。


「この兄ちゃん、反省しないんだとよー!」


 金髪の男性は大声で言った。それが合図かのように周りの人達が集まる。サラリーマン風の人や女性、強面な男性がガキ大将と取り巻きを囲む。


「反省会しような?兄ちゃん」


 この後、2人はゲームセンターでのマナーをみっちり叩き込まれた。もちろん、暴力沙汰などは一切なかった。そして、取り巻きはほぼほぼ巻き添えだ。



 【おまけ②】


「少年、今日は来ないのかな~」


 旧校舎3階の女子トイレで退屈そうにつぶやく口裂け女。


「ヒマならどっか行きなさいよ」


「そしたら花ちゃんが寂しくなるでしょ~」


「べつにぃ」


 盛り上がるでもなく他愛もない会話をする2人。


「もしかしたら近くまで来てるかも♪」


 口裂け女は急に廊下の窓に向かう。そして、窓から顔を出し下を見る。


「は、花ちゃん…少年が居た」


「よかったじゃない。ていうか、あんた変よ」


 花子さんの指摘通り様子がおかしい。


「い、一緒に女の人が居て…」


「ん?知らない女なの?」


「えっと…たぶん、玉藻前さんだと…思う」


 口裂け女は誰彼構わず愛称で呼ぶわけではない。愛称呼びは友達になってからだ。


「はぁ?まさか!あの女、あいつを人質にでもする気なんじゃ!」


「ど、ど、ど、どうしよう!?」


 見てわかる程に取り乱す口裂け女。


「落ち着きなさい!あの女は私の体質を知らない。だから勝ち目はあるわ」


「そだね!」


「とりあえず、あの女がトイレに入るように誘導するわよ」


「うん、わかった!」


 その数分後にぼくと彼女はトイレに辿り着くのであった。


 ≪次回予告≫


 少女には表情が無い え?のっぺらぼうってこと? いやいや、ただ表情の変化が無いだけ ふぅん、無愛想な子なんだね 少女の言葉にはほとんど感情を感じ取れない なんか付き合いにくい子だね そんなこと言わないで。決して少女は無関心でも無感情でもないんだ でも、一緒に遊んでも楽しくなさそう それはどうかな。一緒に遊んで真摯に向き合えば笑顔を見せてくれるはずだよ

 無事に玉藻前と花子さんが和解できました!花子さんの特性で外出できないから出番は控えめになり絶対無敵領域を不便に感じましたが、上手く玉藻前との和解の材料として役に立ちました(*´∀`*) それでは

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