64話 ぼくと花子さんと玉藻前⑦
ジャンクフードの正しい食べ方を学んだ玉藻前。デートも終わりかと思いきや、彼女から花子さんと和解したいと言い出した。
「それにしても玉藻前さんから花子さんと和解したいって言い出すなんて以外でした」
ぼくは本音をポツリ。
「妾と童の今後の事を考えるならば当然の事じゃ」
順調に旧校舎への歩みを進めていると前方に1人の男性が…その男性はぼくの存在に気づくと手を振り駆け寄って来た。
「よう!少年」
男性は爽やかに挨拶。
「あ、先生……ていうか、仮にも担任だったんですから名前で呼んでくださいよ」
ぼくの発言でわかる通り、この男性はぼくの担任を務めていた。ただし、現在ではなく去年…5年生の時の担任だ。男性の身長は高くもなく低くもなく日本人男性の平均くらいの身長。教鞭をとる立場だからか爽やかな見た目だ。唯一、興味を引くのは額に着けたバンダナである。それは年中着けていて、それにも彼なりの理由がある。
「ははは、許せ!少年。それに仮じゃないだろう」
男性のこの呼び方は花子さん関係の人達が呼ぶ愛称のようなものとは異なる。花子さん関係の人達はぼくの本名を知らない人が多く流れで今の呼び方になっている。だが、男性はぼくの本名を知っていて、この呼び方なのだ。これはぼくに対してだけではなくクラスの生徒全員を[少年][少女]と呼ぶ。
「それで、一先生は1人で何してるんですか?」
「おいおい、先生にも本名があるんだから、そっちで呼んでくれよ」
男性…改め一先生はそう言いながらぼくの頭をポンポンと叩く。
ぼくが呼んだ一先生とは愛称だ。その愛称が生まれたのは1人の生徒が偶然、先生のバンダナ下の額を見てしまった事が発端である。額の下には横一文字の傷痕があり、それを見た生徒がその傷の事をクラス中に広め、それまで都市伝説扱いされるほど謎だった額の噂でクラスは沸き上がる。それをキッカケに横一文字の傷痕から一先生という愛称が生まれた。
「なんじゃ、こやつは?」
彼女は蚊帳の外にされて不機嫌なのか、ただ単に警戒してるのか威圧的に尋ねる。
「この人は5年生の時の担任の先生です」
ぼくは軽く紹介。
「これは失礼しました。私は教師をやっています八沢と言います」
一先生の名字は八沢である。そして自己紹介をした先生は手を彼女の方へ差し出し握手を求める。
「妾は玉藻前じゃ」
彼女はとりあえず握手に応じた。
「こんな美人さんとデートか?羨ましいぞ!少年」
ぼくの頭を雑に撫でる。その隣で彼女は頬を赤く染める。
「からかわないでくださいよ」
先生の手を払い退ける。
「ところでどういう関係なんですか?」
先生は尋ねる。単純な質問だが鋭く核心を突くような内容だ。
「妾は童とでぇとしておるのじゃ!自ずとそなたにもわかるであろう」
あえて先生に考えさせるようだ。デートしてる当事者ではなく第三者から恋人だと認識されれば彼女にとって、この上ない喜びだろう。
「うーん、家庭訪問でお母様とはお会いしてるし、少年は一人っ子だと聞いてるし…あ!おばさん……むぐっ!?」
彼女は先生の口を塞ぐ形で顔を鷲掴み。
「誰がおばさんじゃ!阿呆なのかえ?」
鋭い眼光で先生を睨む。
「ちょっと、玉藻前さん、落ち着いてください!」
ぼくは慌てて彼女を宥める。
「童も聞いたであろう?この阿呆は妾をおばさん呼ばわりしたのじゃぞ」
「それは年齢的な意味じゃなくて、ぼくと玉藻前さんの関係の事です」
「そうか…じゃが、納得いかんのじゃ」
「とりあえず、先生を放してあげてください」
「わかったのじゃ」
渋々、先生を解放。
「ぷはー、死ぬかと思った」
先生は尻餅をつき倒れる。
「大丈夫ですか?ぼくが止めなかったらホントにそうなってたかもしれませんよ」
「……はははは、大人をからかうんじゃないぞ」
先生は彼女の正体を知らないからか笑い飛ばし立ち上がる。
「先程は失礼しました。他に言葉を選ぶべきでした」
生徒と接する時はおちゃらけているが、大人同士の会話も出来る大人な先生なのだ。
「ふん、今後は気をつけるのじゃぞ」
まだ少々、ご立腹なようで許しはしたものの顔はそっぽを向いている。
「それでは私は2人のデートの邪魔になりそうなので行きますね。少年は帰り遅くなるんじゃないぞ」
「はーい」
先生は立ち去っていった。
「なんだったのじゃ、あやつは!ま、気が回る所は評価してもよい……のじゃ」
失言もあったが、最後はギリギリ好印象に転じた先生だった。
しかし、その先生はある妖怪と物語を紡ぐ事になるのだが……今はその時ではない。
さて、新キャラの登場です。しかも人間の!まぁ、前回も謎の女性が登場してたんですけど、あの段階ではキャラクターとして成立してないので新キャラ扱いではありません!
そして、一先生はある妖怪と物語を紡ぐ事になりますが、まだまだ先の話です。どの妖怪と話が展開するか皆さんで予想してみてください(*´∀`) それでは