62話 ぼくと花子さんと玉藻前⑤
〜前回のあらすじ〜
シューティングゲームで共闘、ダンスゲームでは踊りが得意だと判明した玉藻前。そして、何故か紙幣を持っていた玉藻前が食事をご馳走してくれる事に。
ぼくと彼女は食事をする事になった。元々、決まっていた予定ではないためか、あてもなく歩く。
「どこに行きましょうか?食べたいものとかあります?ぼくは奢ってもらう側ですので任せますよ」
「妾が礼を兼ねて馳走するのじゃ、そなたの食べたいもの選ぶがよい」
「うーん…それじゃあ、あの店にしましょう」
ぼくは指を指した。その店はMの看板が目立つファーストフード店である。
「では、あの店に入るのじゃ」
2人で入店。早速、カウンターへ。
「い、いらっしゃいませ」
店員は少し戸惑う様子を見せたが接客に応じる。
(ゲーセンでは気にしてなかったけど玉藻前さんって目立つよなぁ)
突き刺さる視線に恥ずかしくなる。
「店内でお召し上がりでしょうか?」
「え?あ…どうします?」
「食事は落ち着いてするものじゃ、店内でよい」
「て、店内でお願いします」
今しばらく、この恥ずかしさに耐えなければいけなくなった。
「ご注文をどうぞ」
ぼくはメニューを見る。
「気を遣うことはないぞ。好きなものを選ぶがよい」
「じゃあ、ギガバーガーを1つ。玉藻前さんは何にします?」
「では、妾も同じものを頼む」
「お飲み物はいかがしますか?」
早くこの場を立ち去りたいぼくにとって煩わしい質問だ。
「コーラのSサイズをお願いします」
どの道、サイズも聞かれる事を想定しサイズも指定した。
「妾も同じものを」
「かしこまりました、ご注文は以上でしょうか?」
「はい、以上で」
「お会計は1,540円になります」
「これで頼むのじゃ」
諭吉さんを1人カウンターに置く。
「1万円お預かりします………お返しが8,460円になります」
お釣りを手渡された彼女は
「これ、貰ってもいいのかえ?」
「え?あ、はい」
店員は困りながら答えた。
「見よ!紙が増えたのじゃ♪」
嬉しそうにお釣りの紙幣を見せる。
「あはは、よかったですね」
恥ずかしさで空返事になってしまう。
「こちらの番号を持って席でお待ちください」
ぼくは番号札を受け取る。
「席を選びましょうか」
ぼくはカウンターに背を向け彼女もついてくる。
「お客様!お釣りをお忘れです!」
呼び止められ振り返る2人。彼女はカウンターに戻り
「こ、これも貰ってよいのかえ?」
それは460円、小銭である。
「はい」
店員は苦笑いで答えた。
「見よ!これでげぇむも出来るのじゃ♪」
彼女の解釈では小銭はゲームをするためのお金として認識してるらしい。一応、間違いではないが…
「あはは、ここに座りましょう」
2人はテーブル席に向かい合う形で着席。
「諭吉とは不思議な奴じゃの!こんなにも増えたのじゃ♪」
紙幣の枚数という点では4枚に増えてるが、お金の種類を知らない彼女からしたら、ただお金が増えたように見えるのだろう。
「玉藻前さん…お金の勉強をしましょう」
「うむ、妾も知りたかった所じゃ」
「ちょっと待ってください」
チャリン チャリン
テーブルの上に小銭を出す。
「これは小銭です」
テーブルに散らばった小銭を指差す。
「げぇむをするためのお金じゃな」
「違います」
「なんと!」
彼女にとってゲーム=小銭という常識を否定され驚く。
「ゲームだけではなく買い物も出来ます。食事もです」
「ならば、諭吉とやらより優秀ではないか」
「いえ、諭吉さん“達”はその気になれば小銭にだってなれるんです」
本日、人に何かを説明する事の難しさを知ったぼくは少しコミカルにからかうように説明。
「諭吉とやらはそのような能力があるのかえ!?」
「はい…玉藻前さんもさっき小銭を受け取ったじゃないですか」
「たしかに…」
彼女は思わず息を飲んだ。
「それとぼくが重要な事を言ったの気づいてますか?」
「重要な事……なんじゃ、それは!?」
「ぼくは『諭吉さん“達”はその気になれば小銭にだってなれるんです』、諭吉さん“達”…です」
リアクションの良い客のおかげでぼくは楽しくなっていた。
「ま、まさか…諭吉以外にも同じ事が出来る者がいるのかえ?」
「はい、それも2人も」
「二人もじゃと!」
驚きで力が入り手に握っていた紙幣がグシャッとなる。
「その二人は何者じゃ!?」
「その2人の名前は……英世さんと一葉さんです」
「英世……一葉とな…」
どういう感情なのかわからないが言葉を失った。
「会ってみたいですか?」
「あ、会えるのかえ!?」
彼女は体を乗り出しぼくに顔を近づける。
「落ち着いてください」
興奮する彼女を落ち着かせる。
「う、うむ…」
彼女は静かに着席すると
「その二人は何処に行けば会えるのかえ?」
神妙な面持ちで尋ねる。
「玉藻前さんのすぐ近くに居ますよ」
「何処じゃ?何処に居るのじゃ!?」
彼女は辺りを見回すが、それらしき2人は居ない。
「玉藻前さん、手を開いてください」
「ま、まさか…」
恐る恐るグシャッと紙幣を握りしめてる手を開くと
「だ、誰じゃ!諭吉ではないのじゃ!」
グシャグシャになった紙幣を広げ不思議そうに見つめる。
「女の人が一葉さんで髭の生えた男の人が英世さんです」
「この二人が……なぜ、英世の方が多いのかえ?」
彼女の手元には一葉さんが1人、英世さんが3人居る。あと小銭の460円。
「それはですね…お札としての強さです」
「強さ…こやつらに強さがあるのかえ?」
「はい、諭吉さんは一番強いです。次が一葉さん、その次が英世さんです」
これはあくまで紙幣としての価値であり、それに描かれている人物の順位ではない。紙幣に描かれる人物は偉大な功績を残しており、上下関係など存在しない。そこの所を心に留めておいて欲しい。
「つまり、英世の数が多いのは人の組織で言う尖兵のような立ち位置という事なのじゃな」
ぼくの悪ふざけのせいでお金の仕組みから話題が離れつつある。
「ちなみにそんな英世さんも10人集まれば諭吉さんになる事が出来るんです」
「諭吉は英世の十倍の力があるという事かえ?」
「はい。そして、一葉さんなら2人で諭吉さんになれます」
「……少し考えさせておくれ」
顎に手を当て考える。教わるだけではなく自ら思考し始めた彼女。
「……つまり一葉は英世の五倍の力で合ってるかえ?」
「そうです!」
自ら答えを出した彼女に教える側として驚きと悦びの声で肯定。
「ならばじゃ!ならばじゃ!英世が五人と一葉が一人でも諭吉になるのかえ!?」
考える事の楽しさを知ったのか自ら質問。
「よくわかりましたね!」
「これで三人の力関係が理解出来たのじゃ♪」
もう一度言うが紙幣に描かれている人物に上下関係はなく力関係もない。立派な人物達ばかりだ。
「それでは次は小銭さん達の説明をしましょう」
「うむ、頼むのじゃ!」
ぼくはテーブルに散らばっている小銭をある順番に並べる。
「玉藻前さんから見て左から1円さん、5円さん、10円さん、50円さん、100円さん、500円さんです」
紙幣三人衆を“さん”付けで呼んでいたせいか、その影響が小銭にも……小銭さん達にも出てきた。そして、あえて小銭さん同士の強さは説明しなかった。今の彼女なら答えに辿り着けると確信したからだ。
「小銭さん達も集まれば英世さんになれるんです」
「何人じゃ?何人集まればよいのじゃ!?」
学習意欲が増している彼女の食いつきは良い。
「1円さんは千人、5円さんは二百人、10円さんは百人、50円さんは二十人、100円さんは十人、500円さんは二人で英世さんになれます」
「待つのじゃ、覚えるのじゃ…」
彼女は何もない空を見つめぼくの言った事を覚える。
「お待たせしました。ギガバーガーお二つとコーラのSサイズお二つです。ご注文は以上で宜しいでしょうか?」
店員が注文したメニューを届けに来た。店員も仕事だから仕方ないが、彼女の暗記の妨げになりかねない。
「あ、はい。以上です」
「ごゆっくり、どうぞ」
店員は立ち去っていった。彼女はというと
「一円が……十円は…五百円を…」
一人言を言いながら脳内で小銭さん達の関係性を考察中。店員の存在は何ら影響は無かったと見える。
「玉藻前さん…玉藻前さーん」
「五十円では…」
ぼくの呼びかけも届かない。
「すごい集中力…よし!」
ぼくは席を離れ彼女の側に立つ。
ムニッ
彼女の頬を人差し指で突いた。
「のじゃー!な、なんじゃ!?」
思いの外、良いリアクション。
「もう注文したメニュー届きましたよ」
「本当なのじゃ」
「食べませんか?」
ぼくは席に戻りながら提案。
「じゃが、あと少しで小銭とやらを理解出来そうなのじゃ…」
「それじゃあ、次の機会に答え合わせしましょう」
『次の機会に』、この言葉を聞いて彼女の心は踊った。
「またでぇとしてくれるのかえ!?」
「え?あ、そうですね、次のデートの時にお釣りナシで買い物が出来たらすごいです」
「ふふふ、ならば近い内に小銭の謎も解き明かすのじゃ♪」
学習意欲にデートの約束も重なり、やる気は何重にも膨れ上がる。これで小銭さん達や紙幣三人衆の謎も解けるだろう……その先に辿り着く事もあるかもしれない。
皆さん、今回の話で違和感というか、なんというか、気づいた方も居るでしょう。紙幣関係の話です。新札が出回ってるのにこのまま投稿してもよいかと悩みました。でも、そのまま投稿する事にしました。そのおかげで新しい話も思いつきました!いつか披露できたらと思っています(*´ω`*) それでは