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ぼくと花子さん  作者: 大器晩成の凡人
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60話 ぼくと花子さんと玉藻前③

 あらすじ


 玉藻前の昔の話、人間へ抱く感情を聞いたぼくは彼女を遊びに誘う事に。そんな彼女はそれをデートと認識。二人のデートが始まります。

「目的の場所は決まってるのかえ?」


 先程までとは違いぼくの顔を見て尋ねる。


「えーと、ゲーセンにでも行きましょうか」


「げぇせんとな?」


「ゲームセンターのことです」


「そこは何をする場所なのかえ?」


 何百年も前を生きていた彼女からしたら知らないのも当然だろう。


「うーん、いろんなゲームがあって楽しい場所ですよ」


「うむ…げぇむとやらが何かわからぬが、そなたが楽しいと言うなら間違いはなかろう」


 ぼくを信頼しきってるようだが、このあと彼女は恐怖で怯える事になる。


「着きましたよ」


「ここがげぇせん…」


「入りましょう!」


 建物を見上げる彼女の手を引き入店。


 建物の1階はカップルやそこまでゲームが好きじゃない人でも入りやすいようにUFOキャッチャーなどが大量に並んでいる。


「ここにあるのは全てげぇむなのかえ?」


「そうですよ。2階にもあります。行きましょう」


 ぼくは1階のフロアにあまり興味がなかったので2階に行くよう促す。


「うむ」


 2階に着くと1階とは雰囲気が違い、楽しそうに盛り上がったり、人だかりが出来てたり、場所によっては殺伐とした場所もある。ぼくは彼女の手を引き、その殺伐とした場所へ歩みを進める。


「ぼくはよくここで遊んでます!」


 そこは対戦型アーケードゲームがたくさん並んでいる。この場所は勝者と敗者が明確に結果として出る。ゲーセンには暗黙のルールやマナーがある。もちろん、マナーを守る人が大半だが、やはり負けると悔しい。思わず悔しさを怒りとして表に出してしまう人もいる。それは周りにも影響を与え自然と殺伐した雰囲気になってしまうのだ。


「これは面白いのかえ?」


 彼女が興味を持ったのは格闘ゲーム。


「はい!やってみます?」


「うむ!」


「それじゃあ…」


 ぼくは投入口にお金を入れゲームスタート。


「あ、座ってください」


 彼女をゲーム機の前のイスに座らせる。


「この左にあるレバーを左手で握って、レバーを動かせばカーソルも動くので好きなキャラクターを選んでください」


「ればぁ…これかえ?」


「はい、そうです」


 どうやら彼女はカタカナの言葉に疎いようだ。無理もない、彼女の生きた時代には存在しなかった言葉ばかりなのだから。


「かぁそる……きゃらくたぁ?」


「えっと、キャラクターていうのは、この画面に映ってる人達の事です。カーソルは…うーん……」


 普段から使い慣れてる言葉だが、いざ、その言葉を説明するとなると難しい。そうこうしてると制限時間が無くなり強制的に現在カーソルを合わせてるキャラに決まってしまった。


「あ、決まっちゃいましたね…でも、使いやすいキャラなので大丈夫だと思います」


 キャラクター選択画面から切り替わり対戦相手が決まった。


「左のキャラが玉藻前さんで右が対戦相手です。CPUだから、そんなに強くないと思います」


「しぃぴぃゆぅとな?」


 聞き慣れない言葉に困惑しぼくの顔を見る。


「あ!もう始まってますよ!」


 説明する間もなく対戦のゴングが鳴っていた。


「何をすればよいのじゃ?」


 戸惑う彼女、CPUにそんなことがわかるはずもなく攻撃を繰り出してくる。


「なにするのじゃ!?童よ、なぜ対戦相手とやらは妾のきゃらくたぁを襲うのじゃ!?」


「そういうゲームなんです。えっと、右にあるボタンを押すと玉藻前さんも攻撃できます」


「ぼたん?これかえ!」


 勢いよくボタンを押す。


「おお!」


 玉藻前の選択キャラがパンチを繰り出す。


「そうやって相手を攻撃して倒すゲームなんです。左のレバーで移動したりジャンプしたりも出来ますよ」


「おお!おお!」


 一つ一つの動きに大興奮。初戦のCPU戦という事もあって、偶然当たったパンチやキックで徐々に巻き返して来た。


「レバーとボタンの組み合わせで必殺技も出せますよ」


「必殺技!どうやるのじゃ?」


「えっとですね……」


 ぼくは格闘ゲームでもっとも有名な単語を言おうとしたが、恐らく彼女には通じないと思い別の説明を考える。


「相手が右にいるから…レバーを下、右斜め下、右の後にパンチを押してください」


 いま思えば下→左or右斜め下→左or右、他に表現するなら⬇↘➡or⬇↙⬅、これを一言で表現出来るあの単語はすごいと思う。


「下、右斜め、右…パンチじゃ!」


 パンチが出た。


「これが必殺技かえ?」


「失敗ですね。もう少し速くやってみてください」


「うむ、そうか」


 彼女は真剣な表情でレバーとボタンを見る。


「どうじゃ!」


 またただのパンチ。


「失敗ですね、ぼくがお手本見せます」


 お手本を見せる為にぼくはレバーを握る。その時、彼女と密着。


「………」


 彼女はぼーっとぼくを見つめる。


「あの、ぼくじゃなくてレバーの方を見てください」


「そ、そうであったな!すまぬ」


 慌てて視線をレバーの方へ移す。


「こうです!」


 手慣れた動きで手本を見せる。すると操作キャラは手から気の塊、もしくはエネルギー波、格闘ゲームをある程度嗜む人にわかりやすく言うと飛び道具が出た。


「今ので何が起きるのかえ?」


 レバーを凝視していた彼女には何が起きたかわからなかった。


「次は画面を見ててください」


「うむ」


「えいっ!」


「これが必殺技かえ!?」


「はい!そうです」


 ちょうど、この一撃で対戦相手の体力はゼロになった。


「じゃが、妾の必殺技の方が凄いのじゃ」


「そうですね!あれは凄かったです」


 彼女の必殺技は空高く打ち上げても、その爆風だけで旧校舎がガタガタと音を立てる程の威力がある。対人に向けるようなものではない。


「次の対戦が始まりますよ。今度は手伝いませんから自分で頑張ってください!」


「うむ、やってやるのじゃ!」


 画面を見てると突然[NEW CHALLENGER]の文字が


(アチャー、まだ対人戦は厳しい気がするけど…)


 ぼくはあえて何も言わず見守る事にした。そして、対戦が始まった。


 開始早々に対戦相手は画面端でしゃがんでいる。


「なんじゃ?あやつ。しゃがんでおるわ。妾の事が怖いと見える」


 彼女は消極的な相手に安易に近づく。それが戦闘スタイルとも知らずに


「一方的に勝たせてもらおうぞ」


 すると対戦相手が飛び道具を放つ。


「ぬ!やるではないか」


 攻撃が届く範囲に近づこうとする。


「ぬぬ!」


 またしても飛び道具。


「ならばこうじゃ!」


 彼女は相手の飛び道具に合わせてジャンプする…しかし、相手はサマーソルトで迎撃。この戦闘スタイルは昔からあり初心者では攻略が困難である。


「なぜじゃ!なぜじゃ!妾の動きが読まれておるのか」


 冷静さを欠いた彼女はガチャガチャとレバーを回すが、相手は冷静に対処。気づけば負けていた。


「なんじゃあれは!?妾は何も出来なかったのじゃ!」


「あはは、運が悪かったですね」


 苦笑い。するとゲーム機の向こう側から声が


「ははは、弱すぎだぜ!あの動き絶対、初心者だ。見たか?あのバカみたいな動き」


「………」


 あの声は間違いなく彼女の耳にも入ってるはずだ。プライドの高い彼女なら怒り出してもおかしくない……だが、現状は無言でうつむいているだけだ。


「玉藻前さん、席を代わってください!」


「な、なんじゃ?」


 ぼくは彼女を強引に押し退ける。


「負けるのも経験としていいと思ったんですけど、玉藻前さんがバカにされてるのはガマン出来そうにないので仇討ちますね」


 勝負に絶対はないのだが、ぼくの表情からは勝ちが確定してるような頼もしさを感じる。


「た、頼むのじゃ!」


 彼女に託されぼくはキャラ選択へ。


(玉藻前さんを侮辱したんだ…相手にも屈辱を味わわせなきゃ!このキャラでいいかな)


 ぼくが選択したキャラは大柄で打撃や投げ技が得意なキャラ。そのキャラには飛び道具がない。逆に対戦相手は飛び道具で近づけさせず、ジャンプで近づいたら対空技で迎撃する。圧倒的に不利なのだ。


「また雑魚が来たぜ!ボコボコにしてやる」


 対戦スタート。先程と同様に対戦相手は画面端でしゃがんでいる。ぼくはズンズンと相手に近づくとこれも先程と同様に飛び道具、ぼくはガード。そして、また近づくがまた飛び道具、それをガード。これを何度か繰り返した。


「押されてるのじゃ…勝てるのかえ?」


 彼女は心配そうに尋ねる。


「大丈夫です!」


 近年の格闘ゲームは開発陣の涙ぐましい努力もあり実に優秀だ。昔なら飛び道具アリ、ナシで明暗が分かれる事もあったが、近年は飛び道具が無いキャラには対策技などが用意されていたりする。ぼくが選択したキャラにもその技がある。その技は相手に向かって強力なパンチを繰り出すシンプルな技なのだが、その技で飛び道具を相殺する事が出来る。つまり前進して飛び道具を相殺出来て攻撃も出来るのだ。欠点として技の動きが遅い。


「これから反撃します!」


 ぼくは相手に向かい前進。相手は相変わらず飛び道具。だが、そのタイミングに合わせて対策技、飛び道具を相殺した。そして、前進を再会、相手はまた飛び道具、またもや相殺。動きの遅い技で何度も飛び道具を相殺、もはや偶然ではない。


「なんだよ、こいつぅぅぅ!」


 動揺する対戦相手の声が聞こえた。自信を持っていた戦闘スタイルが容易く攻略されたのだ無理もない。


 ちなみにぼくが選択したキャラの対策技は威力も強力だ。当たれば体力ゲージを2割程削る。そんな技を繰り出しながら迫って来る事を思うと対戦相手の動揺も頷ける。


「そろそろ届くかな」


 ぼくの操作するキャラが相手の飛び道具を相殺、それと同時に拳の先がヒット。この対策技は威力はあるが相手が一発で倒れてしまいコンボには向かない。格闘ゲームでは流れるようなコンボに魅了される人が多い。ぼくが操作するキャラはそのコンボとは縁遠い。その分、威力の高い技が多いし一番の見せ場は投げにある。手が届く範囲に来た投げキャラは強い、威圧感もハンパない。相手が倒れてコンボが繋がらなくても起き上がったら…投げる! 投げる! 投げる!


「よし!トドメだ!」


 今までにない長いレバー入力から大技が放たれた。それは必殺技の上、超必殺技である。その威力は絶大で体力ゲージを4割以上削るものが多い。技は相手にヒット、投げキャラの超必殺技…それはもちろん投げ技だ。ド迫力な技や演出、技の最後の一撃が決まり画面にはK.Oの文字が


「勝ちましたよ!玉藻前さん」


「天晴れじゃ!実に爽快だったのじゃ!」


 2人で喜んでいると


「クッソー!ふざけんじゃねぇ!投げばかり卑怯じゃねーか!」


 ガンッガンッ


 対戦相手がいるであろう向こう側から怒声とゲーム機を叩く音が聞こえた。対戦に負けて怒り狂う人はごく稀にいる。そういう人は精神年齢が子供か、身も心も子供かのどちらかだろう。


「いちゃもんつけられる前に他の場所に行きましょう」


 ぼくは彼女の手を引きその場を後にした。

 二人のデートが始まりました。ゲーセンはデートの定番なのかな? 私的には映画が定番ですけど。皆さんはお行儀よくゲームをしましょうね(*´ω`*) それでは

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