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ぼくと花子さん  作者: 大器晩成の凡人
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58話 ぼくと花子さんと玉藻前

 今日は休日。休日には休日らしい過ごし方がある。家族と出かけたり、夕方まで友達と遊んだり…ぼくもぼくなりにぼくらしい休日を過ごす予定らしい。


 目指すは旧校舎3階の女子トイレ。


(正直、学校がある日の放課後は毎日行ってるし、皆勤賞狙うなら行く必要ないけど…ま、いっか♪)


 毎日、変わった人達と変わらない日々を過ごし、たまに刺激的な人と出会ったり、刺激的な出来事が起きたり、そんな日常が楽しくて仕方がないのである。


「あ…」


 そんなぼくに刺激的な出会いが……いや、再会が訪れた。


 その人物は女性である。頭に高価そうな髪飾りを着け、艶やかな長い黒髪を後ろで纏め、ドラマでしか見た事ない豪華な着物を着ている。着物が汚れるのを気にしてないのか、それとも気にする必要がないのか、その女性は歩道の端で地べたに膝を抱え座っている。


「妾はどうしたらよいのじゃ…」


 ぼくの存在に気づいてないのか遠くを見つめ弱音を吐く。


「玉藻前…さん?」


 問いかけるように名前を呼ぶ。


「誰じゃ?妾の名を呼ぶのは」


 顔を上げぼくを見る。潤んだ瞳、憂いを帯びたその表情は普通の男性なら一目惚れしてもおかしくない。それほどの色気が滲み出ている。


「あの、ぼくのこと覚えてませんか?」


「知らぬ、いちいち人の子の顔など覚えてられぬ」


(たしか、あの時はほとんど花子さんと玉藻前さんのやりとりだったから覚えてないのも当然か)


 あの時とは…玉藻前が自分の名誉を懸けて花子さんに挑んだ時の事だ。その時は花子さんが圧勝だったが、それは花子さんの絶対無敵領域のトイレだったからだ。カラクリを知らない玉藻前は恐怖を植え付けられ逃げる事になった。ちなみに正体はかの有名な九尾の狐である。


「前に花子さんのトイレに居たんですけど…」


「花子!……“さん”じゃと!?」


 花子さんの名前を聞いた途端、立ち上がりぼくから距離を取る。ちなみに花子さんに返り討ちにされた時に“さん”付けを半ば強要された屈辱もあるはずだが、本人が居ないこの場で“さん”付けしてしまうほど、未だに恐怖は消えてない様子。


「わ、妾を始末しに来たのかえ?」


 怯え警戒する玉藻前。相手はなんの変哲もない小学6年生なのだが…


「いえ、そんな事しませんよ。今から花子さんの所に行く途中で玉藻前さんを見掛けただけです」


「ホントかえ?」


「はい」


「ならば、頼む!妾がいまだ近くを彷徨いてる事は花子…さんには言わないでおくれ!」


 必死に懇願する。


「大丈夫ですよ」


 そもそも花子さんはトイレから出られないし、出れたとしてもそんな事はしないだろう。


「ふぅ、感謝する、童よ」


 胸を撫で下ろす。


「それじゃあ、ぼくは行きますね」


 ぼくはその場を立ち去ろうとする…


(なんか、初めて見た時よりだいぶ印象が違うなぁ、それほど花子さんが怖かったんだろうなぁ……)


 ぼくは名前を呼ばれ顔を上げた時の彼女の表情を思い出す。そして、ぼくの脳内に彼女の途方に暮れ弱気に満ちた言葉が甦る。『妾はどうしたらよいのじゃ…』、自信に満ちてた彼女からこんな言葉が出るなんて…


(……ダメだ!ほっとけない!)


 足を止め玉藻前の方へ振り返り…


「玉藻前さん!」


「な、なんじゃ!?やはり、妾を捨て置けぬと始末する気かえ」


 小学6年生に怯える玉藻前。


「違います。あの…」


 ぼくの頭の中では次に口に出す言葉の候補が複数あった。[話相手になりますよ]、[相談に乗りますよ]、[悩みがあるなら聞きますよ]


 沈黙は一瞬だったが、その一瞬で恐怖が増したのだろう、玉藻前はぼくに背を向け走り出していた。


「あ、待ってください!」


 命を狙われてると思ってる玉藻前からしたら止まるはずもなく逃げていく。


「んもぅ!」


 仕方なく後を追う。


 数十メートル先を走る玉藻前は角を曲がる。数秒遅れでぼくもその角を曲がるが玉藻前の姿は消えていた。住宅街という事もあって他人の家など気にしなければ、いくらでも隠れる場所がある。


「うーん、どこ行ったんだろう?」


 キョロキョロしながら玉藻前を探す。すると目の前から一匹の狐がこちらに向かって悠々と歩いてくる。


「…………」


 ぼくは立ち止まり、その狐を注視する。狐が怖い訳ではない。狐が珍しい訳でもない……いや、住宅街で狐は珍しいといえば珍しいのだが…ただ、その狐は野生とは思えない程に毛並みが良く金色に輝いてる。それだけでも十分に目立つのにその狐には更なる特徴があった。なんと尻尾が九つあるのだ。そして、ぼくはその狐の正体を知っている。


「コーン」


「………」


 狐は一声鳴くとぼくの横を通り過ぎた。ぼくはその姿を目で追う。


(玉藻前さん、気づかれてないと思ってるのかな…プライド高そうな人だったし普通の狐のフリをするほど必死なんだろうけど…天然なのかな?気づかなかったフリした方がいいのかな……うーん、やっぱり誤解されたまま怯えられるのはイヤだし!)


 悩んだが声をかける事にした。


「あの…玉藻前さんですよね?」


 ぼくは尻尾が九つある狐に声をかけた。狐はゆっくりこちらを振り向き


「なぜバレたのじゃーーー!」


 一目散に逃走。


「待ってくださーい!」


 やはりぼくの言葉で止まる事はなく逃げていく。九尾の狐の姿で逃走してるせいか先程より早く見失ってしまった。


「見失っちゃった…」


 あてもなく探し回ると公園に辿り着いた。


「公園…まさかね」


 その公園にはブランコや滑り台の他にドーム状の遊具がある。ドーム状の遊具は正式な遊び方はわからないが、半円状の入り口があり中に入れるようになっている。


(隠れられそうなのはあそこくらいだよなぁ)


 ぼくはドーム状の遊具に近づく。


「玉藻前さん、居ますか?」


 ドーム状の遊具の中を覗き込む。


「ひっ!」


 ドーム状の遊具の中には玉藻前の姿にあった。


「許しておくれ!妾はもうなにもせぬ」


 怯える玉藻前。


「なにもしませんよ」


 玉藻前の前に立つ。


(なんて声をかけよう…さっき考えてた言葉じゃダメな気がする……よし!決めた!)


 さっき考えてた言葉とは、[話相手になりますよ]、[相談に乗りますよ]、[悩みがあるなら聞きますよ] これらを候補から外した。これらの言葉はどことなく上から目線な気がしたのだろう。ぼくが彼女にかけた言葉は…


「玉藻前さんの話が聞きたいです」


 彼女の尊厳を守り尚且つ自信を取り戻して欲しいという心遣いから出た言葉だった。


「妾の話かえ?」


「はい!」


 ようやく落ち着いて話が出来る雰囲気になり、ぼくは彼女の隣に座る。

 最近、忙しくて更新を忘れてしまう事があります。申し訳ないですm(_ _)m  

 それはさておき、今回は玉藻前がメインのお話です!あのまま退場させるには勿体ない存在だったので再登場です! それでは

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