おかえりなさい
「おかえりなさい」
蜂蜜を塗った、焼けたトーストはあなたの好物
食後には濃いめの珈琲
「君の作る珈琲は美味しいよ。いつもありがとう」
そう優しく言ってくれた。
どれだけ時が経とうが、心であなたを覚えています
屋敷の扉が開く音。
ああやっと帰ってきた。おかえりなさい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
旧型のアンドロイドだ。ほとんど機能してない
反乱を起こしたロボットとの戦争で、首都は壊滅
俺たちは戦場跡を漁って何とかしのいでいる。
「〜〜♪」
アンドロイドから何か聞こえる。
音声回路は生きているのか。
「〜♪」
歌声?懐かしい感じがする。
珈琲と蜂蜜の匂い。
いつも通りの、朝食。
知るはずのない映像が頭に流れ込んでくる
「君の作る珈琲は美味しいよ。いつもありがとう」
夕日の光が部屋に満ちる
「いずれ、ここにも戦火が及ぶだろう。
君だけは、生きて欲しい」
夜の星空が街を照らす
「行ってくる。またすぐ帰ってくるから」
晴天の青空はどこまでも続く
破損し、むき出しになったアンドロイドの内部が
チカチカと赤く光っていた。
「ごめん。俺は君の主人じゃない」
しばらくしてアンドロイドは機能を完全に停止した
彼女の墓に花を添える。
ずっと、主人の帰りを待っていたのだろうか
心も願いも、戦争は壊す。
広い屋敷の庭には、二つの墓が並んでいた。