こちらは、婚約破棄専門ダイヤルです。
BGMに、ヴィヴァルディの「春」が聞こえる。
「……婚約破棄をする場合は、1を
やっぱりしない場合は、2を
皇帝陛下と新規に婚約して溺愛される場合は、3。
もう一度聞く場合は、9を押してください。
ループしてやり直す場合は、0を押してください。」
私は、白い空間にいた。
辺り一面、何もかもが白い。
ここが上なのか、下なのか。
縦なのか、横なのかすらわからない。
あくまでもハッキリと白く、だだっ広い空間のようだ。
「もう一度聞く場合は、9……?」
問い合わせの電話をしていた。
うっすらと思い出せる記憶には、確かに、何かを聞かなければと電話をしていた。
……喫茶店、コーヒー、観葉植物の、ポトスにパキラ。
道路沿いのガラス窓が、いきなり暗くなって、何かぶつかるような――。
「9、ですね。
もう一度、最初からお伝えいたします。
こちらは、婚約破棄専門ダイヤルです。
従来、お客様の異世界への転生におきまして、ご案内の神がおりましたが、神の成り手不足により、マニュアル対応を取り入れました。
また、昨今、異世界転生の際、婚約破棄を希望するお客様が多数いらっしゃるため、専門のダイヤルを設けました。
こちらがその部門でございます。」
異世界、転生? 婚約、破棄?
コレはアレだわ。
喫茶店で読もうと持ちこんでた、ライトノベルだ。
待って、転生?
えっ、私、死んだの?
死んだとしたら――ずいぶんとハイコンテクストな、走馬灯ね。
あっ、ハイコンテクストが何かはググってくれる?
走馬灯も、実際に見たことなくても、知ってるのと一緒よ?
頭の中で、誰かに語りかける癖が出ちゃった。
まさかね、これから異世界転生する現場ってやつなの?
夢だとしても、貴重な体験だわ。
「……このまま、異世界転生後に婚約破棄をする場合は、1を
やっぱりしない場合は、2を
皇帝陛下と新規に婚約して溺愛される場合は、3。
もう一度聞く場合は、9を押してください。
ループしてやり直す場合は、0を押してください。」
待って待って。早い早い速い!
このまま、番号を選択したら、その通りになっちゃうの?
「もう一度聞くから、9!」
ふーっ。
いったん、落ち着いて考えなきゃ。
ずいぶん、焦らせてくれるじゃない。
「9、ですね。
もう一度、最初からお伝えいたします。
こちらは、婚約破棄専門ダイヤルです。」
そうそうそう、神様が足りてないから、マニュアル対応的な話よね。
OK。私、わかってる、えらい。
でも、なんで婚約破棄専門の???
「……いらっしゃるため、専門のダイヤルを設けました。
こちらがその部門でございます。」
しまった! 理由っぽいところ、聞き逃した!
コレだから、話の前半だけ聞いて、大事なとこ聞き逃してるって、上司の査定ペケ食らうのに!
「……このまま、異世界転生後に婚約破棄をする場合は、1を
やっぱりしない場合は、2を
皇帝陛下と新規に婚約して溺愛される場合は、3。
もう一度聞く場合は、9を押してください。
ループしてやり直す場合は、0を押してください。」
まってまって。ええと、婚約破棄、する、しない、皇帝、陛下、新規、婚約、溺愛、もう一度聞く!
と、とにかく、もう一度聞くよ! しっかり聞くから!
「9! もう一度聞きます!」
ふぅぅーっ。
あれ? 今、もう一度聞く、の後にも何かあった?
なんだっけ?
「9、ですね。
もう一度、最初からお伝えいたします。
こちらは、婚約破棄専門ダイヤルです。」
オーケーOK。神様不足、わかってるって。この後よ。
「従来、お客様の異世界への転生におきまして、ご案内の神がおりましたが、神の成り手不足により、マニュアル対応を取り入れました。」
知ってる知ってる、神様不足、要は、オペレーターが足りないってことよね?
ん? オペレーター?
「また、昨今、異世界転生の際、婚約破棄を希望するお客様が多数いらっしゃるため、専門のダイヤルを設けました。
こちらがその部門でございます。」
婚約破棄希望者がたくさんいて、追っつかないってこと?
「……このまま、異世界転生後に婚約破棄をする場合は、1を
やっぱりしない場合は、2を
皇帝陛下と新規に婚約して溺愛される場合は、3。
もう一度聞く場合は、9を押してください。
ループしてやり直す場合は、0を押してください。」
だから、はやいって!
まって! オペレーターさんに代わって!
そうよ、わからない時は、オペレーターさんに聞かないと!
「オペレーターさんに代わってください!」
「オペレーターに、おつなぎ、ですね。このまましばらくお待ちください。」
BGMに、ヴィヴァルディの「春」が流れる。
一度聞き終わり、二度目を聞き、三度目まして音楽が終わる。
四度目、五度目、と、永遠に思えるほど、「春」が白い空間を埋め尽くす。
そして私は――。
ずっと、0を押していることに気付いた。
ずっとずっと、最初からずっと。
00000000000000
00000000000000
0000000000000000
「――ループしてやり直す場合は、0を押してください。」
ヴィヴァルディの「春」が、また、始めから聞こえた。
(♾️)
ネタを拾ってくださり、作品を書いてくださいました。
ご紹介です♪
ただのぎょー or なまこ
唯乃 尭さん
『婚約破棄保険のおかげで無事に婚約破棄することができ、幸せになりました!:Mさん(仮名)』
https://ncode.syosetu.com/n2535ih/