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第1話 田嶋ハル 0

 テレビのワイドショーで最近話題になっているネット小説が紹介されていた。


 タイトルは『タナトスと踊れ』――


 その小説が最初にネット上に公開されたのは今から四年前。当時は誰からも見向きもされず、のちに運営サイトが閉鎖してしまうという悲運に見舞われ、結果誰からも相手にされることなく消滅した。


 だが今年になって、その小説は別のサイトに投稿された。するとその小説は突如として日の目を浴びることになった。


 内容は凡作の粋を出ないどこにでもあるようなミステリだった。多少スプラッタな表現が含まれてはいたが、それもその道のプロと比べれば足元にも及ばない。それが脚光を浴びることになったのは数十万人のフォロワーを抱えるインフルエンサーがSNSでその小説を取り上げたからだ。

 有名なインフルエンサーが話題にしているというだけで大衆、特に若い世代を中心に知名度が拡大していった。そのインフエンサーの支持層は普段本を読まない人間が大半だったためか、その小説がよほど新鮮に写ったらしい。評価はみるみるうちに上がっていき、そこから一般層にも話題が波及し人が押し寄せPV数はうなぎのぼり。


 今回のことで必要なのは中身ではないのだと思い知らされた。


 本当に必要なのは宣伝広告。だからこそ大手広告代理店は今でも業界にその名を轟かせている。彼らの胸先三寸で物の価値の良し悪しが決まってしまうのだから、誰も彼らに足を向けて眠れないわけだ。


 これだけの注目を浴びた小説を出版社が放っておくはずはなかった。あれよあれよ言う間に書籍化の話が持ち上がり映画化までもがすでに決まっている。出版社はさらに広告費を注ぎ込んで小説の宣伝に力を入れ話題作りを行っていった。今テレビで流れているこの企画もその一環なのは間違いない。


 番組が後半になると、作者の田嶋ハル本人がスタジオに登場した。黒のショートヘアに派手すぎないハイウエストのワンピースがよく似合う美人に分類される女性だ。こんな美人作家があんな内容の小説を書いているのかというギャップもこの小説が受けた理由の一つかもしれない。それを証明するかのように話題は小説の内容よりも彼女のプライベートに関する話にウエイトが置かれていた。


 田嶋ハルは嫌がるでもなくむしろ前のめりな姿勢でMCから振られた質問に笑顔で受け答えしていた。


 出身は武蔵野で学生時代に卒業旅行で行ったインドでタージ・マハールを見た時に田嶋ハルというペンネームを思いついたのだとか。

 年齢を訊かれればいくつに見えますかと返し、MCがありえないくらい低い数字を答えると、田嶋ハルがこう見えても三十路みそじなんですよと微笑む。会場中から「えー、見えなーい」というどよめきが起こと、そのリアクションを受けて彼女はは満更でもない笑顔を見せる。

 もう何年も前から使い古されたテンプレのようなやり取りに見てるこっちは冷笑するばかりだ。でもこれが正解なのだ。田嶋ハルは番組が欲しがっているものを理解している。こういう人間はきっと重宝される。


 だからといって何をやっても許されるわけではない。たとえ美人であっても罪を犯せばそれ相応の報いを受けるのが道理というものだ。そして彼女に罰を与えるのはわたしの役目。わたしにしかできない使命でもある。

 テレビに映る田嶋ハルは間違いなく輝いていた。人生のピークと言っても過言ではないだろう。そしてこれが彼女にとっての本当のピークになる。

 なぜならこれからわたしがこの女を奈落の底に突き落とすのだから。たとえこの身を犠牲にしてでもわたしはそれをやらなければならない。


 番組のMCが田嶋ハルに小説を書こうと思ったきっかけについて訊ねていた。彼女は臆面もなく堂々と切っ掛けに至る自らの過去を語りだした。

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