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12月5日 0時05分

「俺だったら、誰かが死体を燃やして、でも死体が再生して焼却炉から出てきたのかと思っちゃうね」




男性4人と、女性1人。

無表情で威圧感のある黒髪の男性。

綺麗な黒髪の、スラリとした女性。

その隣の、真面目そうな顔立ちの男性。

明るい茶髪の、優しげな男性。

その隣でレイエンフィリアの顔を覗き込む、甘い顔の男性。


揃いも揃って、顔がいい。




「翔、黙って後ろ向いてなさい」


「うぃ」




艶のある長い黒髪を風に靡かせて、細身の女性がレイエンフィリアに歩み寄った。




「その格好じゃ寒いでしょう。これを羽織って」




自分が来ていた薄手のコートをレイエンフィリアに羽織らせた。膝の数センチ上まである長めのコートで、裏地があるからか暖かい。




「車を待たせているの。話はそこで聴くわ。行きましょう」




ついてきて、とでも言うように、レイエンフィリアの前を歩いていく。女性の後を追って、男性4人が背を向けて歩き出す。




「どうぞ、アルビノのお嬢さん?」




黒光りする車の扉を開けて、甘い顔をした男性が親しげに笑いかける。




────あるびの……って何かしら?




その言葉はよくわからないが、視線は確実にレイエンフィリアに向いている。レイエンフィリアは、屈みながら車内へと足を踏み入れた。


扉が閉まり、甘い顔の男性がシートに座ると、ゆっくりと車が動き出した。




「何か飲む?」


「……っあ」




何度か唾液を飲み込んではいるが、喋ることができるほどではないようで、喉がまだへばりついている。


眉根を寄せながら、レイエンフィリアは音の出ない口で『水』と言う単語を言おうと、パクパクと口を動かした。




「……水ね。ミネラルウォーターしか無いけれど……」




女性が、隣の席に置いていた青い箱から、透明な筒を取り出した。




「どうぞ」




手渡されたけれど、レイエンフィリアには手渡されたもののどこが水なのかがよくわからない。筒は確かに透明で、中には水が入っているようだが……中の水を、どうやって飲めばいい?




「キャップ、開けようか?」


「……?」


「よっ……と。どうぞ」




女性の隣に座っていた男性が、レイエンフィリアの持つ透明な筒に手を伸ばし、パキパキパキッ、と言う音を立てて、上部の青い部分を掴んで回していた。

レイエンフィリアの脳内は『?』マークで埋め尽くされる。

青い部分が無くなった透明な筒。「どうぞ」と言われても、何が「どうぞ」なのか




「茜、俺にも頂戴」


「……はい」


「ありがと」




甘い顔の男性も、レイエンフィリアと同じように透明な筒を受け取り、青い部分を回して外し、外れた部分を口元に持っていき──




「⁉︎」




あろうことか、そのまま筒を傾けて飲み始めたのだ。

レイエンフィリアは目を剥いた。目が飛び出るかと思った。




────カップは⁉︎これに直接口をつけて飲むの⁉︎




「…………?」




男性の飲み方に、意見する人は誰もいない。おかしいと思っていないらしい。微妙な顔をしながら、レイエンフィリアは筒の上部にある小さな穴に口をつけ、筒を傾けた。中に入っていた水が、レイエンフィリアの口内に流れ込んでくる。


随分と水を飲んでいなかったのか、水を一口飲んだだけで身体に吸収されていくのがわかった。




「軽く自己紹介でもしようか」




優しげな男性が、レイエンフィリアに微笑みかける。




「はじめまして。俺は(かける)と言います。苗字は長いので省略で。よろしくお願いしますね」


「…………」


「俺は(しょう)です!女の子が来てくれるなんて嬉しいなぁ。よろしくね。何かあったら俺を頼って」




この車の車内は、扉以外の部分にはシートがあって、四方を囲むように設置されている。進行方向を向くレイエンフィリアの右手には、奥に駆が、手前に翔が座っている形になる。


その、対面。




「はじめまして、(ゆう)と言います。貴女に大きな怪我がなくてよかったです」


「私は(あかね)と言います。同じ女性ですから、なんでも話してください」




奥に座る茜という女性と、その手前に座る勇。そして彼らの最奥には、進行方向に背を向けた、真っ黒な威圧感のある男性が座っている。

皇族のレイエンフィリアでさえ、萎縮してしまいそうになる威圧感。ただそこに座っているだけで威厳がある。




(すばる)と言う。この5人のまとめ役、とでも思ってくれ。気兼ねなく、何でも言うといい。大半は叶えよう」




威圧感を感じていたはずが、彼が顔を上げ、目線を合わせて、さらに目元だけで微笑んだ瞬間、印象が変わった。


無表情な黒い王様は、威厳と自信とリーダーシップがある男性だった。




「ゎ、わ、たし……は……」




掠れがひどい。けれど、声は出た。




「わたし、は、レイエ、ン、フィリア、です。ここじゃ、ない世界から、来ました」


「ここじゃない世界。へぇ、異世界転生ってことだ」


「それは、自分の意思で?それとも、誰かに指示されて?」


「……指示、です」


「誰から?」




信じてもらえるだろうか。

【裁定者】からの指示です、なんて言って。


普通の人なら、異世界転生、なんて信じないだろう。頭がおかしくなったか、気まぐれか。




────あ、れ?




「…………あの、その前に……なぜ、私の、居場所が、お分かり、に?」


「ああ、それはね」




駆が、柔らかな仕草で昴を見た。昴は無言で頷く。




「妖精がね?半日くらい前からすごく騒いでいて」




駆は笑顔でそう言った。勇にアイコンタクトを送ると、勇は笑顔で小さく呟いた。その瞬間、レイエンフィリアの目の前に、緑色の炎があがる。




「……っ⁉︎」


「この子が妖精。名前は翠器(すいき)




30センチほどの小さな体はクリーム色っぽく、髪のようなものが逆立っていた。肘から下、膝から下、そして髪が深い緑色の炎を纏っている。小さな顔に不釣り合いなほど大きな目には白目の部分がなく、無感情にレイエンフィリアを見つめている。


翠器はふわりふわりとレイエンフィリアの前に進み出て、浮いていた身体を地面に付け、首を垂れた。




「……⁉︎」


「貴女は随分、妖精に慕われているのね。この島にはあまり妖精はいないのだけれど、数少ない妖精たちがみんな騒いでいたのよ」


「『愛し子が来る!愛し子が来る!』ってね。翠器の慌てようったら凄かった」




微笑ましげに勇が翠器を見つめる。そんな彼の視線に構うことなく、翠器は陶酔しきった瞳でレイエンフィリアを見つめている。




「愛し子。お待ちしていました。お会いできて、光栄です」


「私が?」


「はい。妖精の愛し子がこの世に生を受けたのなら、我らは皆、その存在を察知します。例え貴女が、如何なる場所にいようとも」


「この子が教えてくれたのさ。『愛し子がここから地上にやって来る』ってね」


「それで私たちは、あの場所で貴女を待つことができたってわけ」




レイエンフィリアを、5人が微笑みながら歓迎している。

しかも彼らは、妖精の存在を正しく信じている。その目で捉え、言葉を交わして。




────嗚呼、そんな、彼らならば。




信じても、語っても、いいのではないだろうか。笑わずに聞いてくれるのでは、ないだろうか。




「私に、この世界へ来るように指示したのは──【裁定者】と名乗る【神人】です」


「【シンジン】」


「漢字は?」


「カンジ……?えっと……」




レイエンフィリアは困った顔になってしまう。カンジというのはなんだろうか?


瞬間、身体の制御ができなくなって──




【僕が代わろう】




レイエンフィリアの口から紡がれたのは、オルディネの声だった。




「「「「「⁉︎」」」」」


【はじめまして、神の代行者たち。僕はオルディネ。九龍院家が作り上げた新人類の1人。神の人、神人だ】


「……九龍院はまた、とんでもないものを……」




昴はそう言って頭を抱えた。他の4人も、呆れ顔でため息をついていた。




【さすがは九龍院、といった感じだろう?】


「連中はいい加減……いや、壮也たちは良いんだが……お歴々がな……」


「……うーん、と。レイエンフィリアさん」


【レイアで構わない、だそうだ】


「じゃあ、レイア。今から私たちに正体を話します。覚悟して頂戴。貴女よりもよっぽど、おかしな人間だから、私たちは」




茜の言葉に、レイエンフィリアは眉根を寄せ──られはしなかったが、肉体の主導権がレイエンフィリアにあればそうなっていた。


静かに車が停車する。

窓の外には、大きな鳥居が聳え立っていた。








꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖








(すめらぎ)学園都市島。

そこは大きく分けて3つの島で成り立っている。住民島、学園島、産業島の3つの島は橋で繋がっていた。その他にも幾つか島はある。そして、大きな3つに与してはいないものの、最も重要な島があった。


人神島(ひとがみじま)


大きな神社とその奥に広大な敷地面積の屋敷を有する島だ。その島に立ち入ることができるのは、都市島の人間でもほんの一握り。神子と、神子に許された者だけだ。


神社を抜けた先に広がる、5つの巨大な屋敷。


東の陽善寺(ようぜんじ)邸、西の海靈院(かいれいいん)邸、南の陰善寺(いんぜんじ)邸、北の月光院(げっこういん)邸。そして、中央の天宮院(てんぐういん)邸。それぞれの屋敷を総称して、先宮院(せんぐういん)邸と呼ばれている。




「改めて、レイア。北にある月光院邸の主、月光院茜です」


「東の陽善寺邸の主、陽善寺駆です」


「南の陰善寺邸の主、翔で〜す」


「西、海靈院昴」


「それで、中央の天宮院邸の主、天宮院勇です。ややこしいでしょ?ごめんね」




主導権を返してもらったレイエンフィリアは、目を白黒させながらその話を聞いていた。案内されたのは、5つの屋敷の中で最も大きな中央の屋敷、天宮院邸。


皇城でも見た事がないほど広大な敷地、先が見えないほど長い廊下、季節問わず花々が咲き誇る庭園を通り過ぎた先の、勇の執務室。


レイエンフィリアの執務室とほぼ同じ大きさではあるが、そこに至るまでの過程が規格外すぎて、レイエンフィリアはクラクラしていた。




────情報量が、多過ぎる。




彼らは、【神子】という存在なのだと言う。


神の子とか、神の言葉が聞こえるとか、そういうベクトルではなく。




「私たちはね、【神様の代行者】なの」




神の役目を、人の姿で代行する。

それが、【神子(みこ)】。




「人の言葉を、人の姿で聞き届け、人の姿で叶える存在。人の姿でありながら人では無く、神でありながら神では無い」




その任期は、50年。




「神子としての信託が降り、肉体が神として目覚めてから、きっかり50年。50年の任期が終われば、俺たちは死ぬ。肉体が神様の力に耐えられなくて、死ぬ。確定された未来がある、人型の神様なんだよ、俺たち」




その全ての力は、島で生きる人々の為に。




「この島は、世界から捨てられた島。戸籍の無い人、親に捨てられた孤児──そして、人ならざるモノをその目に映す者の集う島」




ここはいわば、生簀(いけす)

自分たちの平穏を保つための、生贄を押し込んだ生簀。




「日本は特に、妖や妖怪の存在が信じられている。幽霊や物怪、神の存在が、情報としても語られる。そんな人ならざるモノたちに、かつての重鎮たちが用意した生簀。それがここ、(すめらぎ)だ」




お前たちを目に映す、力の強き者はここにいる。お前たちに喰われても、誰にも迷惑が掛からない孤独な人間はここにいる。




鬼さんこちら、手の鳴る方へ。




「神子は、世界中から力の強い住民を求めてやって来る人ならざるモノたちを、退け、祓い、住民を護る為にその身を費やす」




任期は50年。その全ては、住民の為に。




「これが、神子の役目。この人神島で暮らしながら、学園に通いながら、迫り来る死に怯えながら、住民たちの為に命を削る、人の形をした神様」




それが、目の前に座す5人の人間。


微笑みながら、およそ人が背負うには重すぎるものを背負って、それでも尚毅然と戦い続ける人型の神様。




「オルディネ、貴方は私たちに何を求めているの?」


【求めるものはただ一つ。九龍院家の人間に接触を図りたい。可能なら、壮也・総一郎・美風・航夜・集のうちの誰かが理想だ】


「……別に不可能ではない、けれど……時間がかかるわよ?今すぐ連絡を取って、最短でも返答は明日の朝。そこから本土までの移動には半日かかる」


【それでも構わない。最短でお願いしたい】


「昴、どうする」


「構わん。駆、九龍院家に連絡を。翔、船の手配を頼む。勇、彼女を客間に案内しろ。茜、使用人に彼女の衣装の用意を頼んでくれ」


「了解」

「りょーかい」

「わかった」

「ええ」




昴を除く4名がほぼ同時に頷き、椅子から立ち上がりかけたところで、




【嗚呼、言い忘れていた】




オルディネが、今思い出しました、とでも言うように話しだした。




【彼女が逃げてきた研究所。そこで見かけたよ?君たちの探し物……いや、探し人、かな?】


「「「「「⁉︎」」」」」




全員の顔が凍る。オルディネの声を発するレイエンフィリアを、驚愕の顔で睨むように見つめる。




「だ、れを……?」


【【天久(てんきゅう)の神子】を】




茜が、泣きそうな顔になる。

テンキュウノミコとはなんだろう。研究所で見た、水槽に入れられていた人の事だろうか。レイエンフィリアの目には、何かがいる程度にしか見えなかったけれど。




「……勇」


「うん、そうだね。昴、本土への足の手配を。駆、翔。2人は是が非でも九龍院家に連絡を取るんだ。手段は問わない。茜、茜は美結悕さんとレイエンフィリア嬢のために服の手配を。──茜?」


「…………」




突然指揮を執り始めた勇の言葉に全員が頷いていたけれど、茜は目に涙を湛えながら呆然としている。




「……茜」


「……っ」


「⁉︎」




レイエンフィリアは目を見開いた。

勇は、呆然とする茜に合わせて屈み、彼女にそっと口付けていた。




「茜、動揺するのはわかる。けれど起きろ」


「ご、めんな、さい」


「みんな動こう。昴、俺も協力する」


「わかった」


「……レイアさん、行きましょう」




茜の声に導かれ、レイエンフィリアは再び訳もわからず廊下を進む。




『オルディネ。さっき話していた、【テンキュウノミコ】って、なんなの?』


【経緯が複雑だから、君は知らなくていい。ただ、目の前にいる茜のお姉さんで、神子の5人はそのお姉さんを探しているってことだけ、覚えておいてくれ】


『お姉さんだったのね……』




だから、茜は泣きそうな顔をしたのだろう。探していた姉が見つかったから。




『どのくらい……会えていなかったの?』


【まぁ、小さい頃から、とだけ。僕もそこまで知らないんだ。茜自身も小さくて、よく覚えていないらしくて】


『そう……』




小さい頃から、居ることは知っているのに会うことができない家族。




『想像も、つかないわ』




周囲の兄姉たちは、自分を随分と愛してくれていたから。




「レイア、私とあまり背丈が変わらないから、私の服をあげようと思うのだけれど、好きなデザインとかあります?」


「過度に露出が激しくなければ、なんでも」


「わかったわ。どうぞ」




開けられた扉の先は、レイエンフィリアの私室を3倍くらいにした広い部屋。茜はずんずん進んで、右手にある部屋の扉を開ける。




「少し待っていて。見繕ってくるので」


「え、ええ……」




大きな本棚とガラスで囲まれた小さな庭、部屋の奥には広いベッド。窓ガラスみたいに大きなガラスのテーブルとソファはわかるけれど、それ以外のものは、レイエンフィリアは見たことがない。




────壁側にあるあの黒光りするものは何?




【アレはテレビと言う。遠くの出来事をこれで見ることができるんだ】


『どのくらい遠く?』


【例えば……今、昴が何をしているのか、君はわからないだろう?コレに、昴が今何をしているかを撮影する機械があれば、その機械が撮った映像をコレで見ることができる】


『キカイって何?』


【そこからか?家族で写真くらい撮ったことあるだろう?】


『???肖像画と違うの?』


【俺が悪かった。忘れてくれ。君の世界には無い、先鋭的な機械が数多くあるってことだ、この世界には】


『よくわからないけれど、物凄くすごいってことは、わかったわ』


【君、意外と語彙力が無いんだな】


『失礼ね』


「レイア、コレはいかがですか?」




オルディネと問答をしていると、茜が扉から出てくる。その手には、ネグリジェに似た、けれどそれよりも厚手の布が使われた衣装を持っていた。




「???ドレス……にしては短いわね?」


「えっ、ワンピース知らないんですか?」


「わんぴーす」


「えっと、ドレスの超簡易版!みたいな」




────茜嬢、君もか。


────オルディネお黙り。




「……でも、そうね。ドレスより動きやすそうだわ」




茜が選んだのは、白い長袖のシャツに紺色のノースリーブワンピースを重ねたように見える、膝丈のワンピースだった。着てみると、シャツとワンピースは繋がっていて、デザインのわりに着やすい。




「これ、素敵だわ!ドレスよりずっと軽い!コルセットも付けなくていいなんて、とっても楽なのね!」




ドレスを着慣れていた分、レイエンフィリアにはワンピースの軽さは面白かった。腹部や胸を締め付けていたコルセットも無いなんて、考えられなくてはしゃいでしまう。




「嗚呼、中世ヨーロッパな世界なんだなぁ……コルセットなんて骨格が歪むものつけて……」




遠い目をしながら、茜はレイエンフィリアを見つめていた。




「!!…………ええ、わかったわ」




突然、独り言のようにぶつぶつと呟いた茜は、誰かに返答するようにそう言った。




「茜さん?」


「昴から、足の準備ができたと連絡があったんです。行きましょう。レイアの足のサイズは……微妙に小さいか。うーん」


「少しくらい大きくても平気よ?」


「そう、ですか?ごめんなさい。ブカブカしたら歩きづらいかも」


「お借りできるだけ十分だわ。どうもありがとう」




レイエンフィリアがそう言うと、茜は再び部屋に入り、低めのヒールのブーティを持ってきた。茶色の革を使っていて、艶々としている。




「本革だし、コレなら歩きやすいかも。靴下履いてから、履いてみてください」




くるぶしの出る靴下を履いてから、レイエンフィリアはブーティを履いてみる。その靴は、レイエンフィリアも履いたことがないほど履き心地がいいものだった。硬くないし、ヒールが高いわけでもないし、何より歩きやすい。




「軟らかくて、歩きやすいわ!この世界の靴ってすごいのね!」


「現代技術を中世ヨーロッパに持って行ったらこうなるんだなぁ……現代技術、やりおる」


「装飾が少ない分軽くて、一歩が軽いの!締め付けられている感じもしないし!」




随分とお気に召したらしい。レイエンフィリアはキャッキャと喜んでいる。

茜は部屋の扉を開けて、レイエンフィリアに部屋を出るように促した。




「楽しいのもわかりますが、ここからまた歩きますよ。急ぎましょう」




長い廊下を進んで、曲がって、進んで曲がって進んで進んで。最初に見た広い玄関にやってくる。




「飛行機を用意した。金が掛かるからあまり使いたくなかったが」




昴が仕方なさげに言う。勇はまぁまぁ、と嗜めるように昴の肩を叩いた。




「こういう時のために持っているんだから、躊躇いなく使わないと。そのために使用人に整備してもらっているんだし」


「まぁそうだが」




昴はレイエンフィリアを見つめて、言った。




「……行くぞ」




レイエンフィリアには『ヒコウキ』がよくわからなかったが、車に乗り、少し走って降りた先。そこにあった不思議な乗り物のことなのだということだけはわかった。




「到着は明日の朝だ。行くぞ」




なんの躊躇いもなく5人はそれに乗り込む。レイエンフィリアはもうキャパオーバーで、一周回って冷静になっていたため、頭上にハテナマークを飛ばしながら席についた。


これでどこかの行くらしい、ということ以外はいまだにさっぱりわからなかったが、取り敢えず、オルディネの目的が達成できそうなことに安堵して、レイエンフィリアは目を閉じた。


突然大きな音が耳に届いてヒコウキが動き出したけれど、情報を詰め込みすぎたからか、レイエンフィリアの瞼は重くなっていて、思うように開かなかった。

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