第一話 始まりの森
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暗闇の中で蝋燭だけが淡く灯る教会。そのなかで、少年は息も絶え絶えに走った。
自分がどうして走れているのか、それはきっと生物としての生存本能だろう、と少年は思った。
実際、生きたいという強い思いがなければ、少年は
すでに疲労困憊で倒れていただろう。
先程までの戦闘で満身創痍になっており、骨も数本折れている。
その手には剣を握っており、戦う力もあるものの、少年には圧倒的に戦いの経験が欠けていた。
なにせ彼は、つい数時間前までは命のやり取りなんてものとは全くもって無縁な世界にいたからだ。
しかし今はこうして修羅の中に生命を晒している。
とんだ皮肉だ、と少年は自分自身を笑った。
そして、森までたどり着き、少年は倒れた。
もはや助かる見込みは無いな、と思った。
諦めた彼の頭には両親、友人、多くの人々の顔が浮かんでは消えてゆく。頬には涙が流れた。
だが、意識を失う直前に彼の頭に思い浮かんだのは両親でも、友人でもなく、
ー先程出会ったばかりの、一人の少女の笑顔だった。
◆
「どこだ、ここ?」
明日から、高校生として初めての夏休みを謳歌するはずだった俺、正木要は気づいたら知らない森で寝ていた。
取り敢えず土を払って立ち上がる。
体にはローブ?が毛布の様にかけられている。誰かがかけてくれたのだろうか。
なぜ、こんな場所にいるのか全くもって検討がつかない。
確か俺は高校の終業式を終えて家に帰ってーー
その後の記憶は、頭に霞がかかったように思い出せない。…そうか夢か。
これは夢だ。やけにリアルだな全く。明晰夢ってやつかな。
ズキッ
「痛っ、」
俺がそう結論付けようとしたとき、右手が痛んだ。
見ると、右の掌に傷で紋様のようなものが刻んである。
さらに、自分がおかしな格好をしていて、腰に剣を下げていることにも気がついた。
服もすごくボロボロだ。
「さながら異世界の勇者みたいな格好してんな俺、なんでボロボロなのかは知らないけど、
中学2年くらいの俺が見たら大喜びしそうだぜ」
ふと気になって、腰に下げていた剣を引き抜いた。
「軽っ、俺ってばこんなデカい剣持てるほど筋力無かった筈なんだけどな…ホントにどうしたんだ俺…」
そして、刀身に目をやってさらに驚いた。
「血、だよな、これ…」
剣はボロボロでところどころ刃こぼれしていて、
さらには血液らしきものが付着している。
まるで剣を使って戦いでも繰り広げたようだ。
「まさか、な…俺にそんなことできるわけない」
自分が何かしらの戦いを経験した…
そんな自分のなかの考えを、俺は振り払おうとするが、やはりこのボロボロになった剣と服、そこについた血液が頭を離れない。
それに、剣が軽々と持てたことも異常だ。
これは現実だ。
右手の痛みがそう教えてくれた。
だとしたら、俺は記憶喪失になってしまったのではないだろうか。そんな考えが頭をよぎる。
「ここ、ホントにアニメとかラノベとか漫画みたいな異世界なのか?全く、説明も無しにいきなり異世界行きとか、ひどいなあ。
………今頃俺の家族や友達、みんな心配してんのかな」
家族や友達のことを思い出すととてつもなく居た堪れない気持ちになったので考えるのをやめた。
思考放棄は、俺の得意技だ。
「取り敢えずここにいても仕方がない、よな」
そう呟いて俺は、森から出るために歩き出した。