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「お兄ぃさん方は静かで眺めのいい部屋をご所望だよ」

 少年が得意気に大地たちの要望を男に告げた。


「かしこまりました。お部屋は別々に取られますか?」

 人の好さそうな笑みを浮かべて、リーガスと呼ばれた男はたずねた。


「いや、一緒でいい」

 ランスが答える。治安のいい街とは言っても、いつなんどき、何が起こるか分からない。知らない土地では特にそうだ。危ない要素は極力つぶしておくに限る。


「では、お部屋にご案内いたします。こちらへどうぞ」

 リーガスは少年に向かって小さく頷いてから、大地たちの先に立って歩き出した。二階の部屋に案内された。


 大人が大の字になってもまだ余裕のありそうな広いベッドが二つ。木製のテーブルと、いかにもどこかの特産品といった感じの、美しい織のカバーの掛けられたソファ。衣装掛けのスタンドと、小さな箪笥。ごくシンプルな部屋だった。


 二重のカーテンの厚い生地の方だけが、張り出し窓の両端にそれぞれ寄せて束ねてあった。


「夕食はお部屋と外とお選びいただけますが、いかがいたしましょう」

 リーガスは大地とランスとを順番に見て言った。


「どう違うんだ?」

 ランスがたずねた。


「はい、食事は当館で営んでおります隣の酒館で作っておりまして、お部屋までお運びいたしております。酒館へ直接お出かけになられても結構ですし、またはお客様をご案内してきたシャルジュがご希望の食事処をご案内することもできます」

 なるほど。他の選択肢の中に彼の名を入れるあたり、あの少年シャルジュは、少なくともここの主には重宝がられているのだろう。


 ランスが意向を確かめるかのように、大地の顔を見た。大地は、お任せの意味を込めて手のひらを上に向けてランスの方へと差し出した。


「じゃあ、一時間後に少年に迎えに来てもらおうか。外で食べることにする」

 ランスは言った。どうせなら、この街の隅々まで知り尽くしているだろう少年にガイドをしてもらうのがいい。


「承知しました。では、一時間後にシャルジュが伺います」

 そう言って、リーガスは部屋を出て行った。


 リーガスの去って行く足音を確認してからランスは部屋の鍵を掛けた。大地はレースのカーテンを開け、それから両開きの窓を全開にした。先ほど渡ってきた川と、ずっと遠くに山々の峰が並んでいるのが見える。空の色も、川面のきらめきも、山々の緑を帯びた青い色も、とても清々しく見えた。微風が部屋の中へと流れ込む。澄んだ空気がことさらに美味しく感じられる。眺めは確かに良かった。


「さて、と」

 張り出し窓に腰を掛けて、ランスは高く空を見上げた。


「エスネム」

<こちら、エスネム。通信状態は良好ですよ>

 シヴァン・アルレットの現在地は定かではなかったが、見上げる空の上のどの辺りかにいることが妙に実感として感じられる。大地の目に実際に見えるわけでもないのだが、たしかに上空にいるということが分かる気がする。


「ちょいと映像を送ってくれないか。クアルニィグとツェイン・マルギアナの国境だ。派兵の有無を確認したい」

 そう言って、ランスはガイドアプリのセルククの地図をリンクさせた。


<了解しました。お待ちを……>

 ランスはエスネムに地表のようすをリクエストしてから、レースのカーテンを閉めた。それから手振りで大地にモタルドクをスタンバイさせた。


 大地が開いたモタルドクの、ゆらゆらとした透明な領域の中に、すぐにシヴァン・アルレットからの映像が届いた。セルクク上空からの映像が急速なズームインで国境のさほど高度の高くはない場所を示した。ほんの少しだが、平坦に拓かれている。これから夜を迎えるという時間帯だからか、野営のためらしくテントが設営されていた。ぽつり、ぽつり、動いている人の姿が見える。


 見たところ、緊張感はない。人数もさほど多くはない。森の中にどれだけが隠れているのかはともかくとして、これから他国に奇襲をかけようというようすではないように思える。


「ただの演習と言われればそう見えなくもない」

 ランスが言った。


「そうだな。火も焚いているし、姿を隠そうとはしていない」

「今これからすぐにどうこうなるとは思えんな」

「うん。明日の朝、もう一度確認しよう」

 人心地ついて、二人はシャルジュのやってくるのを待つことにした。



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― 新着の感想 ―
[良い点] SFはあまり読まないんですけど、さくさくと読めていいですね。 [一言] あらすじは、もうちょっと書いてあってもいいかも。どんな物語がわかりませんから(笑)  自分も小説を上げているので、…
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