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自分の目の前で起こったことを視覚で捉え、その過程を記憶にとどめ、自分の中で咀嚼して、紛れもない現実だという認識が大地の中に根差したとき、大地は、自分は今、とてつもなく恐ろしいものを目にしたのだ、と思った。
──原子レベルまでの分解と分離だって? やりようによってはまさか星一つまるごと……。
「俺は、スビニフェニスが消失した星でつくづく良かったと思っているよ」
ランスがつぶやくように言った。
「つまり?」
大地はゆっくりとランスの方に顔を向け、訊ねた。
「詳細は省くが、仮に物質エックスとしておこう。そいつは触媒のような役割を果たすが、単一の循環をするわけではない。それ自体がいかようにも変化していく。簡単に言うと何にでも変え、何にでも変わるということだ。物質エックスはスビニフェニスにしか存在せず、現時点で宇宙連合の一切の記録の中にはない。今大地が見たものは、存在しないはずのものだということだ」
ランスの言わんとしていることは理解できる。
──つまり使う者次第では……。
そう考えて、大地はぶるっと神経が逆撫でされる感覚を覚えた。
「なぜ俺に見せた? 遠隔でやっておけばその存在は明かさなくて済んだろう?」
純粋な疑問だった。
「大地ならどう使う? それに、他の人間には雷が落ちたと見えただけにすぎん。それ自体は演出だからな」
──自分なら。そうか、そういうことか。
大地には物質エックスそのものを見たこともなければどんな構造をしているのかも分からない。化学式? そもそも地球の科学と同じとさえ考えにくい。分かったところで宇宙の旅を続けている間は、大地はスビニフェニス船籍の乗組員であり、ランスとエスネムと共にある。
そして、仮に地球に戻って話題にしたところで、そういうものがある、という妄想、夢物語で終わってしまう。
「信頼してくれて嬉しいよ」
素直に感謝の気持ちを伝える。
雨雲にこだわったのは、クアルニィグの人々が、少なくとも今回の件に関わっている人間が何の疑問も抱かないようにと計算したのだろう。
まあ、何もなかったこと、というイルヴァの認識とランスの認識とがどのあたりまですり寄っているのかは分からない。
距離的な感覚をどう受け取るかは読み切れないが、少しでも不安に思うならこれでアーヘルも早く荷物の確認をしようと動くはずだ。
「さて、帰るか? イルヴァと合流するか?」
ランスは、捕物劇についての大地の好奇心を尊重したようだ。
《お待たせしました。宙航管制局から通知がありました。規制解除。規制解除ですよ》
答えようとしたとき、エスネムの声が届いた。




