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「では、中へどうぞ」
ランスが恭しく蔓性植物のカーテンの奥へと片腕を開き、示して言った。
モタルドクが頭上近くに浮遊し、歩くのに合わせて移動する。常夜灯よりまだ低い光度の灯りは、局所的にではなく一帯にまんべんなく届いている。
開けた洞窟の隅に、処理するべき物が収まった箱があった。
「中身をここの真ん中に集めよう。あとは待つだけだ」
「それだけ?」
「ああ、それだけだ」
大地の表情に拍子抜けしたさまが露わになったのを見て、ランスは軽い笑顔で言った。
「了解」
「丁寧に並べる必要はないぜ。全部ひとまとめにするだけでいい」
箱の鍵を壊し、銃弾や爆薬などを壺の真ん中に移す。
これらの全部に火が付いたらどれだけの爆発になるのだろうと漠然と考えながら、大地は危険物を運んだ。
ざっくりと小さな山が出来上がった。
「これで終わり?」
「ああ。本来ならこの作業すら必要ない」
「ほんとか」
言いながらも、いや、実際そうなのだろうな、と大地は理解していた。
ランスはモタルドクを視線の高さに戻し、アーヘルのようすをうかがった。移動が停まっている。
「イリアを信用しているらしいからな。公爵家の兵を警戒しているわけではないだろうが……」
「ああ、でも短剣やらをやたらとたくさん集めていたのが気になるな。関わったものは始末するって算段じゃないだろうな」
「はは。やつならそれもありって感じがするな。よし、じゃあ急がせるか」
そう言ってランスは大地に少し下がって、と合図をした。
トンネル通路の辺りまで下がり、ランスと並び立つ。
「いい雲だ」
丸く切り取られたような夜空を見上げてランスが言った。
大地も視線を上にあげると、いつ降り出してもおかしくないような雲に覆われている。
「エスネム、やってくれ」
《了解しました。投下します》
投下、という言葉が大地の脳裏を走り回る。
──何を? 物理的な破壊、か? こんな近くにいていいのか。
《10、9、8……》
カウントダウンが始まった。
ランスは、と見ると平然としている。視線の先は小さな山だ。
《7、6、5、4、3、2……》
大地は無意識下で嚥下反射が起こったことを自覚した。
《1、作動》
ドオオオオン。
ゼロカウントと共に雷鳴がして、夜空が一瞬明るくなった。
大地の目の前で、一筋の透明な光が危険物の山に照射された。非可視光線でありながら、その存在が大地には分かった。
そして、目の前の山は見る間にその形を失っていく。
大地はただ見つめていた。形ある物が、形であることの結合を解き、霧が晴れていくように視界から消えていくさまを。
「ざっくり言うと、原子レベルまでの分解と分離だ」
大地が知りたがることを分かっているからか、訊ねる前にランスが説明した。
──最初からなかったことに、って……
イルヴァの言葉を思い出しながら、ランスがまさに額面通りのことをしたのだと、大地は思った。




