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 馬ランスが停まった。暗がりの中ではあったが、その土地というのか場所というのかの持つ独特の気配で、大地はイルヴァと共に来たときに、馬車を待たせたあの場所だと思った。


 と思う間もなく、大地を乗せたままランスの変態が始まった。馬具はそのままで、たなびくたてがみがなくなり、首というか肩のあたりががっしりと変わる。全体象がどんなふうに変わったのかは、その一部に()()()いるため大地には見えなかったが、あの黒馬でなくなったことは確かだった。


 すぐさま脇の方へと分け入っていく。


 起伏の感じと、樹木の感じ、匂い、下生えを踏む音などで、歩いて移動したときのことが思い出される。図体の割には俊敏な足取りでランスは進んで行く。


 そして、停まった。


 言われるでもなく訊ねるでもなく、到着したのだ、と大地には分かった。ランスの背中から降りる。と同時に鹿──そう、それは角のない(雌の)ヘラジカのようだった──は、元のランスの姿に戻った。元の、というのは果たして正しい言い方なのだろうかという思いが走った。


 特殊な能力についての説明がシヴァン・アルレットに戻るまで保留になっていることを、ランスは当然覚えているだろうが、大地の好奇心がさらに増幅したことについて、まるでお構いなしだ。


 ランスはヒトの姿をしており、鳥の姿になり、馬の姿にも、他の動物の姿にもなれる。便宜上、通常人間の形をしているだけなのかもしれない、という思考が大地を包み込む。大地の中ではすでに、ランスは何にでもなれるのだろう、という推論式ができあがっていた。


「お疲れ、ありがとう」

 驚きは疾うにその領域を超え、もはや日常と変わらないように大地は言った。


 軽い笑みをして、ランスはモタルドクを起動させた。


「さあて、先ずはエスネム」

 ランスの口調は大地の思いとは裏腹に、まるで通常運転だ。


 領域はほんのりとした明るさを有していた。普段なら透明な、かすかな揺らぎだけの存在が、今は本当にぼんやりと、蛍火よりもさらにほのかな灯りとなってそこにあった。


《こちらエスネム。ご用件をどうぞ》

「周囲に人がいないか確認してくれ」

《了解。……、指定範囲内にはお二人以外はいませんね。いつでもいいですよ》

 エスネムの言葉に大地は反応した。


 なるほど、ランスが遠隔で事足りると言ったのはエスネムが関わるからか、と大地は思った。


 回答と同時に、モタルドクにサーチ結果も届いた。


 現在地を中心として大地とランスを示す二つの点があり、三キロメートルほど離れた場所にいくつもの点がある。おそらく国軍と私兵、さらに離れておそらくはアーヘルたちだ。


「分かった。また連絡する」

 ランスがいったん、通信を切った。

 

「手順を聞こうか」

 ランスはいったいどうやってミッションをクリアしようというのだろう。

 

 大地はまた何か、自分のまだ見たことのないものが見られるかもしれないという期待と共に訊ねた。


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