68
目覚めは唐突だった。深い闇、無という静寂の中から一瞬のうちに意識が立ち上がったとでもいうような、不意に過ぎる目覚めだった。
「そろそろシャルジュが来る頃だな」
目覚めた大地にランスが話し掛けた。
「ああ、大分眠ったかな」
大地がカーテン越しの窓の外の色合いを見て言った。
徐々に色濃く暗さを増していく空の藍の中で、明るい星がちらほらと姿を現し始める。
「地球の単位で一時間半ってとこだな。すっきりした目覚めだろう」
「確かに」
くすっと大地は笑みをこぼし、言った。
ランスがわざわざ地球時間を引き合いに出したのが面白かった。自分の眠りの深浅を観察でもしていたのだろうか。そういえばこの星の自転はどのくらいの速度だったっけ、と明らかにするつもりもなくぼんやり思う。
「地獄の商人さんは、人集めを終えたみたいだぜ。その後は動きがない」
「そうか」
自分が眠っている間も、ランスはターゲットの動向に注意を払っていたのだ。
「サイレント通知をオンにしておいた。シャルジュに気づかれないようにな」
ランスが大地の手首のオグヌイを指して言った。
サイレント通知。それはオグヌイを介して脳に届く。耳で聞いたことを理解するように、イメージを思い浮かべられるのだ。音や映像が身体のそれぞれの器官を通っていくプロセスが省略されているといった感じだ。
ランスの計画では、アーヘルの動きに合わせて危険物の処理をするというのだが、そのタイミングを計るためらしい。もちろんプランは一つだけではないが、どうやらランスの中では効果的に見える演出を考えているらしい。
シヴァン・アルレットで目覚めて以来、大地の手首に装着されたこのオグヌイは、取説の要らないほどの操作性に優れている。いや、操作と言うのは少し違う気もする。思考と連動しているといったイメージだろうか。ランスはこの船の主のものだと説明したが、まるで大地のためにあつらえたもののようで、親和性すら感じる。
大地の場合はシヴァン・アルレットの乗員になったことでこれを装着する必要があったと説明を受けたのだが、スビニフェニスの住人はみな、オグヌイを生まれたときから装着していたという。この世に生を受けてからすべての生命の営みを記録されたのだ。仮に地球にいる場合だとしたら何もかもが筒抜けだと考えると空恐ろしい気もする。が、それを忌むこともなく恩恵に与っていられたというのは、スビニフェニスという星が、タレスターフという国家がどれだけの理想郷であったのかを示している、と思う。失われた星、というのが実に惜しい。
「分かった。ビビッときても反応を気取られないようにしないとな」
軽い冗談を大地は言った。
「シャルジュに何かいい仕事はありそうか?」
ランスがふと思い出したように言った。
「あ~、そうだな、連れていくわけにもいかないし」
二人の隠密行動が始まれば、その間シャルジュにどうしていてもらうか、それも考えなくてはならない。
大地は言い訳を考えるような、どうしようもなくばつの悪い居心地の悪さが湧いてくるのを感じた。




