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「さあ、行って」

 イルヴァは瑠璃鳥を外に放した。


 羽ばたきの音が思いのほか耳に残った。通信技術が整備されていないならいないなりに手段はある。そして必要(・・)はいずれ有線だ無線だと文明の利器を生み出すだろう。


「なるほど、特別な子、ね」

「ええ、このために生まれてきた子だもの」

 ランスの言葉に答えたイルヴァはてらうでもなく、過大も過少もないありのままの評価をしているようだ。それにしても含みのあるような言い方だ、と大地は思った。


「そういえばさっき、廊下で声がしていた。イリアはアーヘルと話していたんだが、どうやらあんたの話を伝えたと思っていいようだ」

「ええ、わたしも、ここへ来るときにアーヘルの姿を見かけたわ。にやけた顔をしていたわ」

 苦々しい表情でイルヴァは言った。


「あとはイリアか。しかし、やつはどういう人間なんだ?」

 ランスがずいぶんと直接的な質問をした。


「使節団に随行した商人、アヴィスラ舞曲団の衣装小物担当、公爵家令嬢とは商取引の絡んだアドバイザー、アーヘルとは販路拡大の件で知り合ったらしいわ」

「ふむ。ずいぶんと手広くやっているようだな」

「優男に見えてあれでなかなかの御仁よ」

「例の荷物についてはどういう認識でいるんだ?」

 念のためか、ランスが訊ねた。


「アーヘルが、別ルートから仕入れたちょっと珍しい荷の販路を富裕層にと考えたらしく、サリエルさまへのとりなしを求めてイリアに近づいた、みたいな経緯かしらね。はっきりとは分からないけど。具体的な中身は、発注者と受注者、箱を開けたわたしたち以外は知らないはずよ」

「なるほどね」

 ランスは納得したように二度ほどうなずいた。


「あれの処理は、例の計画とは切り離して実行して構わないわ。後でも先でも、都合のいいやり方でお願いするわ」

「分かった」

「こっちが君に連絡を取りたいときはどうすれば?」

 大地が訊ねた。


 昨夜のようなことが再びあっても困る。たまたま国軍の予定の変更を伝えるだけではあったけれど、イルヴァの計画そのものを根幹から覆させられるような事案が生じたときには、こちらの独断では如何ともしがたい。


「これを」

 イルヴァがポケットから取り出し、大地に向けて差し出したのは瑠璃鳥を呼んだときと同じもの、色違いの鳥笛だった。


 受け取り、しげしげと眺める。素材は植物のようでもあり、鉱物のように見えなくもなかった。


「伝えたいことがあるときに鳴らせばいいのか」

 イルヴァのやっていたようすを思い出しながら大地が訊ねた。


「ええ。ただこの笛には優先順位があるから、呼んだらすぐに来るとは限らないわ。だから、重要な案件のときだけ使って欲しいの」

 笛の色の違いはそれを表しているのだろうか。ふと、大地はこれはこの星由来のものではないかもしれない、と思った。ただの勘でしかなかったのだが。


「了解した」

 大地は言ってから鳥笛をランスに手渡した。


「じゃあ、行くわ。後はよろしく」

 ランスが全体をじっくり観察するのを、どう思っているのかよく読み取れない不思議な表情でイルヴァは微笑み、そう言うと部屋を出て行った。



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