65
大地はランスと顔を見合わせた。
ランスがおもむろに立って行ってドアを開けると、通路で待っていたのはイルヴァだった。男装とまではいかないが、ユニセックスな格好で傍目にはすぐに性別がどちらとは判断できないなりをしている。
ランスは何も言わずにイルヴァを室内に招じ入れた。もう彼女との面会に、他人への特別な配慮は必要ない。
「ありがとう。いろいろと手を回してくれたのね」
部屋に入るなりイルヴァは言った。
急遽予定の変わった下山の件だろう。まだ無線などの技術はないようだし、この世界でイルヴァはどうやって私兵たちと連絡を取っているのだろうとふと思った。のろしや花火の類か……、それなら敵方にも伝わる可能性があるし、それとも伝書の鳥かなにかか。
「どういたしまして」
ランスは軽く笑みを見せて言った。
「サリエルさまに会ってきたわ」
大地が勧めた椅子に腰を下ろしてイルヴァが言った。
「で、どうだった?」
訊ねながら、大地はお茶の用意をしようと立ち上がった。
「王宮内に間者がいるかもしれないから、陛下に直接話すという条件で聴取に応じるようにと」
「なるほど」
「わたしは公爵家の私兵と合流するわ。国軍にはその旨連絡が行くから、とりあえず制圧、捕縛対象からは外れて国軍の監視下に入ることになるの」
「そうか。で、俺たちは何をすればいいんだ?」
ランスは予測どおりの展開だったらしく、なにげない普通の会話でもしているようだ。
大地は香のよいお茶を三人分、テーブルの上に並べた。イルヴァが少し笑顔になって、カップを口にした。
「アーヘルには洞窟とは別の場所を指定したわ。あなたたちには洞窟に残した危険物を処分して欲しいの。最初からなかったことにできるかしら?」
「ああ、おやすい御用だ」
ランスは軽く請け負ったが、持ち帰ることは難しいだろう。地中深く埋めるか、それとも荒業を使うか……。
大地はカップを手にしてお茶を口に含んだ。ああ、今日のは違う銘柄だな、とぼんやりと思う。
「助かるわ。ほんとに、運命的出会いだわ」
にっこり笑って、本気なのか冗談なのかイルヴァが言った。
「ところで、荷を移した場所は洞窟からどのくらい離れている?」
ランスが訊ねた。
「最初に軟禁されていた場所との中間辺りかしら。国軍が姿を隠すのにはうってつけの場所だわ」
「了解した。爆薬を処分するタイミングはこちらに任せてもらっていいんだろうな」
「ええ、もちろんよ。あそこは私有地で立入が制限されているから、一般の入山者を気にする必要もないでしょう」
小さな紙になにごとかメモをしながらイルヴァは言った。
それから彼女は席を立ち窓際に行くと、小さく細いものを取り出したかと思うと、口にあて吹き鳴らした。それはまさしく、この星に降りて最初に聞いた鳥の鳴き声だった。
ほどなく鮮やかな青い羽根色をした鳥がやってきた。イルヴァの指し伸ばした手に慣れたようにとまる。
「ほう」
思わずため息が出そうなほど美しい色だ。羽根の一部は、光の反射具合で緑にも変化して見える。
「この子は特別な瑠璃鳥なの」
美しい青い鳥は大人しく窓枠に移り、イルヴァの書いた紙が足首に収納されるのを待っている。なるほど彼女の通信使はこの国のシンボルでもある瑠璃鳥だったのだ。




