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 シヴァン・アルレットに拾われてからまだひと月と経っていない。それなのにもうすっかり、大地はランスとエスネムとの日常に溶け込んでいる気がした。大地にとっては地球──、宇宙ステーションや移住プロジェクトチームの建造ドックなどの空間も含めて、の日常は決して郷愁を抱かせるものではない。


 ただ、プロジェクトにとって重要な鍵を握っている、という責任感で地球を探す旅を選んだのだ。異世界転移などという状況に陥って、それを甘んじて受け入れるか、それとも元居た世界への帰還を模索するのか、もちろんそれが可能ならば、ではあるが、自由意志での選択の余地があるのだとしたら、鍵というものがなかったなら、大地はおそらく自分のおかれた環境をすんなり受け入れただろうと思う。


 地球への未練はない。


 大地に未練と呼べるものがあるとするなら、それこそ過去に抗わなければ断ち切れないものだ。過ぎてきた時間と経過は、あるがまま大地の記憶の中に封印されている。


 窓を開け、外の景色を眺める。汚染されていない大気は、遠くの山々の稜線も明瞭に、樹々の葉の色も多種多様な緑の鮮やかでかつ微細なコントラストを見せている。


「生まれた時代と場所に満足か?」

 ランスがいたずらっぽく訊ねた。


「いや。敢えて言うなら、スビニフェニスの文明に触れることができて満足、というべきだろうな。こうしてみると、星の外からの干渉を全く受けない進化というものはあり得そうもないと思えてくる」

 星系間航行の可能な宇宙船然り、オグヌイ然り、モタルドク然りである。大地は心底そう思った。


 宇宙から星に、何がもたらされるかによって進化は岐路の選択を左右され、大いなる文明を築き、あるいは淘汰される。数える桁が足りないどころの話ではないほどの星々が、そうやって生まれては消えていく。


 ここセルクク星は、少なくともこれまでは外からの干渉を受けずにやってきたらしいわけだが、こうやってイルヴァの奔走を目の当たりにすると、連合の目の届かないところでいくらでも、好き放題が行われていないとも限らない。


 ──連合の目の届かないところ……。

 そう考えて、そういった取り締まりの対象となる側の組織なり人物が存在するのだろうなと大地は思った。一つの星の中で行われていることが、宇宙規模に置き換えられただけで、充分あるだろうと思える。


 いつの世にもどこの世にも、権力至上主義者は存在するだろうし、倫理的基準も善悪の基準も、尊厳も生死の概念ですら、所変われば、である。


 コ、コ。コン、ココン。


 ふいにドアをノックする音がした。



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