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リーガスの宿へ戻る前に、大地たちは自分たちの着ているものの状態を気にしながら洋服屋へ寄り、着替えの服一そろいを見繕って購入した。
「さて、先ずはゆっくりと風呂にでも入って、それからだな」
言いながら大地は宿の風呂が温泉で良かった、と心底思った。
「分かった。俺もいったん家に帰るよ。着替えたら服は洗いに出すといいよ。おっちゃんに言っとくから、そのカゴに入れといたら取りに来てくれる」
「ああ、そうする。夕食までに来いよ」
大地とランスはシャルジュを解放した。
お湯の密度が高いと感じるのは含まれている成分によるものだろうか。とろりとまとわりつきつつ、じんわりと滲み込むようなお湯に、体感として疲れが消滅していく気がする。外の景色を眺めながら山での時間を反芻する。
──ランスが、鳥……?
ふふふ、と思わず笑みがこぼれた。
あれから何事もなかったかのように接してきたけれど、ランスが大地の認識しているヒトとは違っていたことについて、それはある種の感動ですらあった。まるで初めて発見された生物を目の当たりにしたときとなんら変わりのないような新鮮さだ。鳥に姿を変えられて、空を飛べることが羨ましくもあり、自由意志で変われるものなのだろうかとか、いったいどういった構造なのだろうかとか、ふと、粘土細工のように指先で形作るままに変化するのだろうかとか、あらぬ方向へと想像が膨らむ。
それから、また公爵家の災難について、屯所に戻った兵士たちについて、思考が移っていく。そう言えば昨夜、ランスはまた何かをしに出掛けたのだろうか。動く気配は夢だったろうか。また刺客がやってきて、自分が寝ている間にさっさと片付けてしまったとかも、ランスならあり得そうだ。
──なんて頼もしい相棒だ。
大地は、そもそも自分の置かれた立場を憂慮する気持ちが薄いのではないかと思い始めていた。
なんなら自分は今、旅を楽しんではいないか?
地球を探し出し、帰る旅をしながら、それが達成されないときの杞憂が自分にはないのではないか?
為すがままに成る。帰れなくても、それはそれでいいと、自分は思っていないか?
転生転移の物語の主人公は、最後はどうなるんだったろう。転生はともかくとして、転移は元いた世界に帰るのだったか。ああ、そう言えば三つの世界を何度も行き来するという物語もあったな、と、大地は自分の未来がどうなるのか、なんとなく知りたくないような気がした。
こうやってランスと、シヴァン・アルレットに戻ればエスネムがいる環境が、居心地よくなってきている気がする。考え方次第では、地球でのこれまでに対する埋め合わせと言えなくもない。
「大地、そろそろいいか」
扉の向こうからランスの声がした。
「ああ、今上がる」
つい、長風呂をしてしまったろうか、と大地は急いで入浴を終わりにした。
大地と交代したランスの背中を見送りながら、人間社会で行動するならヒトで入浴するのがベストか、などと他愛もないことを考える。
ランスが浴室から出てきたときに、思わず自分の想像を思い出し、考えが読まれでもしたかとばつの悪い表情をしてしまった大地に、ランスは大人びた微笑みを見せただけだった。
「国軍との連携がうまくいった場合、、例の荷だが」
ランスがお茶を淹れながら切り出した。
「うん」
「弾薬と爆薬は抜き出させておいた。武器本体だけあってもすぐに使えんようにな。それと、アーヘルが主犯なら、注文書はやつの頭の中だ。突合せさせることで、やつの罪は明らかになる」
「うん」
カップを受け取り、大地はランスに続きを促した。




