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がたがたと揺れながら、馬車の一団が山を下りていく。途中、山へと上がって行く兵士たちとすれ違った。重々しい武装をした、騎馬隊だ。こちらを先導していた兵士の一人が隊列から外れて立ち止まり、向こうの指揮官らしい男と何事か情報交換している姿が見て取れる。
ゆっくりとその脇を通り過ぎる。大地とランスは、新しく派遣されてきた兵士に視線を向けた。いい面構えをしている、と大地は思った。どうしても目立ちがちなせいか、大地とランスの方へ思慮深い印象の兵士の視線が向けられた。
「さて、どうなるか」
その視線をやり過ごして、ランスが小さく言った。
「万事うまくいくといいんだけどな」
「公爵さまんとこの、すぐに見つかるんだろうか」
シャルジュも気になるところではあるのか、聞くともなしにつぶやいた。
「規模としては、国軍の方が比較にならないくらいでかいだろうが、その、どうなんだ?」
周囲に届かないように小さな声で、ランスがシャルジュに公爵家の私兵について訊ねた。
少数の精鋭が大軍を圧倒するなどというのは、歴史上いくつも例を挙げられる。
「う~ん、特に抜きん出てるわけじゃないけど、役立たずはいないらしいね。みんなそれ相応の力量の持ち主だって聞いた」
「そうか。なるほどな」
洞窟での彼らのようすを思い出す。長い膠着状態にも関わらず、決して怠惰でも緩んでもいなかった。
持ちこたえてくれるだろうことを期待するしかない。
土埃が舞うかと思えば、先日の雨が乾ききらない道もあり、傷病兵たちのために応急で張られた陽射しを避ける幌が風にばたばたとあおられるのを直したり、とじっくりと落ち着いて考え事をする余裕のない帰路を行く。
無事に屯所に到着し、ようやく当初の予定を大幅に延長したアルバイトが終了した。
「ほらよ。お前の取り分だ」
大地たちは、即金でもらった報酬をすべてシャルジュに渡した。
「え? だって俺軍からもらったし、山にいる間、なんにも案内役してなかったのに、どうして」
「情報提供した対価だと思えばいいだろ。シャルジュは今俺らの専属だし、ついでに食事やら宿代やらの支払いもその中から頼むよ。これからの会計一切を任せることにする」
ランスが大真面目に言った。
「へえ、ずいぶんと俺も買われたもんだ。ねえ、もしとんずらしちゃったらどうするんだい? ほんとにいいのかい、これ、全部預けて?」
シャルジュが冗談を交えて言う。
「いいぜ、どうせここでしか使えないんだからな。それより足りない時はどうするつもりだ」
ランスも応酬する。
「へへへ。どんな贅沢するつもりさ。大丈夫。安心して任せときなよ。でも」
うつむいて、シャルジュが言葉を切った。
「嬉しいよ」
「頼んだぜ、シャルジュ」
感動したのか少し声の震えたシャルジュの肩を大地はぽんと叩いて、シャルジュはもう仲間だよ、という思いを込めた。




