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「何か変わったことはなかったか?」
ランスがシャルジュに訊ねた。
「ううん、別に……、テントを間違えて入ってきたやつがいたぐらいかな」
特に気になることでもないといった感じでシャルジュが答えた。
「間違えて、ねえ」
「ふふ。ぐるっと見回して、くるっと回れ右して出て行ったよ」
行動の可笑しさを思い出したのかくすっと笑ってシャルジュは説明した。
ランスが少し考えるような表情を見せた。もしかしたら、大地か、あるいは異星人を狙ってやってきた妨害者が再び姿を現したのかと警戒したのかもしれない。
「そうか。明日に備えて寝るか」
それでもなんでもなさそうにランスは言った。
「そうだね。ランスさんたちも随分と長いこと出かけてたから、ゆっくり休んでよ」
シャルジュが気遣いを見せてくれる。
「ああ、おやすみ」
睡魔は当分やってきそうになかったけれど、大地はとりあえず目を閉じることにした。
もしも、また襲われることになったら、と大地は考えを巡らせた。けれど、ランスがいるからか極端に気持ちが張り詰める感じも湧いてこない。さっき見たランスの異形っぷりは、決しておどろおどろしいわけでも、不快でもなく、むしろその構造を知りたい気持ちの方が各段に勝っている。
昆虫や小さな小さな虫たちだって、普段何気なく見ている分には何とも思わないが、顕微鏡で見たときは背筋がぞくっとするようなまがまがしさを──同時にある種の機能美、構造美を含んで──覚えるが、とある星の環境によっては、それらがヒトや恐竜なみの大きさで生息している可能性だってないとは言えない。
それなら、擬態の進化版ととらえれば、外形そのものを変えられる生物がいたってあり得ないとは言い切れない。
ランスがヒトと違っていたことで大地の心証に変化は何も生まれなかった。元々好奇心の固まりのような性格だし、珍しいものも新しいものも、先ずは知りたいと思う方だ。宇宙へ戻ったら、とランスは言った。楽しみにしておこう、と大地は思った。
明日は初期に派遣された兵士たちを軍の屯所まで移送する。この場所へ来る道は一つではないだろうけれど、もしも、山へ上がってくる兵士や、あるいは他の人物と行き違うことがあれば、少しは新しい情報も得られるだろうか。
正体不明の敵。それはツェイン・マルギアナの者なのだろうか。それともクアルニィグの者なのだろうか。それとも第三国の誰かか。
思案の時を経て、すっと眠りに落ちかける瞬間、大地は隣で微かに動く気配を薄れる意識の中で感じた。
何事もなく夜が明けて、朝食のあと、臨時の雇い人たちは兵士を馬車に乗せる作業に入った。
担架で運ぶ者たちがほとんどだったが、ランスと大地は体格ゆえに、一人で抱え上げることができていた。シャルジュが目を見開いて、感心している。
順次兵士たちを乗せた馬車が出発する。サスペンションでも付けてやりたいな、と大地は思った。ほどよい雲が陽射しを和らげる。自分たちの割り当ては王都に着けば終わりだろう。その後、ランスはどうするつもりだろうと思いを巡らす。まさかシャルジュを巻き込むことはできないし、観光がてらに隠密行動をするという訳にもいかないだろう。
ふと見るとランスは何事か思案中のようで、真面目な顔のまま、大地の方に視線を返した。




