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クアルニィグ行きの乗車券を二枚、ランスが買った。乗車券は円形をしていて、外周に沿って十二カ所の印が付いている。おそらくこのステーションを示す印であろうところに傷がつけられた。時計で言えば十一時のあたりだ。
それから馬車を降りた者たちが、ステーション構内に入ってくると、売店で時間つぶしをしていた者が慌てて会計を済ませたり、ベンチ脇から大きな荷物を抱え上げ乗り場へと向かう者、旅慣れないのか何度も行先を確認する者などで一気に周囲が慌ただしくなった。
大地とランスはクアルニィグ行きという表示を確認して、馬車に乗り込んだ。座席は十数人分の両側面のロングシートで、ぽつりぽつりと空いた席があった。
やはり余所者感が滲むのだろうか。乗客の横を通るとみなちらりと視線を向けてくる。ランスも人の視線を奪いはしたが、彼の持つ威風がそれらを一瞬で払いのけた。目立たぬように最後尾を選んで座った。少し身体を斜めに、自分の側の窓から後ろ向きに外を眺める態で大地は乗客の視線を避けた。馬車が走りだす頃には人々の興味も薄れ、それぞれが自分の時間をつぶし始めた。
「ツェイン・マルギアナが国境辺りに兵士を派遣したらしいぜ」
乗客の幾人かがうつらうつらと転た寝を始めた頃に、ひそひそと交わす男たちの声が聞こえてきた。
「まさか。マルギアナは友好条約を提案しに使節団を遣わしたばかりじゃねえか?」
「ああ、聞いてる。だがよ、これまでと兵の動きが違うらしい」
「ほんとうか? がせじゃねえだろうな」
「クアルニィグが条約に調印しなかった場合に備えてるのかもしれねえぞ」
「それはないだろう。クアルニィグは戦や領土拡大に興味を持たないはずだ。条約には意欲的だと聞いてる」
「まあ、噂だかんな。でも火のないところに煙は立たねえっていうじゃねえか」
「根も葉もないことだってあるだろうよ」
「それを言っちゃあなんも言えねえけどよ」
大地が自分の後ろに聞き耳を立てていたのと同様に、ランスもそれを聞いていた。
一番平和で治安のいいことで選んだはずのクアルニィグに、早くも不穏な噂話が持ち上がるなどまさかのできごとだった。
「どう思う?」
周囲には届かないかすかな声で、大地はランスに尋ねた。
「さあなあ。この二、三日で世局が変わるとも……、いや、ないとも言えないが。気になるんなら情報収集、だろ」
ランスは大地のオグヌイを指さし、エスネムとの交信を暗に示した。
「ああ、そうする」
乗合馬車の中で何ができるわけでもない。男たちの話がどの程度の信憑性を秘めているのか。ともかくクアルニィグに到着するのを待って、動くのはそれからだ。
舗装されていない街道を馬車は進んで行った。ガタガタと揺れる乗り心地の悪さも、これから何かが起こるかもしれないという不安と興味の入り混じった不思議な感覚の前では気にならなくなった。
惑星セディテへの移住計画のさなかに、距離も次元もあらゆる情報のない別の宇宙へと送りこまれ、そしてさらに安全を配慮したはずの訪問先に不穏な動きがあるという。ふと、大地は自分自身が奇禍を呼び寄せやすい体質なのだろうかと思った。
まさか、な。大地が苦笑したのを見て、ランスは何か言いたげに静かに笑った。




