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「なんか、ランスさん忙しいね」

 シャルジュがぽつりとつぶやいた。


 食事もそこそこに出かけたランスが、用足しとはただの口実で、実際にはどこかへ出かけているのだろうと、うすうすシャルジュは気付いているようだ。


「ああ。気になるものがたくさんあるんだろう」

 大地は曖昧な言い方しかできないのがもどかしく、それだけ言った。


 地球と似た環境の、長いこと平穏が維持されているらしい星。ふと、思う。平和がいつまでも続かないのだとしたら、その均衡が破れる時期というのが今なのだろうか。争いの悲惨さを味わい尽くし、もう二度と闘うことはしないと誓っても、いずれ熱さを忘れた頃、人は穏やかさに抗いたくなるのだろうか。


 それとも、誰かの作為的な、つまり陰謀説だが、あるとしたら。


 ──無いとは言い切れないか。

 両国の戦いで失うものはあれど、得るものとはいったい何だろう。領土か、威信か。力で抑えつけたところで、人民の、世界の不満の上に君臨するなど──、大地は寝首を掻かれる不安と常に隣り合わせの覇者ならごめんこうむりたいと思う。


 おそらくこの星へは再び来ることはないだろう。内戦に発展しそうな危うい状況を、関わる以前に見なかったことにもできただろう。が、ランスはもちろん宇宙連合の規定に違反するつもりはないにしても、神話のように、伝説のように、時代を違えた偉人のようにほどなら、何かしらの手心を加えることが良識の範囲内ではあると考えているはずだ。


「せっかくの旅行がだいなしになっちゃったね」

 シャルジュが済まなさそうに言った。


「気にするな。これもまた経験。それに、俺はシャルジュに声を掛けてもらって良かったと思ってる」

 間違いなく、シャルジュは優秀な案内人だ。


「えへ。そいつは嬉しいな」

 照れて、ほんのりと頬を染めるシャルジュが、ふいに歳相応に、職業柄背伸びしている感があるのが消えて、見えた。


「ちょっと外を見てくる」

 大地は急に思い立って、シャルジュに伝え、テントを出た。


 少しばかり森の奥へと入って行く。ランスはどっちの方角へ向かったのだろうか。モタルドクを起動しても大丈夫なほどには野営地から離れなくてはならない。


 脳裏に浮かぶ地球の大都市の夜景。富と栄華、権力と欲望、希望と堕落、艶やかで排他的で混沌とした、光の競演とでもいうような刹那の煌めき。それとはまったく対照的に、ただ夜空と星、月明りで示される自然の外形(かたち)


 シヴァン・アルレットはどの辺りだろうか、と思いながら大地は夜空を見上げた。


 その時──。


 はるか上空を、まっすぐこちらへと向かってくる一羽の、鳥?


 大地が襲われたときに誰かが言っていたのを思い出す。──こおんなでかい鳥が──今まさに大地に向かって、そしてそれは次第に速度を落として、ゆるゆると姿形を変えながら降りて来る。地面に着いた時には鳥はランスに変化していた。


「‼」

 意識せずとも驚きの声は出なかった。ただ目を見開いて、大地はランスを見た。



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