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「ずいぶんとゆっくりな散歩だったね」

 テントに戻ると、シャルジュは複雑な表情をしていた。


 なかなか戻らない二人を心配してくれていたのだろうか。無事に帰ってきた姿をみて、ほっとしたのとごちゃ混ぜになった感情があふれたように見えた。


「おう。面白いものが見れたよ」

 ランスは軽く笑って言った。


「そっか。なら良かった」

 それから大地たちが帰るのを待って取り置いてもらっていたらしい夕食を、三人で摂った。


「俺ら、明日は傷病兵を都に連れて帰る役目だってさ」

 二人のいない間に通達があったらしい。


「明日だって?」

 大地は思わず訊ね返した。


 国軍の予想外の行動に、一瞬思考回路が爆走する。


「そう。なんかもうこれ以上悪くはならないだろうって医者がね。だもんで、屯所にもどって手厚く看病するってさ。代わりの兵士が来るらしくて、早朝には到着するらしいよ。公爵さまの私兵の捜索はそいつらが始めるらしい」

 なるほど。業を煮やしたか。回復の兆しがないなら、ここにいつまでも駐屯しているというのも何かと不便だし非合理だ。


「移動は朝イチから?」

「うん。状態のいい者から順に馬車で搬送だって。どうだろねえ。具合の悪い時にがたがた揺すられるってのはさあ」

 シャルジュは自分たちがやって来たときの身体の痛みを思い出したのか、憐れみを覗かせて言った。


 イルヴァが計画を進め、もしもアーヘルが洞窟へ向かったとしても、援軍の到着前までには間に合いそうもない。私兵たちは手はずどおりに合図があるまではあの場所から移動しないはずだ。国軍がたやすくあの場所へ到達するとも思えないが、もしも遭遇してしまったら。


 アーヘルのいない状況下では、抵抗を見せずおとなしく捕縛されたとしても、自分たちの無実を証明するのが難しくなるだろう。


 せめて援軍の到着がもう少し後なら。


 ランスは、と見ると、何事か考えているらしく食事の手が止まっている。まさか、洞窟に行こうとしているのではないか、と一瞬大地は思った。国軍の動きに注意を払えと。場合によっては身を隠せと警告するために。


──まさかな、令佩もないのに。

 私兵たちがイルヴァを介さないランスの言葉に従うだろうか。そうは思ったが、看過することもできないだろう。計画が成功するか否かに大いに関わる情報だ。イルヴァがこの情報を入手する術を持たなかった場合、イルヴァへ伝える方法は難しくても、洞窟へは連絡できるだろう。夜の闇に紛れて文明の利器を使い、ランスが前に言っていたとおりひとっ飛び……。


「ちょっと用足し」

 食事もそこそこにランスが立ち上がって言った。


「了解。気を付けて」

 ──まさか、か。

 大地は唇を曳いて笑い掛けた。


「ああ。大地もな。この辺に目でも付けとけ」

 大地の背中をぽんと叩いて、正体不明の敵への警戒を促し、ランスはテントを出て行った。



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