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 箱にはどちらも錠が取り付けられてある。大して難儀もせずに開けられそうだが、箱の三方には封印のための札が張り付けてあった。イルヴァは宝箱の横についてある把手に手を掛け、片手で持ち上げようとしたが、ほんの少し地面から浮いたかどうかという程度で、すぐに手を離した。


 それからイルヴァは数名に外の見張りを指示した。イルヴァが腰から下げている淡く優しいピンク色をした玉飾りは、公爵令嬢の令佩であるらしく、兵士たちは粛然と彼女に従っている。


 尻のポケットから小刀を取り出したイルヴァが切っ先を当てると、封印は剥離紙のように糊残りもなく簡単にはらりと剥がれた。兵士の一人に大雑把な鍵を外させ、箱の前に立つ。


「さあて、開けて見ましょうか」

 イルヴァが面白そうに言った。


 勿体ぶってか慎重を期してか、緩やかに少しずつふたを上げていく。と、宝箱の方には光沢のある美しい織物、毛皮などの下に、この世界には似つかわしくない金属のカプセルが入っていた。握りこぶしほどの大きさで、飾りもなにもない。この星の住人にはそれがどう見えるのかは分からないが、大地には明らかにセルククよりもずっと進んだ文明が作り出したものに見えた。


「ほう」

 ランスが興味深そうにつぶやいた。


「これ、やばいやつ、かしらね」

 イルヴァはカプセルの表面に何の記載もないことを確認してから言った。


「それに捕獲禁止動物の毛皮、流通量に制限の掛かっている牙、お高そうに見えるけどこの布は偽物ね」

 カプセルを元に戻し、密輸品の数々をざっと眺めて、イルヴァはため息をついた。


 続いて、木箱の方を開ける。こちらには両刃の剣や、おそらく炸薬と思われる化合物の入った容器があった。


「なるほどね。情報が正しいとして、アーヘルがこれらを荷受けする予定だったとしたなら、さて、イリアはどっち側かしら」

 いったん箱のふたを閉じ、イルヴァは箱の前に腰を下ろした。


 大地とランスも同様に腰を下ろす。


「イリアはアーヘルより先にこの荷をサリエルの手に入れさせようとしたんだろう。彼の思惑としては、死の商人にブツを渡したくなかったか、でなけりゃサリエルを共犯者に仕立てるつもりだった」

 共犯者? イルヴァですらイリアの本音が分からないなら、当然善悪両面の彼を想定しなくてはならない。


「その前に、今回の流れをもう少し詳しく知っておきたいんだけど」

 ランスはもう聞き及んでいるのかもしれないが、大地はまだ噂話程度のことしか知らないでいる。


「大地はそうだったな、頼むぜ」

 ランスが大地に対してまだなんの説明もしていなかったことを思い出し、イルヴァに向かって小首をかしげてみせた。


「分かったわ。先ず、イリアがアーヘルの密輸入の計画を知った。その計画をサリエルさまに、まあ密告なのかしらね、した。ただし国王陛下の忠臣であるはずのサムリーの名前が荷受人として挙がったから、サリエルさまが急を要するということで派兵し、荷を止めようとした。次に謀反の容疑で国軍が派遣されて、サリエルさまは軟禁され、公爵家の兵士は荷をここへ隠し終えたあとで国軍に捕縛された。サリエルさまの情報をそのとおりに言ったとしても、言い訳にしか受け取られないわ、こんな状況じゃ。で、わたしが国軍の足止めを試みて投薬、その隙にここへ逃れてきて現在に至る、ってとこね」

「これからどうするつもりなんだ?」

 大地はイルヴァに訊ねた。


「国軍への通報者は所在不明だし、イリアからの証言がないと公爵家には不利だわ。仕切書もない、金の受け渡しがどうなっているのか分からない、この荷がアーヘルのものである証拠がない限り、アーヘルが荷を回収しに来る現場を国軍と一緒に押さえるかしないとね。まあそれでもサリエルさまが加担しているという嫌疑は晴れるわけじゃない」

「冤罪をはらす術がなければ、身を守るには密輸に加担するしかないと思わせる狙いがあったのかもしれんな」

「確かめる方法はあるのか?」

 大地はランスにともイルヴァにともなく訊ねた。




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