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 馬車を降りると、そこは馬車道、といっても草を踏んだだけの轍のある道なき道の終わりで、来た道の先は高さ三階建て住宅ほどの切り立った崖、一方は急な下り斜面、これから向かうという方向には上り傾斜の森が待ち受けていた。


「ここから少し歩くわよ」

 イルヴァが大地に向かって言った。


 御者はそのままそこで待機するようだ。見張りも兼ねているらしい。


「五、六分ってとこだな」

 大地に心の準備をさせようとしたのかランスが見積もった。


 そういえばランスはもうすでにここへは来たことがあるのだ。大地は少しばかりほっとして、イルヴァの後に続いた。


 木漏れ日の中を、緩急交々誰かが野草を踏みしだいた跡を辿る。登り切ったと思うとすぐにその先は鋭角的に下降しており、今度は山肌に沿って緩やかに下りながら降りていく。歩いていくうちに植生に変化が見られるようになった。遠くからなら樹々の形状や葉の色などを漠然と眺めるだけだが、自分の足で歩くとなると、ズボンに引っ掛かる棘を持った植物が生息していたり、意志を持ってでもいるみたいな蔓性植物が樹全体を覆いつくしていたりと、違いがよく分かる。


 樹々の間を縫って、まさに数分後、イルヴァが歩を緩めた。特別に一カ所だけ、蔓性植物が二メートル四方ほど密生している場所があり、そこへ向かって進んで行く。まるで山肌に掛けられたカーテンのように見えたそれは、本当にカーテンの役割を持っていた。


 その後ろには洞窟がぽっかりと口を開けていたのだ。ただしその中は暗闇ではなく光が届いているのが、開けた場所に続くことを教えてくれる。人の気配がした。


「ロビさま!」

 イルヴァに声を掛けてきたのは、その恰好から兵士だと判断できる。


 公爵家の私兵だろう。ここが、例の隠れ場所なのだ。通路の役割を果たしていた洞窟が繋いでいたのは、自然の産物なのだろうか、口がやや狭く胴回りの太い花器の中とでも言えるような穴の中だった。


「その方たちは……?」

 緊張した面持ちで兵士が訊ねた。見るからに余所者然としているであろう自分たちに対して警戒心を抱いているように見えた。


「大丈夫。旅の人だけれど、協力者よ」

「そうでしたか。ご協力感謝いたします」

 兵士は表情を緩めると、ランスと大地に向かって深く頭を下げた。


「異常なし?」

 イルヴァが兵士に向かって訊ねた。


「ありません」

 大地がぐるりと視線を巡らせると、日陰を作っている円周に沿って兵士たちが座っているのが分かった。およそ三十名ほど。あまり疲弊したようすもなく、食糧はどうやらうまく調達できていると思われる。


「荷は?」

「どうぞ、こちらです」

 イルヴァに答えて兵士は奥の方へと三人をいざなった。


 歴史書で見たような宝箱が一つ。ただの木箱が一つ。今すぐ中を開けて見たい衝動に駆られる。



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