53
「サリエル様は口頭で得た情報だから、証拠になるものはないと言っていたけれど、危険な荷がこの国に持ち込まれ、それはこの国の人々の生命を脅かすものである、と聞かされたらしいわ。それに、危険というのも二重三重の意味合いがあって、不法に持ち込まれた武器弾薬の他にも触れてはいけないものが、これは物理的にという意味だけど、含まれているというの。荷受人の手に渡してはいけないもの、早急に回収し、処分あるいは厳重な保管をしなくてはならないもの、だそうよ。それで兵を送った」
「ふむ。ずいぶんとまた決断の早い令嬢だな」
ランスが言った。
「ええ。この世界で誰も想像できないような悲劇が起こるのだと言われたとか」
「令嬢は誰からその話を聞いたと言うんだ?」
大地が気になっていた部分をイルヴァに訊ねた。
「イリアから」
「イリア……?」
「ちょっと待った。だが、それは偽の情報なんだろう?」
大地がつぶやいたと同時にランスが訊ねた。
イリアはツェイン・マルギアナの商人で、これからクアルニィグとの友好的な関係を築こうという立場の人間だ。もちろん今回の条約締結のための使節団やアヴィスラ舞曲団との関わりも濃いだろう。そのイリアが、なぜ国王ではなく公爵令嬢のサリエルに情報を流したというのだ。しかも偽りを告げて派兵させたという。
「半分は本当なの。荷に関する内容はほぼ間違いなくて、偽の情報っていうのは、荷受人に関する部分。サリエル様にはクアルニィグの大臣の名が告げられたらしいわ」
「ほう。それはまた」
ランスが興味深そうに言った。
「実際の荷受人は誰なのか知っているのか?」
大地が訊ねた。
「アーヘルという男よ。最近噂に上っている商人で、潤沢な資金と伝手で力を成しつつあるわ」
「そいつのことはシャルジュから聞いた。イリアと親しそうにしていたとか。しかし何だってわざわざ嘘をつく必要がある」
大地はシャルジュから聞いた酒館でのやりとりを思い出しながら訊ねた。
「それはまだ分からないの。わたしにはまだイリアの本音が見えてこない。敢えて国家の重鎮の悪事としたのは事が成る前に阻止させたかったのかもしれないわね。仮に事実を言ったとしても真偽の検証だとか、上への報告だとかで時間が掛かるわ」
アーヘルとイリアがどこまでの関係かは分からないが、アーヘルへの裏切り行為が露見するのを回避するためか、サリエルの王国への忠誠心を利用して、重鎮の悪事を可及的速やかに、尚且つ水面下の出来事として阻止したいという思いがあったのか。
いったいイリアはどちらの側なのだろうか。表面上はサリエル、あるいはクアルニィグに好意的には見える。しかしわざわざ女装してまでアーヘルを引き込もうという腹積もりも確かに事実ではあるのだ。
「国軍へ、というか国王へは、サリエル様が演習と称して国境へ私兵を向かわせたが、実態は密輸品を荷受するためである、という情報が流されたというわ。情報のでどころは不明よ。そのことをイリアは知らなかったみたいだけれど……」
「いったいどうなってるんだ」
大地は錯綜する情報の不確かさに、何もかもが嘘っぱちのように思えてならなかった。
ガタン、と馬車が揺れた。
「着いたようね」
イルヴァがほんの少し緊迫感を滲ませて言った。
渦中の私兵たちの潜伏する場所へ、いよいよ到着したらしい。これからどうなるのだろう。果たして無事にイルヴァは彼女の役目を果たすことができるのだろうか。曲がりなりにも自分たちがその一助を成せるなら、と大地は気を引き締めた。




