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 大地たちが近づいていくと、木陰で休んでいた男が立ち上がり、軽い礼をした。どうやらランスと待ち合わせをしたのはこの男のようだ。その物音で判ったのか、イルヴァが一度馬車の中から窓掛を手の甲で少し開き、こちらを確認したあと大地たちに馬車に乗り込むようにと合図をした。


 この国の平均を上回る体格の二人が乗るとさすがに少しばかり窮屈な感じがする小振りな馬車だ。イルヴァが御者を務める男に声を掛けると同時に馬車は動き出す。


「事情が変わった」

 ランスが前置きもなくイルヴァに告げた。


「と言うと?」

「国軍のテントで、大地が狙われた。おそらくあんただと勘違いされたんだろう」

 ランスの口調からは、別にイルヴァを責めているわけではないことが判る。


「それは悪かったわ。その割には平和そうに見えるけど?」

 イルヴァは()()撤回どころかそれも織込み済みだったとでもいうようにくすっと笑った。


「ああ。そいつはとっくに王宮へ護送されたはずだ」

「あら、お手柄ね。私を狙ったつもりだってことは、軍の兵士たちを回復させようとしたのね」

「ああ。解毒剤を投入しようとしていた。回収しといたよ。これだ。どうしたって一戦交えたがっているようだな、敵さんは」

 ランスは保管してあったらしい不審者の所持品だったものをイルヴァに手渡し、正体不明の相手のこの先の戦略を予想して言った。


「そうね」

 イルヴァはランスから受け取った小袋を興味深げに眺めながらも、安易に袋の口を開いて匂いを嗅いだりということはしなかった。また、ランスがなぜそれを解毒剤と分かったのかも訊ねはしなかった。


 ランスは言葉の端々に、敢えて自分たちの正体を推し測れそうな因子を含んでいるように思える。必要とあれば、宇宙連合の規範に抵触しない程度に文明の利器を提供しようという腹積もりなのかもしれない。しかし、イルヴァは見事なほどに乗っかってはこなかった。


「そろそろ、詳しい事情を話してくれてもいいんじゃないか? 俺たちの生命の危険もあることだし」

 あまり危機感を感じないランスのせりふだったが、大地も確かにそうだと思った。


「同感だね。心の準備をしとかないと」

 大地もたたみかける。


 それにたとえ駒扱いだろうが、イルヴァはこの国の人々に対するのとは違った用兵術を自分たちに使えるはずだ。


「そうね。そのとおりだわ」

 イルヴァはにっこりと笑った。


「どこから話しましょうか」

 そう言って、イルヴァは考えをまとめようとでもするためか、目を閉じた。


 それはほんの一、二秒だったかもしれないが、刻限の明らかでない時間を待つのはあまり望ましくはないものだ。


「最初に言っておくわね。結局何も起こらなかった。起こってはいけない、ってことなのよ」

 まだか、という思いが首をもたげた瞬間、イルヴァが口を開いた。



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