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ランスの言ったとおりだと、高熱に侵された兵士たちの容態には進も退もない状態が続いていて、それが当面平穏であるということなのだろうか。例の侵入者が一体どんな目的を抱いていたのか、ランスはそれを突き止めたのか、大地は早く知りたい欲求に駆られる。
交代が告げられ、大地たちは自分たちのテントに戻った。
「今日の仕事はここまでだ。明日は、傷病兵の状態を見て移送するかどうかを決める。それまではこの表のとおりに作業するように」
兵士が大きな声で告げ、再びテントを出て行った。
張り出された紙を見ると、いくつかの班分けがされてあり、馬の世話だとか水汲みだとか炊事だとか介護だとかが割り当てられていた。
「俺たち一緒の班だ。ええっと、午前中水汲みだってさ」
シャルジュが何の感情も含まずに言った。与えられた仕事に対して不満も要望も持たないようだ。大地は自分たちが水汲みをしていた場所の地形を思い出し、もっと効率的にできないかと考えを巡らせた。
夕食が配給され、思い思いの場所を陣取る。想像していたとおりのパンと煮物という組み合わせだったが、こういった状況下にあって、イメージしていたより具材がたっぷりだったのが意外だ。
シチューのようなとろみのある煮込み料理だが、スープよりも肉や野菜の方が断然多い。酸味と甘味が絶妙なバランスで、強いて例えるなら中華風の味付けをしたシチューといったところか。
「うん、まあまあイケるね」
シャルジュが一匙、二匙を口にしたところで言った。
「そうだな」
大地も相槌を打つ。
気がつくとテントを半規則的に打つ音が消えている。どうやら雨は止んだようだ。食事の終わった者たちがいくつかのグループに分かれ、今日一日の出来事をあれこれと話している。時折ランスの方に目を向ける者がいたが、概ね称賛や感嘆の感情が表れていることから、どうやら一躍脚光を浴びるという好ましくない展開になってしまったようだ。
ただ、ランスは目立ちたくないという思いは変わらないらしく、気安く近づくなオーラをまき散らしている。どうにかこうにか、大地たち三人の静かな居場所は確保できている。
「それにしても、せっかくの旅行がとんだことになっちまったね」
シャルジュが自分のせいでもないのに申し訳なさそうに言った。
「別に。時間に縛られているわけじゃないしな」
「そうそう。これもまた経験」
ランスも大地も、どうせ足止めを食らった身だ。ありきたりな観光が続くよりは刺激的な状況下に置かれたことで、逆に気概が増した気がしている。
「それより、ちょっと思いついたんだが」
大地はランスに向けてタレスターフの言語で言った。
「どうした?」
「明日、水汲みだろう。別に楽をしたいわけじゃないけど、その効率化ってとこで」
「なるほど。滑車か」
「そう。材料があればだけどな」
シャルジュが大地とランスの会話がクアルニィグの言葉に戻るのをじっと待っている。
「ちょっと見てくるか」
大地が今度はシャルジュにも解るように言った。
「え? なに、なに、なにするの?」
「いいから、気になるならシャルジュも来いよ」
食後の腹もこなれてきたところで、ちょっとした工作タイムだ。
この程度のことなら干渉などのうちには入らない。すでにあるものを有効に使うだけだ。三人はテントを出て、見張りの兵士に一言告げ、資材の調達に向かった。
星空が、今にも降り注いできそうなほど美しい。篝火の脇を通り過ぎ、資材置き場へ向かった。シャルジュにはおおよその形を説明し、それぞれ手分けして廃材の山を物色することにした。
シャルジュから少し離れてランスの方に行き、大地は聞きたかったことを口にした。




