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「指揮官はいるか?」

 ランスは出入口すぐで立ち止まり、良くとおる声でテント内の視線を集めた。


「私がここを任されているが、何か?」

 体格のいい中年層の兵士が、口ひげを触りながらランスの方へと向かった。


「怪しいやつがいた。調べてみた方がいいぜ」

 言いながら、テントの外に伸ばしていた手をおもむろに中へと動かした。


 クレーンの吊り荷よろしく怪しいやつの首根っこをわしづかみにし、かろうじて地面につま先が掛かるかどうかという状態で、指揮官の前に差し出した。このようすでさえ驚きだったが、ランスの腕がどれほどの荷重に耐えうるのか、想像の域をはるかに超えるような気がした。


「何者だ」

 ランスが手を離し、落下に任せて崩れ落ちた不審者に指揮官が問う。


 すぐさま兵士が三人がかりで男の動きを封じる。見た目こそ国軍の軍服を纏っているが、よく見ると少しばかりつんつるてんな状態だ。身体に合わないサイズのものを無理して着用しているように見える。


 男は一生の不覚だとでもいうように苦い表情をしていて、固く口を閉ざしている。


「早く、手当を」

 テントの外が急に騒がしくなったと思うとすぐに、今度は二人に両脇を抱えられた男だ。


 上も下も肌着のままで、ひどく殴られでもしたのか、意識が朦朧とした態で運ばれてきた。さしずめ先にランスが引っ立ててきた不審者が、後の男の軍服を奪ったというところか。


「こっちに寝かせろ」

 手当にあたるもの、不審者を確認に行く者、病人でない者たちのざわめきがテント内に広がる。


 ランスが大地に気づいたようだ。小さく頷いた。


「連れて来い」

 指揮官は運ばれてきた兵士と不審者とを交互に見やって、おおよその見当がついたのか、三人に命じると先に立って歩き出した。


 この場での尋問、場合によってはその先のステップは望ましくない。詳しい事情を把握するために本部に当てているテントへと向かうようだ。


「さあさあ、他は仕事に戻る!」

 指揮官たちが出て行ったあとを、現場を仕切る立場らしい兵士が声を張り上げた。わらわらとランスの周りに集まりかけていた者たちが、さあっとひいていく。


「あんた、お手柄だなあ。ほら、旅の人、相棒もこっちに来てる。あんたもここにいるといい」

 大地の方を指さしてそう言うと、兵士はポンポンとねぎらいを込めてランスの腕を叩いた。 


「ねえねえ、何があったんだい?」

 シャルジュが両眼に好奇心をあふれさせてランスに訊ねた。

 

 まるで全員が聞き耳を立てているのではないかと思えるくらい不自然なくらいにテント内は静かになった。



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