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次の瞬間、大地は反射的に自身の身を翻していた。
──この感覚、どこかで……。
条件反射のように、頭で考えることなく大地の身体は反応した。そしてその感覚はどこかで味わったことのあるもののような気がした。
短い瞬間の中で思考が猛スピードで駆け抜けていく。記憶をいくら手繰り寄せてみても、大地になぜそのような動きが可能だったのか、思い当たるものがない。
そして、身体が反応した原因は、明らかに大地に向かって放たれた何かだが、しかし痕跡はない。銃弾のような形ある脅威ではなく、心理的攻撃でもない。大地の後方から放たれたそれは、可聴域を超えた音を立てながら瞬間的な移動をし、裂かれた空の揺らいだ波がかすかに、避けた大地の頬を撫でていった、物だったように思える。
「ダイチさん、どうしたの?」
シャルジュが振り向き、一体何事だという怪訝そうな顔をした。
他から見れば、大地が何もないところで一人でバランスを崩したようにしか見えなかったからだ。
「あ、いや、何でもない」
そうは言ったものの、大地は自分の顔のすぐそばを掠めていった何かの正体を確かめなければならない、という衝動に駆られていた。
射線の方向へ視線を移したが、目に見える何もない。後ろを振り返ったが、人も何もかもそこはそれまでと何も変わらない様相を呈している。
──まさか、俺が狙われたのか? イルヴァは俺たちに害が及ぶことはないって言ってなかったか?
自分に向けられた刺客でもいるのだろうか。まさか、なんのために? 単なるイレギュラーだろうか。気のせいでは決してない。それは断言できる。
「大丈夫かい?」
考え込んでいる大地に、シャルジュが心配そうに声を掛けた。
「ああ、平気だ。ちょっと躓いただけだ」
そう言って、大地は笑顔を作った。
一応ランスに報告するべきだろうな、と大地は思った。それに、ランスも同様の事態に遭遇していないとも限らない。警戒するに越したことはない。しかし、今この場所でオグヌイを操作することもできない。何か理由をつけてテントを出るか……、そう思ったとき、兵士の一人が興奮したようすでテントの中に入ってきた。
「おっどろいた~!」
「いったいどうした?」
「なんだ、なんだ?」
元気のある者がいっせいに兵士に視線を向ける。
「こおんなでかい鳥が飛んでたんだ。この雨の中だぜ? もう暗くなってるのに、だぜ?」
両手をこれでもかというくらい左右に大きく広げて、兵士は自分の見たものが世にも珍しいものであることをアピールした。
「夢でも見たんだろ」
「何かの影と見間違ったんじゃねえのか」
小用に立っていった兵士の、臆病さが見せた幻だろうと、周りの兵士は軽くあしらっている。
しかし、頑としてその兵士は本物だと言って、自分の目に間違いはないと主張する。
「ばかだな、ここいらにそんなでかい鳥がいるわけねえだろうが。さあさあ、仕事に戻った」
それでも本当だとぶつぶつ言いながら兵士は持ち場に向かった。
ひとしきりの話題が沈静化したタイミングで、ランスがテントに入って来た。




