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 地元民のシャルジュがしっくりこないというなら、きっとそれは大方の思いだろう。ならばサリエルならどうだ。父である公爵、と同時に国家に反目する若き公爵令嬢。しかしそれもまた考えにくい。あの劇場でのサリエルの立ち居振る舞いを見れば、彼女は断じて国家に与する人間だ。


 では、本人がそうと気付かずに敵側に有利な何かしらの行動を取ったのか。


 イリアか。


 ツェイン・マルギアナの商人。通商条約締結の使節団が訪れているさなかの、密輸の噂。サリエルとの関係が、クアルニィグに不利益をもたらす要因ならば、この美しい男もまた被疑者の一人となり得るのではないか。


 そこまで考えたとき、国軍の兵士が一人、衣服の雨粒を大袈裟に払い落としながらテントに入ってきた。噂話で盛り上がっていたテントの中が一瞬にして静かになり、その兵士に注目した。


「ああ~、十人ほど、介護班と交代だ」

 ぐるりとテント内を見回してそう言った兵士は、特に名指ししないところを見ると、交代要員は誰がやっても構わないのだろう。


 大地には新しい情報を得るチャンスに思えた。


「はい」

 名乗りを上げて立ち上がる。


「あ、俺も」

 すぐさまシャルジュが大地に同調した。


 ランスはまだ帰って来てはいないが、どうせ大地たちの所在は明らかなのだし、それにもしイレギュラーな何事かが起こったとしても、オグヌイを介してランスは大地の居場所を知ることができるはずだ。


 周囲の動きや思惑を測りつつ、じゃあ自分も、と数人が名乗りを上げた。


「一、二、三……、十、よし、じゃあ後についてきてくれ」

「うい~っす」

「へ~い」

 返事をする者、挙手をする者、頷く者、それぞれの反応ののち、自薦の十人は兵士の後に続いた。


 外に出て見上げると空全体が雨雲に覆われている。雨は大粒でばらばらと降り続く。大地は、ランスは傘も持たずに出たなと思い出し、今頃再びずぶ濡れになっているに違いないと危惧した。


 隣の救護テントに入ると、整然と寝かされている兵士たちが一様に同じような具合でいるのが目に入った。


「交代だ」

 引率してきた兵士の言葉に、それまで介護にあたっていた兵士たちは肩をもみほぐしたり腰を左右にねじったりしながら、しばしの休息を求めてテントを出て行った。


 医療従事者ではないが、大地は注意深く熱にうなされる兵士たちのようすを観察した。どういった検査が行われたのかは知る由もないが、医師たちの見立てでは、ここにいる兵士たちの症状は高熱のただ一点だという。嘔吐や瀉腹、発疹や腫れ、爛れ、虫刺されや植物等によるかぶれなどの所見がなく、発熱の原因が不明だという。


 兵士たちには多少息遣いの粗い者もいるが、呼吸に困難さを見せる者は見受けられない。痛みを訴える者もいない。そして全員が一斉に同等の症状下にある。


 ふと大地の脳裏に、セルクク星外からの介入というイメージが浮かんだ。いや、イルヴァを疑うというわけではない。しかし、彼女という存在があるのなら、大地とランスがそうであるように、彼女以外の異星人がここにいて、関与しているという可能性は充分にあり得る。


 大地はこのテントにいる間にできるだけ多くの情報を得ようと決意した。現状のみに関わらず、出入りする人間にもだ。ひょんな思いつきは大地の好奇心を刺激した。



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