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 早朝、大地が鳥の声で目覚めると、ランスはすでに起きていた。ほんとうに、いつ寝ていつ起きているのだろうと、睡眠時間は足りているのだろうかと心配になるほどだ。


「起きたか」

 眠りの余韻を楽しむ大地がまだベッドの上に横たわっているのへ、ランスが声を掛けた。


「ああ、今、起きる」

 そう言い、大地は弾みをつけて上体を起こした。


「今日もいい天気だ。午後はちょいと怪しいがな」

 もうエスネムとの通信も済ませたのか、ランスは開いた窓の向こうを眺めながら言った。


「そうか、まあ、午前中だけでもよしとするさ」

 床に降り、バスルームへと向かった。


 シャルジュが来るだろうからあまりゆったりと温泉を堪能してもいられない。大地は朝風呂を最小限にとどめ置いた。


「乗馬、か。楽しみだな」

 髪の水分を拭き取りながら大地は言い、ランスもまた興味を持っているのだろうか、自分に合わせてただ消化するだけのスケジュールだと思ってはいないだろうか、と危惧する。


「俺は、馬に乗ることよりは生体そのものの方に興味があるね」

 大地はほっとした。シヴァン・アルレットの居候の身としては、大切な客人扱いしてくれるランス、そしてエスネムに自分のために無理をさせたくはない、と考えているからだ。


 ランスの隣に立ち、窓の外を眺める。鳥の声、青い空、白い雲、きらめく川面、頬をなでる微風。葉擦れの音。人類の、文明が脅かす前の豊かな自然。セルクク星のこの大自然が、ずっといつまでも美しいままでいて欲しい、と願う。


 星々は必ずいつか終焉の時を迎えるけれど、問題にきちんと対処できるという条件下で自由に移住を行える知的生命体はいったいこの宇宙の中でどのくらいいるのだろう。


 地球ではようやく移住計画のもと、宇宙船の建造を始めたばかりという段階だ。大地がシヴァン・アルレットの船客になった立場でみると、これらの技術に地球が到達するまでにはあとどれくらいかかるのかも見当がつかない。


「おはようございま~す!」

 メロディを奏でているような特徴的なノックのあと、シャルジュの声がした。


 大地は部屋のドアを開けに行った。


 ドアを開けるとシャルジュが気を付けをして立っていた。元気いっぱい、はつらつとした笑顔が眩しいほどだ。


「おはよう、シャルジュ」

「今日は一緒に食事をしようって、ランスさんが」

 そう言って三人分の食事を乗せたワゴンを、シャルジュは部屋の中へ入れた。


「よし、食べようぜ」

 ランスが手伝い、食事の用意をした。


 三人で、宿の部屋で食べる食事もまた面白かった。周囲に気兼ねせず、自分たちのことを話せる。と言ってもセルクク星の住人の振りは続けていたけれど。


 旅行者の扱いになれているシャルジュは、聞き上手だし、話をさせるのも上手い。自分からだと何を話せばいいのか戸惑ったとしても、シャルジュの魔法にかかるとするすると、次から次へと言葉が口をついて出る。話題の紡ぎ方が上手いのだろう。


 そうして、たわいもないことがほとんどだったけれど、楽しい会話と共に三人は朝食を終えた。


 ガラン、ガランと馬車の到着を知らせる音が聞こえた。


「じゃあ、出発だ」

 シャルジュがワゴンを廊下に出し、ランスが部屋の鍵を掛け、三人は外へと繰り出した。


 馬場へ向かう距離はあまり長いとは感じなかった。自然の深くなった郊外の馬場には、よく調教された馬がたくさんいた。


 すでに予約はシャルジュが済ませておいたらしく、特別な手続きなどせずにすぐ、大地たちは厩舎へと案内された。


「好きな馬を選んで」

 すでに馬装の済んだ馬たちを紹介するみたいに、シャルジュがさあっと腕を広げて言った。


 好きな馬と言っても、多少の外見の違いくらいしか大地には判らない。靴下を履いているみたいだとか、毛の色だとか、顔が整っているだとか、そのくらいだ。何しろこんな至近距離に迫ったのは初めてだ。


 それでも、鼻筋の白い、栗毛の馬を大地は選んだ。ランスは何を基準にしたのか、黒い一頭を選んだ。


 二頭を片手で厩舎から連れ出した馬場の主が、それぞれを大地たちのところへと引き渡した。


 シャルジュは常連なのか、自分で連れてきた白馬に、まさに乗ろうとしていた。


 大地はそれを見て、同じように鐙に左足を掛け、ひょいっと馬の背に身体を移した。


「へえ~、ダイチさん、すげえ」

 それを見ていたシャルジュがヒューっと口笛を一つ、吹き鳴らして言った。


「初心者で踏み台使わなかったの、初めて見た」

「そうなのか?」

 大地は少しばかり照れ臭さを感じたものの、平静を装って答えた。


 ランスは、と見ると、馬の近くに寄って、ずいぶんと丹念に観察をしている。



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