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<お待たせしました。過去使われた偽名も含めてその名前では手配者リストには載っていません>

 ほどなくしてエスネムの回答があった。


 何故か安堵する自分を大地は感じた。


「そうか」

<それで、ひとつ気になることがあります>

「気になること?」

 ランスが興味を示して詳細を告げるよう促した。


<検索結果が出るまでほんの僅かにタイムラグがあります。おそらく、アクセス権を必要とするファイルがありそうです>

「なるほど、分かった。例の場所はどうなっている?」

<サーモグラフィによると、国軍兵士たちの体温がかなり上がっています>

「全員、か?」

<はい、ほぼ全員313二ヴレックを超えています>

「ふうむ。了解。ありがとう」

<どういたしまして。おやすみなさい>

 通信を切ったランスは、さて、という面持ちで大地に向き直った。


「説明を聞こう」

 そのランスに向かって、大地は聴講者よろしく居住まいを正した。


「イルヴァ・ロビという名前での犯罪者はいないってことだ。エスネムの言うラグは、迂回を意味している。人間じゃ感知できないくらいだがな。多分一瞬どこかの機密ファイルに触れかけたんだろう。もしかしたら、本当にイルヴァは道徳的正義の執行者なのかもしれん」

「へえ……」

 通信量とか通信速度とかの問題が皆無なのはすでにランスから聞いている。ラグはファイルからの遮断を受けたせいなのだろう。


「兵士たちの体温だが、あと2二ヴレックほど上がると脳がダメージを受けるレベルだ」

「ほぼ全員ってことは、感染症か、毒の類……?」

 大地はそこに何者かの意図を感じた。


「さあな。早馬が向かったってのはそれに関係してるのかもしれん」

「ああ、そんな気がする」

 歴史的事件が起きるのだろうか。


 それとももうすでにそれは始まっているのかもしれない。大地はそれを見届けることになるのか否か。自分たちは結果を知る前に、宇宙の旅に戻ることになるかもしれない。その時はどれだけの未練を抱えることになるだろう。纜を解きたくないとさえ思うのかもしれない。


 ランスが取り置いた樽酒から、鮮やかな赤い液体をグラスに注いだ。


「好奇心が騒ぐだろうが、飲んだら休めよ」

 グラスを大地に手渡し、大地の脳内でどんなイメージが渦巻いているのか解り切っているとばかりにランスは言った。


「ああ、そうする。ランスは?」

「俺は少しリフレッシュする。灯は消しておいていいぜ」

「了解」

 ランスは浴室の方へと消えた。


 ワインをたしなむようにグラスを揺らして香を楽しむ。柔らかい甘い匂いが変化した。一口含むと、すぐに薬草っぽい味が広がった。


「まあまあいけるかな」

 度数はそこそこありそうだが、喉の通りはいい。大地は予定はあるものの、明日はまたどんなことが起こるのだろうかと思いを巡らせながら、グラスを空にした。



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