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「どう捉えてもらっても構わないわ。ただ、この広い世界で出会ったのだもの。感謝の気持ちは伝えておきたかったの」
大地はやんわりと笑ったイルヴァの、広い世界が宇宙を示している気がした。
「それはそうと、ここには長く滞在するの?」
「天の気紛れにお任せさ。まあ、あと数日どうだろうな」
イルヴァの問いに、ランスは曖昧に答えた。
──触れなかった。
大地たちが彼女を異星人と認識していると匂わせたことに気付いて、それでもイルヴァはそのことには言及しなかった。さらりと話の流れを変えたのは、暗黙の了解を維持して欲しいということだろうか。
大地の勘は、イルヴァが道徳的、倫理的な意味合いでの正義を通そうとしているのだろうと告げている。この星のためなどという御大層な名目が事実でも誇大表現でも、きっとそれは本当なのだろう。
「そう。それは大変ね。ああ、そうそう。巷の噂はもう耳に入っているでしょう?」
「公爵令嬢のことか?」
「俺たちの目の前で連行されたからな」
──来た。
大地は、知りたかったことを向こうから切り出してくれたことに感謝した。
「そのことだけど、あなたたちに害が及ぶことは決してないから、安心してちょうだい」
「ほう」
ランスが、なぜそう言い切れるのかというニュアンスを込めて先を促す。
「拘留されているサリエル様は謀反を起こしたと思われているけれど、それは違うし、イリアたちとは仕事上の関りだけなの。多分、想像しているような……、悪いことはないわ」
自分たちの立ち位置が危うい場所にあるのではないかという推測は、イルヴァの方でも念頭にあったのかもしれない。
イルヴァは公爵令嬢の無実を断言した。しかし、客観的な立場で証言できるのなら、なぜイルヴァはそれをしないのだろうと、ふと疑問が浮かぶ。彼女は黙秘を通すサリエルに助け船を出さないのか、出せないのか。
いずれにしても、もう背後に国軍の存在を気にしなくていいのなら、純粋に旅行気分を満喫できることだろう。とはいえ、知りたい欲求にはすでに火が点いている。大っぴらに聞くこともできずに、ああでもないこうでもないと想像を巡らせて好奇心を落ち着かせるしかない。
「なるほど。いいだろう、解った」
ランスもイルヴァが話そうと思ったこと以上を訊ねる気はないようだ。
「また……、よい旅を」
少し言い淀んだのが気になったが、イルヴァの表情は明るかった。
「ああ、じゃ」
「おやすみ」
大地は、もしかしたらイルヴァが口実以外の何かを話したかったのではないかと思った。
イルヴァが部屋の外に出たのを確認して、大地はドアに鍵を掛けた。
「断言したな」
向き直った大地にランスが言った。
「ああ。表面上の事実だけじゃ、測り切れない何かがあるんだろうな」
事はクアルニィグやツェイン・マルギアナとの通商だけにとどまらない話なのかもしれない。
「エスネム。ちょっと調べてくれないか」
<はい。何でしょう>
「イルヴァ・ロビという名前だ。女性、二十代、かな」
<了解しました。お待ちください>
本名なのか偽名なのかは分からない。しかし、検索してみる価値はあるだろう。大地もエスネムからの返事を待つことにした。




