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「ああ、逃げも隠れもしないって感じだ。彼女、標準語には反応した?」

「表情を変えはしなかったが、理解はしているな。異星人で間違いない」

 ランスが確信の上書きをしたことで、彼女とのやりとりがどのように展開するのか、大地には興味深く思えた。


 異星人という立場で彼女が大地たちに接触するのか、否か。連合の約定を彼女は遵守しているのか。


 コン、コン。


 ほどなくして扉を二度ノックする軽い音が聞こえた。


「どうぞ」

 大地が言いながら扉を開け、招じ入れた。


 彼女は、逃亡劇をしていた時の野性味さえ感じさせる艶やかさとは印象が違い、落ち着いたようすでドアの外に立っていた。


「ありがとう。お邪魔するわ」

 大地が扉を完全に締め切るかどうか躊躇していると、ランスは軽く顔を上げてみせ、閉めてもいいと促した。


「座って」

 ランスは椅子を曳いて彼女に着座するように勧める。


 続いて、ランスと大地も同じテーブルに着いた。


「ごめんなさいね。外から窓に石を投げたりして」

「ああ、別に。フロントで不在だと告げられたんだろう?」

 女性の言葉にランスは特に気にしていない、と答えた。


 見た目の美しさとは裏腹にやることがちょっとばかりやんちゃだな、と大地はギャップを面白いと思った。


「ええ。でも、イリアからあなた方は部屋にいると聞いたので」

「ほう、イリア?」

 すでに情報のやり取りをするまでになったのか。


「あ、ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね。わたしは、イルヴァ・ロビよ。お礼をしなくちゃって思っていたの」

「別に大したことはしていない」

 ランスの言葉に、大地は納得していいものかどうかと密かに思いを巡らせた。


「二度も助けられたのですもの。本当にありがとう。助かったわ」

「二度……?」

 大地が二度目とはいったいいつのことだろうと記憶を手繰る。


「追われていたときと、酒館で。知らないふりをしないでくれたでしょ。おかげで仲間と認めてもらえたわ」

「仲間だって? ツェイン・マルギアナの商人に?」

 いったいどういう意味だろう、と大地はイルヴァの言葉に違和感を抱いた。


「あんたは、国軍に追われていたんじゃないのか? マルギアナの商人の仲間になることとどうつながるんだ?」

 ランスが訊ねた。


 当然の疑問だ。


「立場が変わったことを示さないといけなかったからよ」

 イルヴァは言葉を選ぶようすもなく、即座に答えた。


「商人が相手なら普通であれば商取引が目的だろう。まっとうな関係に妥当性を求めるのがスタンダードなはずだ。あんたが確かに追われていたと証言したことが、イリアの信頼を得た要因だというのか?」

 もしそうであるなら、その裏に潜むものは表ざたにできない何かだろう。


「ええ、まあ、そうね」

 まったく悪びれもせずにイルヴァは答えた。


「つまり、あんたはクアルニィグに対する不義を働こうという魂胆なのか?」

 反逆者の逃亡に加担させ、都合のいい証言を引き出させ、単なる旅行者であるはずの大地たちを、のっぴきならない事態にひきずりこもうというのか。


「いえ、そうじゃないわ」

 今度ははっきりと、確固たる意志でもってイルヴァは答えた。


「というと?」

 ランスが訊ねた。


 それが悪ではないと言うなら、正当な理由や目的をイルヴァは説明できるのだろうか。


「どう受け取ってくれてもいいのだけれど、わたしはわたしの信じるもののために動いているつもり」

「信じるもの、とは?」

「ひとことに凝縮するなら正義だろうけど、正義と悪とは表裏一体。立場が変われば当然是非も変わってくるわ」

「ああ。それは解る」

「なら、君の正義とは誰に対しての?」

 ランスの後に続けて、大地は訊ねた。


「クアルニィグのため? それともツェイン・マルギアナのため? どちらとも言えないし、いいえ、どちらでもあるのかしら……。そうね、セルククのためかしら」

「これはまた、話のスケールが広がったな」

 ランスが言外に、イルヴァに向けて、こちらでは彼女の正体を認識しているんだと示唆したように聞こえた。


 大地は、自分の中に緊張感が走るのを意識した。

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