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 大地にはシャルジュを待たせている、という気持ちは不思議に起こらなかった。彼がこの予期せぬ待遇を満喫しているのだろうと思うと、自分たちが敢えて掻き込んで食べるというのはしない方がいいように感じた。


 急ぐでもなく、だらだらとでもなく食事を終えると、大地は食器をワゴンへと戻した。


「美味しかった。ごちそうさま」

「多少カロリー過多かもしれないがな」

 ランスがざっと見積もった食事の栄養価を、このところの運動不足とを照らし合わせて言った。


 大地が日課にしているトレーニングが休止状態であるのは、もちろん大地自身の判断によるものだ。目立ってはいけない環境にあって、外国からの旅行者が、いくら習慣とはいえ早朝ランニングだとか、宿泊している室内でドタバタと動き回るわけにはいかない。


 二、三日の予定が思いがけず長引くことになり、ランスも大地の体形を気にしてくれたのかもしれない。


「仕方ない。船に戻ったら精進するさ」

 唇を曳いて大地は笑った。


「さて、情報屋を呼ぶとするか」

 酒樽だけを残して、ワゴンを宿側からの指示通りに廊下に出し、ランスはシャルジュを呼びに行った。


「どうだい、旨かったかい?」

 ドアが開いて、ランスの後に続いて部屋に入るなりシャルジュが訊ねた。


「ああ、とても」

 大地が答えると、シャルジュは満足そうに二度ほどうなずいた。


「そっか。良かった。俺のイチ推しだからな」

 胸を張って、ガイドとしての目利き立てをする。


 はいはい、と笑いながら大地は部屋に備え付けの茶葉で三人分のお茶を淹れた。薄い紫色をした液体からは芳醇な香が漂う。


「さて、聞こうか」

 ランスが言った。


 大地はシャルジュの方を向いて同意の意思を伝え、それから淹れたての茶を一口飲んだ。素材のほんのりとした甘さが軽やかに喉を通り過ぎる。


「了解。先ずは、公爵令嬢の方な。王宮御用達が侍従たちから聞いた話だと、令嬢、サリエル様は投獄されて、っつってもまあそれなりの部屋らしいんだけども、さすがに拷問されてはないにしても、かなりきつい尋問を受けて、それでも一切口を閉ざしたままなんだってさ。誰かが面会に来ていたとか、断られたとかって話もあるけど、それが誰かははっきりしてない。ああ、父親のウィングロム公じゃあないみたいだ。公爵は娘の釈放を嘆願するでもなく、無実を訴えるでもなく、とにかく鳴りを潜めてるって状況らしい。サリエル様がシロだと信じてるなら、下手に細工を弄してことを荒立てるより、静観しといた方が無難なのかもだし、間違ってクロなら……、ってかそういう人じゃあないってもっぱらの噂だよね。もしかしたら、外の誰かに探らせたりはしてるだろうけどね」

 そこでシャルジュは大地の淹れた茶を一口すすった。


 空気が動いて、ふわっと香が漂う。


「父親、ウィングロムと言ったか? にしてみれば寝耳に水なんだろうな。それにしてもお嬢さんが独断即決でことを起こしたのだからよほどの理由があったと思うんだがな」

 ランスがどちらにともなく言った。


「あと、早馬が国境へ向かったみたいだ。そっちは国王軍だという噂だけど、それとは別に向かっている馬もいるらしい。ずいぶんと脚のいい馬らしくて、見かけた奴がボケーっと見送るくらいだったってさ。向こうで何かがあったのかなって、みんな噂してる」

 シャルジュの言葉に、大地はふとエスネムが送ってきた映像を思い出した。


 岩場に移動したきり、動きのないウィングロム家の私兵たち。早馬が現場に向かったのだとしたら、一体なんのためだろう。私兵を制圧するのなら、すでに向こうにいる国王軍が動いているはずだ。


 不確かな情報と、不明瞭な状況とが錯綜している。サリエルが口をつぐむことは何を意味しているのだろうか。


「なるほどな。アヴィスラ舞曲団とか、ツェインの商人たちとかについて何か聞いてないか?」

 ランスがシャルジュに訊ねた。




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