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「先に謀反だと仮定してみよう。とすると、令嬢はツェイン・マルギアナ側と通じていて、イリアを介して何等かの情報を得ていた」
「うん。そして私兵を国境へ配備した」
ランスの言葉を受けて大地が続けた。
「理由の如何に関わらずそれが国王側にとっての脅威となるなら、令嬢の独断による派兵が王の権威を脅かす行為、あるいはマルギアナ兵と共闘しての反乱を懸念したというあたりだろう」
「その場合異星人のイリアへの接触はマルギアナ側に付くためってことか……?」
「国軍から追われていて、イリアの信用を得るために俺たちを利用したとするなら、元々は国王側に属していたんだろう」
昨夜の一件をつい、また思い出す。
逃げ切るための演技だというなら、異星人女性のあの行動は本当にたいした演出だ。大地はランスの方をちらりと見やった。表情には何の変化も感情もない。ランスにとっては、単純にアドリブに付き合っただけ程度の感覚なのだろうか。
「だろうな」
「さて、しかし、公爵令嬢のあの態度からは謀反とも考えにくい。イリアに利用されている説と仮定しよう」
ランスのことだ。捕物劇のあの局面でもきっと令嬢をじっくりと観察していたのだろう。
心理的作用が及ぼす身体の動きや、声の調子、眼差しなどから判断したと思われる。が、大地も直感的ではあるが同じ感想だった。あの時の令嬢の、理不尽な行為に憤慨する高貴なさまは、とうてい演技とは思えない。
「ああ、俺も同感だ。自分は良いことをしたはずって感がありありだったからな」
「令嬢が連行された時のイリアはどういう心境だったと思う? 我関せずで逃げようとしたか、それとも対策を講じるつもりか」
ランスが試すように大地に質問を投げかけてきた。
「対策、だろう。でなきゃ俺たちにわざわざ異星人のことを聞いたりしないはずだ」
「そうなると、異星人の立場ってのはまだ何とも言えんな」
「ああ、王国側のスパイって線も浮上してくる」
これまでの一連のできごとが次第に、大地の好奇心をくすぐる事件に変化しつつあった。
「双方が違う情報の許に動いている、動かされている可能性が無きにしも非ずだぜ」
なぜだかランスは大地の心を読んだとでもいうようににやりと笑ってそう言った。
「おいおい。想像、推論、そのうち空想、妄想の域に入り込みそうだ」
大地は苦笑いをして、それからモタルドクに再び視線を移した。
「エスネム、さっきの逃亡者たちを見つけてくれ」
大地の視線をたどったランスは、映像の領域から外れた令嬢の私兵たちを探すようにエスネムに指示をした。
<いましたよ。マーカーを付けておきました>
すぐさま返答がある。
自動追尾が設定された人物たちが移動すると、座標はそれに合わせて動いていく。公爵令嬢の私兵たちは、国軍からの追跡を完全に振り切り、国境からさほど遠く離れずに険しい道へと向かっていた。
単に追手からの逃亡なのか、それとも他に目的があるのか、彼らが何をしようとしているのかはまったく想像できなかった。しばらくモタルドクを起動したままにしていたが、兵士たちが休息のためなのか岩陰に入り込み動きがなくなったところで、ランスはモタルドクをスリープに切り替えた。兵士たちが動き出せばモタルドクは立ち上がる。
「夕食前に風呂でも入って来いよ。今日はどうせもうすることもない」
ランスが言った。
大地は素直に従うことにした。謎解きをするにもまだ情報量が足りなすぎる。シャルジュが街の噂やなにやらをかき集めてくれば、少しは話が見えてくるだろう。
「じゃあ、先に使わせてもらう」
「おう」
流れる温泉にゆったりと浸かりながらも、一度脳裏に染み込んだものは簡単には薄れていかなかった。自分たちは当事者ではなく傍観者であるはずだ。それともこれからさらに関わっていくことになるのだろうか。
折も折、このセルクク星への滞在が延長を余儀なくされたばかりだ。このまま何事もなく他国のニュースを見ているような立場が維持できるかどうか。妙な予感が大地に付きまとっていた。




