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「ところで君は?」
見たことのある人物。大地たちが追手からかくまった女性となにやら親密な話をしていた人物。
とはいえ知らない人間だ。ランスが女性とこの男との関係を意識してだろう問いかけをした。大地も当然のごとくあの一幕を思い出す。相手の知りたいことが何かを確認するまでは、どこまでを話すべきか見極めができない。
「これは失礼。申し遅れました。わたしの名はイリア。貿易商でしてツェイン・マルギアナからクアルニィグの名産品を買い付けに来ております」
マルギアナ人なのだろうか。クアルニィグの言葉を話しているが、とても流暢だ。
「そうか。しかし俺たちは単なる旅行人で、彼女の名前も知らんし道で偶然出くわしただけだが」
大地にはランスが話すことの選択肢を狭めるために、言葉を選んでいることが判った。
もしも、彼らがなにかしらの男女の関わりを持つのだとしたら、言わずに収まることなら言わないでおく方がいい。
「彼女は追われていた、と」
「ああ。軍人か、警邏の者か知らんが、そうだ、さっき劇場に乗り込んできた奴らと同じ制服を着ていた」
「そうでしたか。それで、どうでしたか。緊迫していたようすなどは?」
イリアの知りたいのはどうやら彼女がどういう立場にあるのか、ということらしいと大地は感じた。
「ふうむ。逃げおおせる自信は持っていたんじゃないかって気がする」
「それに、向こうが少しばかり単純だった気がしないでもない」
決して嘘を言ったわけではないシャルジュの言葉に、追手は簡単に誘導されたことを思い出し、大地が付け加えた。
「なるほど。その後、たまたま目的地が同じで一緒に酒館に向かったと、そういうことですね」
女性がこの美しい男に対してほぼ真実を告げていたのは間違いなさそうだった。
ならば、話を聞いたうえで、彼女の立ち位置というのか、立場というのかをイリアは測りたかったのだろう。あの女性が、あるいは女性の言葉が信頼に値するのかどうか。それを確かめたかったに違いない。
「ああ、そうだ」
表情を見る限り、あまり大っぴらに言えないことを言わずに済んで、ランスが内心ほっとしているのかどうかは大地には想像もつかなかったが、とりあえず大地たちに火の粉が飛んでくるわけではなさそうだ。
「わかりました。ありがとうございます」
ふと、ランスが今思いついたとばかりにイリアに向かって訊ねた。
「で、なぜ女装を?」
不躾な質問を敢えてするか、と大地は彼から視線を外した。
「仕事柄、これがお好みのお客様もいらっしゃるのです」
ほんの少しも気にすることなくむしろにこやかにイリアは答えた。
どうにも不思議な人物だ。ただの商人とは思えない。が、そうだとしても大地たちには関係のない世界だ。
「わたしはこれで失礼します。お時間を取らせてしまいましたね。ありがとうございました」
「どういたしまして」
ランスはそう言ってかしこまって礼をするイリアを送り出した。
二人きりになって、大地はランスに尋ねた。
「なぜすぐに彼の正体がわかったんだ?」
ランスが感情を伴わない視線で、ずいぶんと客観的にイリアを眺めていたことを思い出す。




