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 宿泊客だろうか。軽い会釈をして佇んでいるその前を通り過ぎようとしたときに、大地とランスに向けて声がかかった。


「少しばかり伺いたいことが……」

 およそ女性らしくもない声を隠そうともせずに言った美しい女性は、真剣なまなざしをこちらに向けている。


「俺たちに?」

 旅行者、あるいは余所者である自分たちにいったい何を訊ねるというのか、大地は言葉の端にいぶかしさを敢えてのせて訊ね返した。


「はい。あなたがたに」

 向こうから投げかけられたまなざしだけではなく、言葉自体に強い意志を感じた。


「で、何を聞きたい?」

 しばらく女性の姿を観察気味に見ていたランスが会話を継いだ。


「できれば室内で。あまり人には……」

 治安のいいことで定評のあるというこの国では、まさか詐欺やたかりでもないだろうに、見ず知らずの旅人に秘め事とはまたいったい、何を訊ねるというのだろう。


「聞かれたくない、か。ロビーではまずいのか?」

 ランスが言葉後を捉えた。


「はい。こちらかあなた方のお部屋かで、できれば」

 やはりこの宿の宿泊客だったのだ。


 男二人に女一人。彼女から()()()()意味での警戒という意識が、大地にはみじんも感じられなかった。


 つまりは真面目な話というわけだ。


「いいだろう。俺たちの部屋で、すぐそこだ」

 さすがにこの状況で女性の部屋を訪れるというのは気がひける。


 ランスの判断が大地と同じだったことにほっとする。


「感謝します」

 その言葉を聞くか聞かないかのうちに、ランスは先に立って部屋へと向かった。


 部屋に入り、何か飲み物でもと勧める大地に、彼女はお構いなくと断ったうえで単刀直入に切り出した。


「昨夜隣の酒館でお会いしました」

 なぜ大地たちが選ばれたのか、理由が明らかになった。


「昨夜? 酒館にいた?」

 大地は女性に対してそこまで無関心ではないはずで、人目を引くこの美貌を昨日自分は見過ごしていたのか、それともこちらからは見えない場所にいたのだろうか、と思いを巡らせた。


「正確には見ただけ、ですが」

 大地とランスと二人をまっすぐに見て、彼女は言葉を補正した。


「ああ。逃亡者と一緒にいた」

 ──逃亡者? あの女性と?

「そうです。彼女のことについて知っていることを教えてください」

 大地は昨夜の店内のようすを思い浮かべた。


 ──彼女といたのは、美男子だったはずだ……、美男子……? まさか!

 そして、この人物があの彼だというならさっきも劇場で見かけたばかりだ。


 ──声。そうだったのか。

 初めて、大地は今目の前にいる人物が、女装の美男子であることに気付いた。注意してみると男性としては緩やかにも思えるが喉元に起伏がある。


 それにしてもランスはちっとも驚いたふうがない。なんならすでに知っていたとでもいうような受け答えだったではないか。


 彼の見事な変身ぶりにすんなり女性と思ってしまった大地は、微妙な感覚に囚われるのを感じた。


「そう来たか」

 ランスがにやりと笑みを見せた。


「差し支えなければ、彼女と会った顛末をお聞きしたいのです」

 彼の眼はまったくもって真剣だった。


 

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