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 店内はシャルジュに言わせると、普段とはまるで雰囲気の違うざわめきに満ちていた。王家の血筋を引く者がしでかしたことが、果たしてまつりごとを揺るがすような大きな事件なのかどうかは大地には判断がつかなかったが、このようすを見るに人々の興味を掻き立てる格好の話題なのには違いない。


「注文は俺に任してな」

 明るい口調でシャルジュはメニューを適当に選んだ。


 ランスも大地もそうしたやり方にすっかり慣れて、それに決して外れのない選択をシャルジュはするものだから、安心して任せることができる。


「どうだった?」

 大地がタレスターフの言語でランスに小声で訊ねた。


「大して変化はないとさ。ただ兵士たちのいる場所は崩落の懸念があるというのは間違いないようだ。調査とも訓練とも、どうも中途半端な行動をとっているらしい」

 少しばかり早口でランスはエスネムからの情報を伝えた。


「そうか。令嬢の私兵たちのようすは?」

「しっかり足止め食らってるとさ」

「ふうん。歴史的事変にでも発展するのかな」

「さあ、どうだろうな。とにかく静観するに限る」

 ランスは極力関わりを避けたい意向を示した。


「ねえ、お兄ぃさん方、ナイショ話は終わった?」

 シャルジュが屈託のない笑顔で訊ねる。


 初めて聞いたであろう外国語は、シャルジュに特別な思いを抱かせるほどではなく、自分には理解できない言語での内輪話にしか過ぎないようだ。深く追求しないということも、おそらくシャルジュは経験の積み重ねによって習得したのだろう。


「ああ、注文は済んだ?」

 ランスが翻訳アプリの発話モードをオンに戻して気安く訊ねた。


「うん。ここの一番を頼んだからご期待あれだ」

 テーブルの水差しから、グラスに水を注ぎ分けながらシャルジュは言った。


 店内の情報は停滞気味で、新しい情報は入って来てはいないようだ。あちらこちらで分析やら予想やらが始まっている。


 店を出て行った者、新たにやってきた者、入れ替わりはあったが、大地たちの食事が終わるまでには情報の更新はなされなかった。


 会計をシャルジュに任せた時になって、客の一人が大地たちに声を掛けてきた。


「旅の人。あんたたち、さっき劇場にいなかったかい? 公爵令嬢のすぐそばにいたっけ」

「……?」

「なんか、気ぃつかんかったか? 令嬢は白黒どっちだと思う?」

 その者も観客として劇場にいたのだろうか。興味津々を満面に浮かべている。情報の滞留にしびれを切らしてでもいるのか、何でもいいから知りたいという思いがあふれて見える。


「ああ、この人たちは何にも知らねえよ。さあ、もう帰るんだ。ほっといてくれ」

 気を利かせたのか、シャルジュが軽く男をいなした。


「ったくよう。つかえねえな」

 まあ、そんなもんかという程度の苦い笑みを見せて男はあっさりと引き下がった。


「どうする? 今日はなんか、一日こんな感じな気がするよ」

 シャルジュが歳のわりには思慮の深い一面を見せた。


 このまま街の中にいても、あちらこちらで同じ話題で持ち切りだろうし、もしかしたら今の男のように何かしらを聞きにやってくる者がいないとも限らない。遠くへ行くには中途半端な時間だ。


「そうだなあ。もう今日は宿へ行くか。明日、ようすを見ながら遠出でもしよう」

「俺も、その方がいい」

 ランスの素早い判断に大地も同意した。


「了解。じゃあ、なるたけ情報集めとくよ」

 シャルジュはしゅっと肩をすくめてそう言った。


 リーガスの宿の前で別れたあと、大地とランスが二階への階段を上っていくと、踊り場に一人、女性の姿があった。



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